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戦後に生まれ、平成で熟した団塊世代の終活=ヴィラカロン在住 毛利 律子

映画『エンディングノート』のサイト

映画『エンディングノート』のサイト

 第2次世界大戦が終わった1945年から1952年ごろの間に、世界的にベビー・ブームという現象が起こり、北米、欧州、オセアニア、日本など、世界各国でたくさんの子供が生まれた。アメリカではこの時期に生まれた子供(ベビー・ブーマー世代)は7820万人。日本では、この現象を「団塊の世代」(堺屋太一の造語)と言い、焼け跡世代(あるいは戦中生まれ世代)の次の世代で、1947年(昭和22年)~1949年(昭和24年)生まれとしている。
 実に、この3年間の各年間出生数は260万人を超え、3年間の合計出生数は約806万人にのぼり、2017年の出生数94万6060人の約2・8倍という驚異的出生率である。厚生省の医療制度上の区分では、前期高齢者になる。(厚生労働省統計、人口推移)
 思えば当時は、どこもかしこも子供で溢れていた。小中学では一クラス50人以上の人数が十何組もあったし、朝礼では校庭の端まで生徒が並び、運動会の賑わいはたいへんなものだった。
 この世代は、日本経済においては戦後復興の高度経済成長や、バブル景気を経験した。昭和時代は青春を謳歌し、平成時代は熟年齢に達した。長く続いた平和な時代のお陰で未曽有の超高齢化社会となり、様々な制度が整備され、その恩恵に浴している。
 
▼団塊世代が直面する終活の厳しさ

 高度成長期の中で元気よく生きてきた団塊世代は今、「終活」の時期にいる。「終活」とは「人生の終わりについて考える活動」を略した造語で、2009年に出版された本をきっかけにして徐々に広がりはじめ、2011年に公開された映画『エンディングノート』などで社会現象になった。定年退職した「団塊の世代」は、終活を行うことで、自分の状況を客観的に把握し、整理する。「死」までの余生に、遺された家族に負担をかけないために、事前準備としての現実的な身辺整理をしなければならない。しかし、これには想像以上の物理的、精神的な困難が待ち受けているようだ。
 それでは「終活法」について、多くの情報から、次のように要約して紹介する。

▼身辺に溢れた「もの」の整理

★身辺に溢れた「もの」をどう整理するか。
 集めに集めた新聞、週刊誌記事のスクラップ、映画のパンフレット、音楽カセットテープ、CD、VHS録画テープ、レコード、そして膨大な家族写真、家電用品、骨董品、古道具、家具等々。桐のタンスにぎっしり詰まった、たとう紙に包まれた着物や帯。買い物依存症という魔病に罹って、ひたすら買い漁った有名ブランドのバッグや洋服など。また、2000年以降に本格化したコンピューター時代には、パソコンの中にたくさんのことを溜め込んだ。このようなデジタル遺品などは、一発消去をしてくれるところに依頼する方法もあるが、ほとんどは持ち主が健在なうちに処分するしかない。哀しいことだが、「自分のコレクションは他人のゴミ」と諦めるしかないのである。自分の生活の豊かさを表した品々は、買い集めた本人が涙を呑んで処分しなければならないのが、終活の第一段階である。
★「蔵書の処分」について。
 これも大変なことらしい。評論家の立花隆氏は20万冊を超える蔵書があるという。著名な文筆家は数万、数十万の蔵書があるというが、それらの本は何処に収まるのであろうか。私の知人に植物学の名誉教授がいた。その先生亡きあと、奥様とお弟子や大学関係者、市の図書館関係の人々は、丸三年かけ、連日先生宅に籠って蔵書、標本、論文等の整理に取り組んだ。奥様は、全てが終了したのち、疲れで一年ほど入院生活を送ることになった。
★勢いで建てた豪邸は、「減築」しなければならない。
 そうでなければ早々と売って、アパートか老人ホームに引っ越しする? なんとも遣りきれない話である。
★法的効力を持つ遺言書と自分史的なエンディング・ノート
 エンディングノートは市販でも、自作でもよい。法的効力は無いということをまず知っておこう。
 記載することは、
【本人情報】名前、生年月日、血液型、住所、本籍地
【自分史】学歴、職歴、結婚、出産、夫婦の記念日、マイホーム購入時期、歴代のマイカー紹介、職場での功績、馴染みの土地、幼少期から各年代の思い出、特技、趣味など
【関係する人物との間柄や連絡先】家族、兄弟、親戚、同居していない家族、養子、家系図、友人、知人、職場関係者、恩人、法的関係の相談者など
【財産について】預貯金、口座番号、公共料金などの自動引き落とし情報、クレジットカード情報、基礎年金番号、各種加入保険、株式、不動産、借入金やローン、骨董品、貸金、有価証券や金融資産など
【介護や医療について】
希望する介護や医療施設、費用、後見人(財産管理などを任せられる人)、延命措置の詳細、臓器提供、介護や治療方針の決定者、医療カウンセラーなど
【葬儀について】喪主に頼みたいこと、宗派や宗教、戒名や法名、葬儀業者や会場、遺影写真、参列者リストなど
【お墓について】埋葬方法、希望墓地、購入費用、墓地の使用権者、墓地の継承者、手入れ、お供え物など
【遺言書について】遺言書は財産の処分方法、遺産相続や子どもの認知といった法的効力があるものに限られる。自筆遺言の場合はたとえ夫婦であっても、家庭裁判所以外死後の開封はできないし、医療・介護などの生前についての希望も記せない。遺産分割の内容、遺言書の有無、相続リスト、それらの保管場所など冷静に判断して記載する。
    ☆
 超高齢化社会となった日本は今、「多死社会」でもある。自分の持ち物は全て処分した。葬式も簡単で好い。お墓も要らない、という感情的な考え方に走らず、落ち着いて「死」をめぐる現実的問題をしっかり見据えていかねばならない。
「生きている者には、時に先祖と死んだ者が必要である」という言葉がある。ある調査では、「私は死んだら無」と考える人でも、「大切な人の死は無ではない」、「亡くなった人はいつまでも自分を見守っている」という矛盾した感覚を持っていることが明らかになった。
 故人を忘れず、いつも見守ってくれているという感覚は、遺された人が生きるための大きな原動力になるということである。葬儀にしても、お墓にしても、何事も多様化した現代ではあるが、誰もが安心して死を迎えるためにも、今のうちに出来ることを果たさねばならない。
 自分らしい終活ができたら、「画竜点睛(物事をりっぱに完成させるための最後の仕上げ)」と自分を褒めてあげよう。

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