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『百年の水流』開発前線編 第四部=ドラマの町バストス=(31・終)=外山 脩

未だ投げ出してはいない

 

バストス日系文化体育協会

バストス日系文化体育協会

 バストスの文協の正式名称はバストス日系文化体育協会という。会長の海老沢さんは、地元の人からは「グアタパラさん」と呼ばれている。バストス生まれではなく、35年前、グアタパラから移って来た。それで、そう呼ばれるようになった。ブラジル移住は1964年、6歳の時だった。

 2017年、会長に選ばれた。その少し後、筆者が電話取材で、何気なく「選ばれたのは、何か特別の使命があってのことですか?」と訊ねと、即座に、こういう返事が跳ね返ってきた。

 「イヤー、とんでもない。ほかに引受け手が居なかっただけです」

 その後で、グアタパラさんは、バストスの概況を、こう説明してくれた。

 「バストスの日系人口は4千~5千で、内1千は日本に働きに行っていますが、向こうに根を生やしており、もう戻っては来ませんナ。日本に行かない者も、地元バストスの中学を出ると、高校以上は他の大都市の…ということになる。卒業後は帰らない。帰るのは家業(グランジャなど)の跡取りくらい。他所の土地で働いていてアポゼンタして帰ってくる人が少し居るが…。

 一方、グランジャの規模が拡大、非日系の労働者が、ドンドン他所から入ってきている。

 日系人口は減り、非日系は増えている。今後も日系の比率は減って行く。

 文協は、活発に動いている部門もあるが、総合的に観ると、活気は弱まりつつある。日系住民の文協活動への参加者は、5分の1くらい。しかも高齢化している。婦人部などは、一番若い世代が60代の二世。二世まではつなぎ止められるが、三、四世となると無理。無理が丸見え。

 日系社会は福祉面でも問題を抱えている。75歳以上の老人が600人もおって孤老が多い。しかも保護が必要な人が少なくない。これも、なんとかしなければならない」

 斯く慨嘆しながらも、グアタパラさんは投げ出しているわけではなかった。

 「来年は、バストス移住地開設90周年。なんとか日本文化を少しでも残す仕事をしたい。日本語教育を幼児から始めることを研究している。野球、柔道の普及を図るための工夫もしている。野球、柔道は少年非行化の防止に役立ち、治安の改善にもつながる。

 野球は6歳くらいから指導している。野球をやった子供は道を外れない。だからファベーラの子供も受け入れている。ウチの子供も…という頼みが多いが、現在は新規に入れる余地がない。なんとかしたい。世論を盛り上げるため、90周年の記念行事として、日本の早稲田大学のチームを招き、バストスとオール・ブラジルのチームとの親善試合を催す。

 柔道は道場の維持・管理費が不足している。最近ここの道場も登場する映画が制作された。出演者の一人が、その不足を知って寄付してくれ、助かった。今は継続的に費用を捻出する方法を捜している」と抱負を語っていた。

 因みにバストスの野球チームは往年、全伯大会で大活躍をした。柔道は、ブラジル最大と言われる道場がある。馬欠場卯一郎さんが師範をしている。オリンピックで銀メタル、銅メタルをとったチアボ選手は、この道場で育った。2018年11月、90周年の記念行事の結果について、グアタパラさんに問い合わせると、こういう答えだった。

 「日本移民110周年も兼ね、色々な行事を催しましたが、お陰様で総てうまく行きました。卵祭りの会場は、規模を例年より50%大きくしました。養鶏家の方々が協力してくれたお陰です。

 参加者は20%増えました。

 野球は、バストスだけでなく近くの人々に本当に喜ばれました。早稲田大学野球部の皆さんの協力、ブラジル野球連盟の大塚会長の後押しで、実現できました。

 文協会長になった時は、あまり乗り気ではなかったんですけれど、90周年の節目の年に、やらせて頂き、本当に良い人生経験になりました」

 なお、日本語学校の生徒数は2019年に70人に増やしたいという。

 グアタパラさんの話には、明るく前向きの意欲が感じられた。

 以上、ドラマに満ちたバストスの現在と歴史をザッとスケッチしてみた。

 この国に日本人が造った植民地、移住地の数は数百ともそれ以上ともいわれるが、殆どが消えてしまっている。数カ所残っているだけだ。

 その一つであるバストスが10年後の100周年に向けて、どの様な歴史を形成して行くのか…興味深い。(終)

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