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生き残りを模索するニッケイ新聞

ポルトガル語週刊新聞「Jornal Nippak」

ポルトガル語週刊新聞「Jornal Nippak」

 日本移民の日の特集号に掲載した「サンパウロ新聞廃刊の経緯」には、日本側を含め、各方面からたくさんの反響が寄せられた。それだけあの廃刊は大きな衝撃を与えたのだと痛感した。
 と同時に、「ニッケイ新聞はどう生き残るつもりなのか。戦略を説明しても良いのは」という意見も頂戴した。襟を正して、今までやってきたこと、今後やるべきことを読者に説明する必要を感じた。
 本来なら経営陣が会社の方針を表明すべきだが、社長は病気療養中の身でもあり、編集部として分かる範囲で説明してみたい。
 では、ニッケイ新聞はどう生き残るのか?
 日本語の「ニッケイ新聞」という新聞を発行しているのは、Editora Jornalistica Uniao Nikkei Ltda.という会社だ。この会社には、ポルトガル語の週刊「Jornal Nippak」(以下、Nippak)という、もう一つの独立した購読紙がある。これがポイントだ。
 基本的な方針は、ニッケイ新聞の読者がどんどん高齢化して減っていく分、Nippakの若い読者を増やしていくことだ。日本語読者は自然減しているが、ポ語読者の方は増えている。そのニッケイ新聞読者が減るスピードよりも、Nippak読者が増える方が勝れば、会社としては生き残っていける。
 今はまだニッケイ新聞の方が収入の大黒柱だが、これを数年以内にNippakに入れ替えることが肝要だ。Nippakが収入の大黒柱になれば、ニッケイ新聞を支えてくれる存在になり、日本語の方も生き残れるという戦略だ。
 その過程でニッケイ新聞は、現在の印刷版中心の在り方からインターネット版に徐々に切り替わっていくだろう。

ネット媒体としての役割に比重を移す日本語版

 インターネットに比重を移す準備作業は、数年前から始まっている。
 とはいえ、今もニッケイ新聞は印刷版が収益の中心であり、そうである間は今まで通り日系社会ニュース(7面)に比重を置く。だが、インターネット版に徐々に比重が移るに従い、ブラジル社会の政治・経済ニュース(2面)が中心になっていく。
 すでにお気付きの読者も多いだろうが、ここ数年来、ブラジル社会のニュースや解説記事を増やしてきたのは、そのバランス変化の影響だ。インターネット読者がどんどん増えてきている。ニッケイ新聞サイトの閲覧者の8割が日本在住者であり、毎日1万ページ前後の閲覧がある。
 ニッケイ新聞の現サイトの「いいね」ボタンはプログラムの不調でなんども初期化されてしまい、ここ1年分ほどしかデータが残っていない。

最近のニッケイ新聞サイトの記事で一番「いいね」ボタンが多く、2400を記録した4月27日付記事《日系五世の高校生が堂々の祝辞=天皇陛下御即位30年式典で》

最近のニッケイ新聞サイトの記事で一番「いいね」ボタンが多く、2400を記録した4月27日付記事《日系五世の高校生が堂々の祝辞=天皇陛下御即位30年式典で》

 最近の記事で「いいね」ボタンが比較的多くされたものを列挙する。
★【いいね=2400】《日系五世の高校生が堂々の祝辞=天皇陛下御即位30年式典で》2019年4月27日(https://www.nikkeyshimbun.jp/2019/190427-71colonia.html
★【いいね=1100】《JRパス=「狙い撃ちするな!」と怒りの声=在外邦人だけ来年末で終了》2019年2月19日(https://www.nikkeyshimbun.jp/2019/190219-71colonia.html
 実際にそのページを見た人の数は、「いいね」数の10、20倍いてもおかしくない。

ヤフーニュースで読む読者が激増

 ネット読者の多くは、ブラジルのニュースを読みにきており、コロニアのニュースは補足的なものになっている。
 それもあってネット上では、ブラジル社会記事の政治・経済の一部を有料にしている。この有料読者は、主に企業駐在員、日本のブラジルと取引のある企業関係者、ブラジルに関係した部署に務める公務員、大学研究者などだ。有料読者は日々増えている。
 というのも、ブラジルに関する広範な速報を週5日間、毎日平均5~8本も日本語で報じているのは、世界でもニッケイ新聞だけだ。その強みを生かして、日本へのブラジル情報発信をもっと太いビジネスにしていくことで、日本語ニュース媒体としては生き残っていく戦略だ。

ヤフーニュースのトップページ入り(トピックス)をし、95万アクセスを記録した記事《サンパウロ市地下鉄5号線=レール幅異なる客車26両購入で200億円以上の損害》

ヤフーニュースのトップページ入り(トピックス)をし、95万アクセスを記録した記事《サンパウロ市地下鉄5号線=レール幅異なる客車26両購入で200億円以上の損害》

 すでにヤフーニュースへの配信をはじめており、この威力は大きい。ヤフー上では驚くなかれ、弱小ニッケイ新聞が、天下の大手新聞とまったく同列だ。
 ヤフー上で現在までに一番アクセスされた記事は★《サンパウロ市地下鉄5号線=レール幅異なる客車26両購入で200億円以上の損害》2018年4月20日で、ヤフーニュースのトップページ入り(トピックス入り)をし、アクセス数は95万を超えた。
 公称発行部数1万5千部というブラジルの日本語コミュニティペーパーの記事が、ヤフーニュースという大きなポータルサイトに掲載されることで、とんでもない読者を抱えることになる。
 そのほか★樹海コラム《急に「日本の誇り」と言われても》(2018年9月14日)も68万アクセスだった。
 同じく★樹海コラム《ブラジル女子柔道 ラファエラ・シルバの金メダルは日本の勝利でもある》(2016年8月13日)も36万アクセス超え。
 ★《大統領候補のボウソナロ氏刺される ミナス・ジェライス州でのキャンペーン中》(2018年9月7日)も事件の2時間後に記事をいち早く配信したので、トピックス入りして33万アクセスとなった。
 ★《ベネズエラ国境封鎖で邦人女性足止め=ロライマ山観光登山の帰り=大使館員が保護に急行》(2019年2月27日)もトピックス入りして、26万アクセスを記録した。ここに挙げきれないが、かなりの頻度で10万アクセス越えをしている。
 現在の時点でもニッケイ新聞の読者は、紙で読んでいる人よりネットを通して読んでいる人の方がかなり多い状態だ。
 とはいえ、今でも収入の主軸は紙の購読者からの購読料収入だ。
 ニッケイ新聞としては、ネットを通してどう収益を上げていくかが、最大の課題といえる。

育ってきた本出版事業

 ニッケイ新聞としては、新聞以外に書籍の出版事業も本格化させてきた。日本側では2014年から秋田県の無明舎出版と協力して、すでに3冊の日本語書籍を出版している。いずれも好評で、日本側でブラジル日系社会への認識を広める一助になっている。
 同時に、メルマガ『国際派日本人養成講座』主宰の伊勢雅臣さんからの多大な協力を得て、ブラジル側でも2016年1月から日ポ両語のシリーズ本『日本文化』を出版しはじめ、最新号の眞子さま写真集で第9号を数えた。すでに第10号の準備も進んでおり、今年中に刊行される予定だ。
 このシリーズ本以外にも翻訳本を出してきた。今現在も、世界から愛されている日本の優れた工業製品を紹介する本『日本のもの』(「ニッポン再発見」倶楽部著、三笠書房)の翻訳本を刊行すべく鋭意努力中だ。
 将来的には、ポ語による「日本の歴史」の出版も手がけたいと考えている。ポ語で正しい日本文化や日本の歴史の本を、若い日系世代やブラジル人が手軽に手に取れる状態にしておくことが、邦字紙に残された使命ではないかと考えるからだ。

次代の大黒柱「Jornal Nippak」

 次世代の大黒柱は文句なしにアウド・シグチ編集長が指揮するNippak紙だ。
 同紙のサイトは昨年4月に作り直してゼロから発進したので、それ以後の記事しか残っていない。ただし、あっという間に目覚ましい注目を集めつつある。
 コミュニティの出来事が中心の印刷版より、さらに多様な内容をサイトには掲載しているのが特徴だ。
 日本の文化、歴史、漫画なども盛り込み、もっとブラジル社会全般向け、日本文化ファンにも読まれるようなサイトを目指している。シリーズ本『日本文化』に掲載された内容を、Nippakサイトにも掲載することで、より幅広い層に日本の良さを伝えられればと考えている。
 今のところサイト上で一番「いいね」ボタンが押されたのは《Casa Imperial confirma vinda da princesa Mako e divulga agenda》03 de julho de 2018(https://www.jnippak.com.br/2018/casa-imperial-confirma-vinda-da-princesa-mako-e-divulga-agenda/)だ。
 あっという間に3000を超えたが、残念ながら不調だったカウンタープログラムを入れなおしたところ、数字がゼロに戻ってしまった。
 その初期化以降、最近の記事でサイトの「いいね」が多かったのは《ANO NOVO CHINÊS: São Paulo dá boas-vindas ao Ano do Porco》07 de fevereiro de 2019(https://www.jnippak.com.br/2019/ano-novo-chines-sao-paulo-da-boas-vindas-ao-ano-do-porco/)で、1200を超えている。
 このように200~300超えは比較的に頻繁に起きている。
 その他、Nippakには広告媒体として価値が強まってきた。たとえば高齢者向けマンション売り出しの記事《Quer morar com amigos na Liberdade?》23 de maio de 2019(https://www.jnippak.com.br/2019/quer-morar-com-amigos-na-liberdade/)には、1200もの「いいね」が押されている。

バイリンガルが最大の強み

ニッケイ新聞から続々と刊行されているバイリンガル本『日本文化』(手前)と無明舎から刊行されている弊社著作

ニッケイ新聞から続々と刊行されているバイリンガル本『日本文化』(手前)と無明舎から刊行されている弊社著作

 フェイスブックは2種類、運営している。一つは、日本語・ポルトガル語バイリンガルの「Nippak/ニッケイ新聞」共同フェイスブック(https://www.facebook.com/Nippak.Nikkey/)で、23日現在のフォロアーが約5千人だ。
 それ加え、ポルトガル語のみのNippakフェイスブック(https://www.facebook.com/JNippak/)のフォロアーは約2500人いる。徐々にノウハウを蓄積しており、毎週それぞれ100人から200人ほどフォロアーが増えている状態にまでなってきた。このまま数年以内に10万人まで一気に増やしたい。
 フェイスブックからサイトに読者を誘導するのが、サイト読者を増やす一番、効果的な方法だからだ。
 このように本紙の強みは、日本語とポ語の媒体を両方持っていることだ。
 最近は日本国内のブラジル関連イベントの紹介も徐々に、ニッケイ新聞の紙面に入れている。たとえば、大阪市の日系人が経営しているブラジル豆の喫茶店、横浜にあるJICA海外移住資料館の行事、神戸の海外移住と文化の交流センターなどだ。
 今後さらに日本側のブラジル関連イベントをサイトやフェイスブックを中心に告知していくことも考えている。というのも、ニッケイ新聞サイトの8割は日本在住者が閲覧している関係で、実は日本側でこそけっこう効果があるからだ。
 日本の観光地をNippak紙を通してブラジル一般市民に紹介したり、逆にブラジルの観光地をニッケイ新聞を通して日本で広めることも可能だ。もっとこの可能性をいろいろ試さなくてはいけない。
 同様に、ブラジルで生産された商品を、日本語で日本の人に紹介することも可能だ。たとえば、ニッケイ新聞で紹介記事を出す本の多くは、聖市の太陽堂(livrariasol@gmail.com)や竹内書店(fonomag@uol.com.br)に入荷しており、そこに注文すれば日本へも郵送してくれる場合がある。
 ブラジル側で日本語対応のできる窓口を作れば、日本の消費者にニッケイ新聞が宣伝して、こちらから直接に販売することも不可能ではない。
 一方、日本の商品をポルトガル語でNippak紙から紹介して、ブラジルの消費者に紹介することもできる。
 日本側、ブラジル側にそのような商品がある企業は、ぜひニッケイ新聞およびNippakiを使ってほしい。
 たとえば、大空不動産と小林建設が進めている高齢者向けアパート建設事業は、4月から募集を始めて、すでに半分近い入居者が集まった。企画の良さに加え、大空不動産の販売力の強さと、ニッケイ新聞やNippak紙の宣伝力が相まって結果を出しつつある一例だ。場合によるが、一定の力は発揮するものと確信する。
 最後に、ニッケイ新聞の読者の皆さんにお願いがある。子や孫にNippak購読をプレゼントしてほしい。ポルトガル語版は週刊なので購読料は半年90レアル、1年170レアルと安い。
 コミュニティペーパーは日系イベントを地域に知らせるだけでなく、日系社会の共通認識、コンセンサスを作るという大事な役割を背負っている。ただの広報紙ではなく、新聞自体はもちろん、読者の意見も掲載することで、よりダイナミックなコミュニティ全体への働きかけができる。そんなメディアを残すために協力をお願いしたい。
 今年、アメリカ本土が日本人移住150周年を迎えているが、今のところあまり、国を挙げて祝っているという報道は聞かない。ブラジルでは百周年で盛大に祝った。150周年でも同様に国を挙げて祝われるように今から準備をしてもいいではないか。
 コミュニティペーパーは、立派な150周年を祝うためのインフラと言えないだろうか。
    ☆
 吹けば飛ぶような邦字紙だが、時代の流れから置いていかれないように努力はしてきている。だが、間に合うかどうかは分からない。
 Nippakのような独自のポ語媒体を作らず、日本語読者の減少とともにすんなり活動を辞めたサンパウロ新聞の潔いやり方は、ある意味、邦字紙の鑑であり、他山の石だ。
 だがニッケイ新聞は読者がいるかぎり、日本語印刷版を1日でも長く続けたいと考えている。そのためには、可能な限りの生き残り策を練り、実施することで読者の期待に応えたい。(深)

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