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墓穴を掘りつつあるボウソナロ大統領

3月29日、保健省の社会的隔離政策に反してブラジリア衛星都市に出向き、零細商人に普通に仕事をするよう訴えて、孤立化を深めたボウソナロ大統領(Twitter)

 ボウソナロ大統領が就任以来最大の危機に立たされている。世界中で新型コロナウイルスの危機と恐怖が広がる中、「隔離政策による感染防止」に猛反対し、「何があろうが経済活動を止めてはならない」との主張を続け、気が付けば他の国の国家元首で同様の主張をしている人がほぼいなくなり、世界でも孤立した状況に置かれてしまった。
 おそらくこの展開は、ボウソナロ氏に取って大きな計算違いだったのではないだろうか。最近、コラム子はそんな風にも思う。
 彼の支持者のメインには、福音派や大企業の経営者が多いことは予てから知られていた。そういう支持者たちにとって、病気の流行で教会が開けられなくなり、外出自粛令が出されることで経済活動が滞ってしまうのは問題だ。
 隔離政策で支持者を失ったら困ると考えた大統領は、一人で「経済活動を止めるな(普段通り、働きに出ろ)」と呼びかけたのだろう。
 さらに悪いことに、3月上旬に訪米した使節団の大統領同行スタッフの間で、コロナが大流行した。その結果、20人をこえる罹患者が自分の周辺で現れ、その“感染源”としても疑われてしまった。これにより、「この俺が病気なんかに負けるわけがない」という、マッチョな勝気が煽られてしまったのであろうか。
 この件以降、ボウソナロ氏のコロナウイルスに対しての「やせ我慢か」とさえ思えるほどの頑なな重病扱いの拒否も始まってしまった。
 だが、蓋を開けてみたら、展開がまるで違った。もっと共感を得られるであろうと思っていた、外出自粛令による経済活動停止に反対する人は、統計でも10人に1人か2人いるくらいのもの。ほとんどの人が、州知事たちやマンデッタ保健相が唱える隔離政策を支持した。
 いや、ブラジル国内だけではない。コロナが爆発的流行となり、国中を封鎖しないことには立ち行かなくなったような国々の大統領や首相までもが、このコロナ危機で支持率を逆に上げたのだ。
 長年、与党の連立が流動的で不安定だったイタリアは、1万人を超える死者数を出したにもかかわらずコンテ首相の支持率が60%を超え、フランスでも支持率に苦しんでいたマクロン大統領が2年ぶりに支持率を50%台に乗せた。
 いや、そればかりではない。ボウソナロ氏と同じ極右路線だと思われていたイギリスでも、ジョンソン大統領が支持率を50%に乗せ、ボウソナロ氏が敬愛するアメリカのトランプ大統領も、当初の楽観ぶりを一転させ、国民に外出しないよう呼びかけると、支持率を51%にあげた。国民は「自分を守ってくれる人」を頼りたくなるのであろう。
 トランプ氏の場合は下半期に大統領選もあるため、このまま国民の支持する現在の方針のまま進むであろう。だが、そうなるともう「イデオロギーの理想」なんて言っていられなくなる。
 トランプ大統領どころか、トルコのエルドアン大統領、イスラエルのネタニヤフ首相も、隔離政策を出している。
 ハンガリーのオルバーン首相に至っては、「外出禁止令を破る国民には8年、虚偽情報発信者には5年の実刑に処す」という法律まで承認させた。もしもこれがブラジルで施行されたら、ボウソナロ一家が真っ先に逮捕されかねない。
 つまりボウソナロ大統領の主張はもはや「極右の理念」を代表するものでさえなく、ネットを通じ彼を盲目的に信じてきた信者たちをも国際的に孤立させつつある。
 この危機における孤立化が、政治的に墓穴を掘ることにつながり、今後どこかの時点で大きな代償を払わされるかもしれない。(陽)

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