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今こそカーニバルの知的風刺精神は知られるべき

ボウソナロ大統領に扮するアジネッチ(Ronaldo Nina | Riotur)

 24日朝、コラム子がツイッターを眺めていると、突然、日本の知人から連絡が入った。「ポルトガル語で興味深いニュース記事をネットで見つけたのだが、言葉がわからないので教えてくれ」とのことだった。
 それはサンパウロ市カーニバルのデスフィーレ(パレード)で、エスコーラ、アギア・デ・オウロが披露した「原爆によるきのこ雲」についてだった。
 コラム子はサンパウロ市カーニバルは見ていなかったが、カーニバルの性格上、これが何を意味するのかはすぐにわかったので「ああ、これは平和を求めるパレードの反戦反核のメッセージだよ」とその場で伝えると、その答えが意外であるかのような印象の返答をされた。
 その知人の例だけでなく、他の日本人のこの件での反応も見てみたのだが、悪い言い方をすれば、「享楽的な裸踊りをするブラジルのカーニバルでモラルを忘れた行動を行なった」ような解釈をした人も少なくなかったようだ。だからこそ思った。「もっとカーニバルのパレードの真意はしっかり理解されるべきだ」と。
 カーニバルが来るたびに毎年書いているような気もするが、パレードで表現されるのは、ドンちゃん騒ぎではなく、社会に対しての主張であり、尊敬すべきものへの深い敬愛の念だ。参加している女性たちの肌の露出度を見て何を想像するかは自由ではあるが、根底にある精神性を見失うと、カーニバルの根本的な理解にはつながらないものなのだ。
 そんなカーニバルの精神性を知るのに今ほど絶好な時期はない。この傾向はここ数年、強くなっていたが、今年はとりわけ強く出た。
 その理由は現在の政治状況が生み出したものだ。カーニバルを語る際にもう一つ必要なことは、それが「社会的弱者の立場に寄り添ったもの」であるということだ。それはカーニバルの音楽サンバの起源が、19世紀までは奴隷の立場にあった黒人にあるためだ。
 カーニバルのみならずブラジル社会では今でも「社会的弱者」といえば「黒人、(田舎の)北東部、女性、LGBT」のイメージが強い。彼らの中で日常に強い不満があると、それぞれの社会的弱者が強い連帯感を示し、強烈な社会的主張に転ずるのだ。
 現在はとりわけボウソナロ大統領の治世。かねてから、女性やLGBT、黒人、先住民への差別心を隠さず、富裕層を優遇する政治を実践し、さらに独裁政治への希望を匂わすような言動も少なくない同氏は、社会的弱者たちにとっての格好の敵だ。
 大統領就任早々は、エスコーラ側がまだお手やらかにしていたところも今にして思えばあった。だが、就任1年を過ぎた今年は、エスコーラも黙ってはなかった。聖市もリオも今年のパレードのテーマは「人種問題」「フェミニズム」「LGBT」「環境問題」と、ボウソナロ氏が敵視するものばかりがずらりと並んだ。リオのカーニバルで今年優勝したエスコーラ、ヴィラドウロのテーマは「北東部の女性の強さ」で、準優勝のグランデ・リオは実在した民間宗教の教祖ジョアンジーニョ・デ・ゴメイアで、同氏は北東部出身の黒人の同性愛者でもあった。
 そして、リオのカーニバルではテレビで頻繁にボウソナロ大統領を演じて茶化すことで有名なコメディアン、マルセロ・アジネッチが大統領役でパレードに登場。いつものように大統領の行動を会場の大観衆や生中継の視聴者の前で大胆にからかった。
 ブラジルでコメディといえば、イエス・キリストを同性愛者として演じ、保守的な福音派を命がけで挑発するグループも存在する。こうしたとんがった風刺精神は、コメディや流行歌で首相の政治ひとつ批判するのもはばかられるようなどこかの国には欲しい勇気でもある。(陽)

 

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