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本人は「こんなのは軍政以来」と嘆くも=過激言動で極端な賛否両論を巻き起こすカエターノ・ヴェローゾ

10月30日のカエターノ・ヴェローゾ(Roberto Parizotti)

10月30日のカエターノ・ヴェローゾ(Roberto Parizotti)

 10月30日、このところ何かとお騒がせ続きの、ブラジル音楽界の大御所で国際的スターのカエターノ・ヴェローゾ(75)が、ホームレスの人たちによる不法占拠地域で開催する予定だったコンサートの中止命令を出された。

 これを不服としたカエターノが、再び問題発言を行い、新たな騒動を引き起こしたが、彼の言動を巡っては現在、世論が真っ二つに割れている。

 この日のコンサートは、サンパウロ市に隣接するサンベルナルド・ド・カンポ市のプラナウト区で、午後7時から行われるはずだった。

 会場は、ホームレスの「土地なし労働者運動(MTST)」が2カ月前に不法占拠し、何百ものテントを張って生活している場所で、カエターノが立つはずのステージもにわか作りの木造。安全性は保証されているとは言い難いものだった。

 サンベルナルド市の地裁判事は安全性が保障できないとの検察局の見解を受け入れ、コンサート中止を命じ、従わない場合は50万レアルの罰金を払うよう求めた。

 名目上、コンサート自体は中止されたが、これを不服としたカエターノは、会場に赴き、MTSTの人々との交流を行った。カエターノは取材陣に「コンサートで歌うのを禁じられたのは(1985年に)民政復帰後初めて」と発言。その言葉がすぐさまブラジルのメディアを駆け巡った。

 もっとも、カエターノがこのような言動を行うのはここ数年ずっと続いていることだ。

 2016年の前半、ラヴァ・ジャット作戦により、カエターノ自身が熱烈に指示している労働者党(PT)の不正が続出し、ルーラ前大統領が収賄疑惑で逮捕されるのを防ごうとしたジウマ大統領が、ルーラ氏の官房長官就任を強引に推し進めた。それが結果的にジウマ氏の大統領罷免の遠因になった際も、「こんなのは連邦政府の裏切り者たちが仕組んだ罠だ。1964年の軍事政権の直前がまさに同じような感じだったんだ」と、「大統領罷免陰謀説」を唱えた。

 ブラジル国民の大半はカエターノの言動を支持しなかったが、カエターノ自身の人気や知名度も手伝い、国内のPT支持者や国外の左翼系芸能人からは支持された。国外の報道では、ブラジルであたかも本当にクーデターが起こっているように曲解された報道が行われる一因にもなった。

 2016年以降のカエターノの言動は過熱する一方で、それに対して賛否両論が出ている。

 評判が良かったのは、リオ地裁の判事が汚職企業家に逮捕命令を出した際、現在の連邦政府寄りで、このところ、マイナスの評価が増えているジウマール・メンデス最高裁判事が、自分の身内の関係者でもあった企業家に人身保護令を出し、釈放したのに対し、抗議運動を起こしたことだ。

 だが、隣国ウルグアイで、同国内でも賛否が分かれていた大麻の薬局販売がはじまった際、ネットを通じて大麻解放運動を行った時や、サンパウロ現代美術館で裸の芸術家がパフォーマンスを行い、少女が身体を触った件で、児童虐待を叫んで反対した人々に向かって「芸術や表現の自由への侵害だ」と反論して、擁護派のリーダーとなった時は、賛否が割れた。

 カエターノは、彼の元夫人でマネージャーのパウラ・ラヴィーネ氏の意向で動いていることもたびたび指摘されている。カエターノ自身は大麻を吸わないのに大麻運動を行っているのも、彼女が主導したためだ。

 また、カエターノが2013年にシコ・ブアルキやジルベルト・ジルなどの大御所歌手を集め、「伝記を書く際には本人の許可を」という運動を起こし、「アーティストたちによる検閲運動だ」と批判された際も、かねてから「敏腕だが金にも汚い」との悪評を受けていたラヴィーネ氏が主導したものと目され、話題になった。

 ブラジル音楽界のひとつの文化革命となった60年代のトロピカリア運動をはじめ、同国の音楽史に多大な影響を与え、国際的にファンも多いカエターノ。だが、やや行き過ぎで、時として焦点や論点のずれることもある彼の言動、とりわけ「軍事政権」という言葉で現状を批判し、煽る態度は、反PT派、さらにPTスキャンダル後に右傾化した人たちの態度を硬化させ、左翼に対する格好の攻撃対象となるなど、強い逆効果も生み出しているのが現状だ。

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