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特別寄稿=コロナ拡散止まらぬブラジル=一筋縄で対処できない格差大国=サンパウロ市在住 駒形 秀雄

主要国コロナウイルス拡散状況(提供元: ウィキペディア)

 日中は晴れるが朝晩寒い日が続きます。そして、世の中の動きまでこの気候に合わせた様にと言うか、あまりぱっとしない寒々の日々がつづきます。
 その中で、ずっと後の方を走っていたブラジルがフランス、イギリスなどの先進国を次々に抜きさり、「アメリカ、ロシアの大国に次いで堂々世界3位に進出だ」というのです。
 「おー、久しぶりの朗報だな、何の競技だい?」と確かめてみれば、他でもない、「コロナウイルスの感染者の数」だと言うのです。「何じゃこりゃ、悪い方で入賞ではピアーダにもならんわ!」
 そう、1位は米国の158万人、2位はロシア32万人を急追して、ブラジルは今日までの感染者29万人に達したのです。しかも、そのペースの早いこと、早いこと。1日当たりでは死者が千人を超え、埋葬するにも場所が無いほどなのです。
 ま、変な順位のことはさておき、こんなにコロナ病が拡大し、それが経済を悪化させ、日々の生活を更に苦しくしているのでは、一般庶民はたまりません。
 「ボウソナロ、何をしてるんだ! コロナかぜを抑え、我々の生活を良くする手立ては考えているのか」などと不満の声は強まります。
 何かどうもすっきりしないこの辺のところ、自分なりの対策を考えるためにも、問題点の整理をしてみましょう。  

追いつかないコロナ対策

アマゾナス州マナウス市の臨時病院を視察するタイシ保健相(当時、Foto: Alex Pazuello/Semcom)

 ブラジルのコロナ病罹患者は、発生時こそサンパウロ、リオなどの大都市部がその中心でした。
 ですが先月頃からアマゾン、北東地域など民度が低く、医療環境などが十分整って居ないところで急増しています。ブラジル全土の内、感染/死亡者の多い20市の内、15市もがこの地域内にあります。
 これは人口比で見ても歴然で、人口10万人当たり2千人以上の感染者をだしている市が2市、千人以上となると15市ですが、そのいずれもが北東部、アマゾン地域内にあるのです。
 そんな危機的な状況の中、防疫対策の元締めとなるべきタイシ保健相が5月15日辞任してしまいました。
 同保健相は、保健専門家たちが推進するコロナ病の社会的隔離推進、また、反対論の多いクロロキナ系薬品の採用について、ボウソナロ氏との間で意見が対立し、就任後1か月にもならないのに、辞任に追い込まれてしまったのです。
 さてそれで? と次の人事が注目を集めていました。連日1千人を超える死者が出る事態にも関わらず、結局、今週は誰も選任されませんでした。なんと死者数世界第3位という公衆衛生緊急事態の中で、その最高責任者たる保健大臣ナシで、対処しているわけですね。
 しかし、大臣になりたいという候補者はいつでもワンさかと居ます。議会での政府支持との“取引”が透けて見えるPSL党の政治家候補等に交じって日系医師「NISE YAMAGUCHI」の名前も挙がっています。山口さんは女性、腫瘍系が専門の女医さんです(どなたかのお知り合いでしょうか?)
 現在、保健相の職務は、先日政策的に任命されたばかりのエドゥアルド・パズエロ陸軍大将(ジェネラル)が代行しています。
 政府はこの人を通じて、自分の打つべき手はちゃんと打っています。
 即ち――
★保健省の部長級ポストに先日軍人関係者9人を任命しました。これで同省内の軍人系は18人。誰が大臣になっても、これで同省内の大統領の強い基盤は出来上がった、といえましょう。
★大統領は誰に言われたのか、クロロキナ系の薬品の認可、使用に熱心で、度々その採用を働きかけていました。ですが、この大臣空席期に代行のジェネラルが法令を出し、使用にOKを出しました。
 クロロキナの利用については医療、保健関係者から『医療効果が未確認だ。副作用が見られる』など、その利用が躊躇されていたのに拘わらずの措置です。これもボウソナロさんの意向で通ったということですが、これではコロナ防疫対策ではなく、自己意向強行対策ですね。

警察だって我が陣に

 厳正な業務執行で人気のモロ法務・保安相が辞任したのも、ボルソナロ大統領との確執が原因でした。大統領が警察の人事、とりわけリオ警察本部の人事にこだわったのは、自分の身内、長男のフラヴィオ上院議員(39歳)の法令違反の疑惑があったからです。モロ前法相が辞任の際にこの点を指摘したため、連邦議会や裁判所が関与、取り調べをはじめました。
 そして、この問題はその後更に発展し、ボウソナロ氏が(この疑惑の件を睨んで)警察の人事に干渉しようとしたのは大統領の権限の濫用、憲法違反でないか?ということに焦点が移りました。
 もしこの干渉の事実が証明されると、大統領の憲法違反となり、その罷免(IMPEACHMENT)につながります。『世間がコロナ禍で苦境に立っている今、何でこんなことで争いを』と思われますが、その当事者としては『他人事ではない。ここで負けてはただの人になる』のです。執着しますね。

頼るはやっぱり政治力

 大統領側は『違法行為だ』と言う動きには『そんなことはしていない。陰謀だ』と強く否定しています。
 念のため、議会対策もちゃんと手配しています。即ち、罷免案が議会に上程されても、それを途中で潰す。または議会で否決してしまう方策です。
 ボウロナロ大統領は米国トランプ大統領と違って所属与党を持たない「一匹オオカミ」ですから、何とかして自分のシンパを作りたい。
 そのため、連邦議会内の一大勢力「セントロン」と交渉を始めました。セントロンは自分の主義主張というより、自分達の利害で寄り合った議員グループです。「下院の513議席のうち過半数を占める」と豪語していますから、ここの『合意』があれば、議会対策は万全、罷免案は可決承認されません。(別項参照)
 大統領側は既に「進歩グループ」や「共和グループ」に政府内の役職を提供しており、5月18日には教育省内の重要ポスト「全国教育基金」の役職(予算294億レアル)をPL党に提供しています。まさに昔型の『TOMA LÁ, DÁ CÁ』(利権政治)の基本に戻ったようです。

それでコロナの対処策は

ドライブスルー方式でコロナ検査をする様子(Foto: Leopoldo Silva/Agencia Senado)

 さて、それでこの厄介なコロナ禍にどう対処するか、です。
 色々な対応策が言われていますが、今のブラジルで言われて、並立しているのは以下の2策のようです。
【A】は医師、保健界の専門家が唱え、多くの国、都市で実施されている隔離、回避策です。飛行機を撃つ戦闘機も高射砲(特効薬)もないのですから、防空壕の中に入って、爆弾を避ける方法です。
【B】はボウソナロ大統領などが唱えている強行突破策です。『医者が言う通り、じっと家に引き籠っているのでは仕事ができず、金も回ってこない。ヘナチョコカゼなどは恐れず、適当に仕事もしよう』という方策です。「市民が家に留まり金がきれてヘタってしまっては元も子もなくなる。ある程度の開放は必要だ」と言うのです。
 (A)案は理論的にはその通りで、ドイツや日本のように民度の高い、ある程度物事に理解のある国民には有効と思われます。しかし、ブラジルは広い、教育水準も低く医療の知識も行き渡らない、上下水をはじめ、衛生環境が調っていない所も沢山あります。そういうところへ先進国の(A)方式をそのまま適用出来るか?
 疑問があります。事実、大都市周辺のファベラや、アマゾン未開発地域では政庁の指示が浸透出来ず、感染大爆発を起こしています。

 (B)案は心情的には『分かる、わかる』です。ですが、精神力だけではコロナ病は防げません。空から降る爆弾に竹やりをかざしてみても何の役にも立たなかったことは既に経験済みです。
 それで時間もないので、途中の議論を省略して、以下のような案を用意してみました。いかがでしょう。
 ちょっと考えてみて下さい。
(1)隔離、防疫策などは引き続き実施する。しかし一定の効果が認められた時点で、自粛規制を緩める。
 例えば、「感染/死亡の上昇カーブが鈍る」図で言えば右肩下がりになったら規制を緩める。美容、理髪店、レストラン、小売商店などは一定の規制の下で開店を認める。
 生産、製造工場などは一定の規律の下、操業を続ける。学校、事務所などはテレコンなどを活用するが、一定のルールを守っての開校、営業を認める。
(2)密集、密接の原因となる大規模音楽ライヴ、スポーツ大会、集会などは引き続き認めない。パチンコ、賭け事などもダメ。市民の仕事に直接関係ないエンターテイメント(娯楽)などは暫くご遠慮をという事です。
(3)あまり感染/死亡者が居ない地域では以上のような規制を緩くする。感染者がほとんどいない地域にまで、大都市並みの規制を適用することはないでしょう。なるべく市民の不自由、不満をなくすようにすることです。
 以上はコロナ病の治療法もワクチンも開発されない、ここ1~2年の間の策です。兎に角、規制に縛られることを嫌うブラジルの国民性、広大な地域事情などを考慮し、その地域、時点にあった対応策を取れば良い。役所の通達のような杓子定規な規制強要はダメということです。

やむを得なさそうなある程度の犠牲

 それでは規制の効果は落ちる。「また感染者や死者が増える」という反論があると思います。
 しかしそれはそれ、ブラジルのように広い、理解度、貧富の差の激しい所ではある程度の犠牲が出るのは止むを得ない。病気が広がり、ある程度の病気の抵抗力、抗体が出来るまでコロナ禍は終わらない覚悟をしないとならないでしょう。
 指導的立場の偉い方たちは多分それを認識しているのでしょう。ですが立場上、それを公に言えないだけなのかもしれませんね。
 先日私の家を訪れた老ジャルジネイロ(草木の手入れをする人)が家内に言ってました。
 「わしはね、偉い人が言ってることなど信用してないよ。コロナカゼ自粛など気にせずこうして働いてるよ。働かなくちゃ干上がるものね。コロナカゼなんてかかる時はかかるんだ」。確かに、彼はマスクもしていません。
 そこで家内が言いました。「でもね、ゼー、コロナカゼにかかって死んでる人も沢山いるんだよ。気をつけなくちゃダメでしょう」。
 ゼーが応えて言います。
 「フン、普段働いて元気でいれば、病気はうつっても死にはしないよ。暫くしたら治る。死ぬのは、もうこの世にあまり用もなくなったバガブンドとか老人でしょ。世の中がうまく回るよう神様がそうしているんですよ」=完=(ご感想歓迎しますーhhkomagata@gmail.com
(著者注=「セントロンCENTRAO」主義、主張と言うより、各自の利害により結成された政党のグループ。下院の過半数を占めるとされ、以下の党などが参加している。PP(40人)、PL(39人)、REPUBLIC(31人)、SOLIDALIDADE(14人)、PTB(12人)、他にPSD(36人)、MDB(34人)、DEM(28人)等も適時参加している。中道、中道左派が中心。

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