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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(172)

 独裁政治、新国家体制の崩壊により、選挙が再開されることになり、選挙説明のキャンペーンがいろいろな学校で行われた。熱心な候補者が投票者を確保しようとマッシャードス区にやってきた。なかのひとり、ジョゼー・サントス技師は市長に立候補していた。知名度が高くなってきた「アデマール医師の党」とよばれるアデマール・ペレイラ・バロス党首の社会進歩党(PSP)に属していた。サンマノエル出身のアデマール医師は、独裁政権のおり政府に任命されたサンパウロ州の知事で、今回、投票による知事選に立候補していた。
 正輝はパウロ・ラウロ弁護士からアデマールが臣道聯盟に関わっていた同胞のために尽力したことを知った。だから、ジョゼー・サントス候補の選挙運動に打ち込んだ。近所の人や友人を自宅に30人ほど集め候補を迎えた。それは陳情、口約が行き交う選挙運動そのものだった。
 正輝はいつもの政治論議をする集会とは一味違う雰囲気にしたかった。ジャカランダのテーブルに家にある形や色の違ったコップを並べ、その真ん中にいつものピンガとちがう飲み物を置いた。何日か前に町まで買いに行ったシックなフランス語の名前の飲み物だった。それはだれにでも見分けられる麦わらに包まれた特徴のある瓶だった。レッテルには「麦わらコニャック、大衆のコニャック」と書かれていた。長男のマサユキは自宅での集会をいつも注意深く観察するが、これまでこんな素晴らしい瓶を目にしたことはなかった。
 ジョゼー・サントス技師は他の候補者と大差で、民主化再開後の初のアララクァーラ市長に選出された。
 子どもたちの生活は変わることなくつづいた。マッシャードス小学校には3年生までしかなかったので、学業をつづけさせるには町の学校を探さねばならなかった。1946年、マサユキはカマラ広場のアントーニオ・カルバーリョ中等小学校に転校した。家族の農園から5、6キロ離れたところだが、歩いて往復できた。片道一時間以上かかった。
 アキミツはまだ2年生だったので、オウロ川とボア・エスペランサ街道の向こう側の家から1キロに満たない小学校に通っていた。ネナも同じ2年生だった。セーキは1年生で、数学ができず、読むのもたどたどしく、読み物にはまったく興味がなかった。勉強より小鳥を捕まえるほうが好きで、正輝は学問には全く適していないと思った。ミーチは勉強する年には達しておらず、ほかの子も彼よりさらに年下だった。
 正輝の目は上の二人の息子に向けられていた。どんな学科を習っているか、先生が下す学業評価の点数を知りたがった。できるだけ彼らと話すときはふつうに日本語を使ったが、妻との会話には沖縄弁を使った。だから、子どもたちは方言もよく理解できた。この時期から家でポルトガル語も使うようになり、ますます子どもたちの学校の成績に口を挟むようになった。
 上の二人は父親の期待を裏切ることはなかった。長男はマリア・ルールデス・アゼヴェード・サリーナ先生担任の4年生で、その年、クラス一番の成績で終了した。小学校卒業の年で、表彰のメダルをもらった。ほかのクラスでは津波元一の末っ子、ルイースがメダルをもらった。
 アキミツは違った生活のある町で勉強できる日が待ち遠しかった。毎月曜日、この辺には少ない新聞売店に「ガゼッタ・エスポルチーヴァ」紙が着くのを待ちわびる人たちで賑わう。みんなサッカー選手について、また自分が応援するチームについて早く知りたいからだ。

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