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ブラジル医療業界最強のやり手が狙う友好病院

Rede D‘Or創立者で富豪のジョルジ・モル・フィリョ氏(2016年2月1日付UOL電子版記事)

Rede D‘Or創立者で富豪のジョルジ・モル・フィリョ氏(2016年2月1日付UOL電子版記事)

 サンパウロ日伯援護協会の与儀明雄会長に直接、「救済会のような伝統的な福祉団体を潰していいのですか? 援協はもっと恵まれない移住者の支援ができないですか」という話をぶつけてみた。
 すると「日本移民の路上生活者の保護を、援協は最近あまりしていないように一般では思われています。ですが、実は毎月約100万レアルを恵まれない日本人のために使っており、きちんと理事会で報告されています」と答えた。
 「身寄りない人があちこちで保護された場合、日本人だからと言って援協に連絡が来ます。多くの場合、精神的に問題があり、援協施設には預かれない。そうなるとブラジル人施設に預けて、援協がその費用の面倒をみることになります。そういう人だけで20数人います。援協施設に入居している人でも、費用全額を負担していない人も多い。入園者には『4千レアルも月々払わされて高い』と文句を言われる方もいますが、実費は7千レアルかかっているケースもある。そういう負担を合計すると月100万レアルになるのです」という。
 日本政府からの保護者金は年間63万レアル程度で、「毎月の福祉経費の6割にすぎません」とか。この100万レアルが、大黒柱・日伯友好病院の利益から回されている。
 与儀さんは「一人居なくなったら代わりに一人いれる。それが精いっぱい。やみくもに保護していくと援協の財政が傾きます。バランスが難しいんです」と言葉を結んだ。
 その友好病院を担当する第一副会長の井上健治さんにも聞いた。すると順風漫歩な経営かとおもいきや意外な話が…。
 「援協は今では『職員数2千人を擁する南米最大の日系団体』とか言われますが、ブラジルの病院としてはぜいぜい中規模。昨年、今年と続けざまにブラジル最大手の病院チェーン(Rede D‘Or)が友好病院へ買収交渉に来ました。今年は社長自らが。一歩間違えれば、コチア産組や南米銀行のようなことになってもおかしくない、舵取りが難しい時期なんです」との危機感を持っている。

Rede D‘Orからの申し出をきっぱり断った与儀会長

Rede D‘Orからの申し出をきっぱり断った与儀会長

 Rede D‘Orは傘下に37病院を持ち、手術用ベッド5200床、契約医8万7千人というブラジル最大の民間医療グループ。17年3月20日付フォーブス誌電子版によれば、創立者のジョルジ・モル・フィリョ氏の個人資産はなんと32億ドル(3383億円)。ブラジルで13番目の資産家だ。その社長自らが友好病院の買収に乗り出してきている。
 つまり、本気だ。
 井上さんは「もちろん、与儀さんは断りました。ですが経営状態が悪くなれば、いつ…」とも。友好病院がいま高い利益率を誇っている理由は二つ、公益団体登録を維持して免税であること、そして国が運営する統一医療保健システム(SUS)を受け入れていないことによる。SUS患者を引き受けると、その経費は国が負担することになるが、経費に全く見合わない微々たる負担しかせず、しかも支払いが常に遅れる。受け入れ始めると経営は一気に悪くなる。
 とはいえ通常、SUSを受け入れないと公益団体登録は出ない。援協は苦肉の策で、サンミゲル・アルカンジョに別のSUS病院を作るなどの対処をして、友好病院の良好な経営をなんとか維持している。
 井上さんは「もし公益団体登録が抹消されて税金を払うことになったら、友好病院は一気に赤字かも。かといってSUSをやっても大変なことに。非常に難しい時期。それに医療分野はすごく競争が厳しい時代です。どんどん巨大医療グループの病院ばかりになってきている。南銀が買収された時と一緒…」とため息をつく。
 そんなブラジル医療業界最強のやり手が、虎視眈々と友好病院を狙っており、もしも経営面で何らかの弱点が現れようものなら、襲い掛かろうと待ち構えている。
 「どんな意地悪な競争相手が現れて、僕らが思いつかないような手で陥れてくるか分かりません。まさに生き馬の目を抜く世界です。困っている人をすべて受け入れていたら、すぐに援協は赤字になって経営が悪化する。支援はすべき。でも、そのバランスが難しい」と腕を組んだ。救済会のために援協の方がつぶれてしまうのでは本末転倒だ。
 とはいえ、救済会の将来は、援協経営陣の「温情ある理性的判断」にゆだねられている。(深)

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