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どこから来たの=大門千夏=(57)

 ショーウィンドウの中を見ていると、時には何だろうと分からない物がある。「おじさーん」と呼んでみるが、主は本を読みながらチロリと上目使いにこちらを見て、すぐにまた本に目を移してしまう。
 しかしこれは子供だからでもないらしい。
 大人のお客が来て「すみませーん。これはー」と問いかけてもチロリ。聞こえないふりをして読書している。
 どこの店だってお客が来ると、ハイいらっしゃいませとニコニコ店主が出てきて、その上お世辞まで言うのにそれがどうだろう。骨董屋ってのはお客が来てもうるさそうにして返事もしない。読みたいだけ本を読んでいる。こんな商売はどこにもない。子供心にいつも感心して、憧れさえもって見ていた。
 今に私も骨董屋をしながらシャンデリアの下で存分読書をする。いつの間にか我が人生の夢、希望になってしまった。
 それから三〇年後、私はブラジルで骨董屋を始めた。もちろん頭上には安物のシャンデリアを下げた。これを見上げるとすっかり骨董屋気分に浸れ、満足至極。この下で充分読書をした。
 ある時、ブエノス・アイレスの街で中国の陶器の皿を買った。
 「明朝時代のものです」と店主は言ったが、もちろん本気にはしていない。中国の品は自分にとって専門ではないし、もともと中国製というと偽物が大氾濫している。しかしこの陶器の皿はいかにも古めかしく、かつ美しい。
 二〇×一五㎝で、その周りには二㎝幅のレースがついたように透かし彫りになっている。いかにも手作り、と言った塩梅に皿の表面はでこぼこ。地は薄いベージュ色、皿の周りに薄い水色と茶色で小さな唐草模様が描いてある。めずらしく一目ぼれをしてしまった。
 一枚は完品、もう一枚はひびが入っている。両方で七五〇ドルというのを五〇〇ドルに値切って、売れる自信はなかったが、それにしても五〇〇ドルも価値があるのかなー、まあ売れなくてもいいや、ともかく気に入ったんだから――時には遊び心も必要よ、と自分に弁解しながら買った。
 店主は「いい買い物だ、これは良いものだ」と何度も何度も撫でまわし、独り言を言いながら包んでくれた。
 もって帰ってわが店に並べたが、やっぱり売れないどころかだれも見向きもしない。毎朝、売れないと嬉しいような情けないような、この美に共感を持たない人ばかりだと思うと、やっぱり私の審美眼も大したことないのかと気が滅入って来る。
 三ヵ月たったころ、友人の骨董屋のM氏がわが店に来た。そしていきなりこれを手に取ると「明時代のもの? うんそうだね」そう言いながら撫でまわし、「ああ、これにひびが入ってなかったらなーアア残念だなー良い皿なのに…いくらにしてくれる?」そういいながら自分で包んで、お金を払って持って帰っていった。嬉しいような寂しいような、でも三〇〇ドル儲かった。あの頃はサンパウロ―ブエノス・アイレス往復の飛行機代が二〇〇ドルという時代だった。私のホホは充分ほころんだ。
 それから二ヵ月して、またM氏が来た。
 「あの皿、ロスアンゼルスの骨董屋に売ったよ。二四〇〇ドルで売った。そうしたらあいつ別の骨董屋に五五〇〇ドルで売ったそうな。本当だよ。きっとニューヨークの骨董屋にだと思うよ」
 「まさか!」私は絶句。

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