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聖南西=明暗分かれる日本語学校 =支えは地域文協の理解と協力 =教師パソコン疲れ、生徒激減も

オンライン定例会に参加した教師の皆さん

 コロナ禍になって初めて、聖南西教育研究会(渡辺久洋会長)の第224回定例会が8日午前、3時間にわたってオンライン開催された。3月以降の傘下8日本語学校の動向が報告され、閉校の危機に直面する深刻なところから、オンライン活用が上手くいっているところまで明暗が分かれた。運営主体である地域文協の支援のあり方が問われる半年間の実態が報告された。

 各校の日本語学校教師ら17人が出席して開会した冒頭、聖南西文化体育連合(UCES)の教育部長、市川幸三さんは「皆さんコロナに罹らないように気を付けて。やりたいこともできないでしょうが、その時を待ちましょう」と挨拶した。
 続いて渡辺会長は「こんなに長い期間、顔を合わさないのは初めてですね。皆さん、3月以降の活動の様子を教えてください」と呼びかけた。通常なら2カ月に1回開催されている。
 各校とも文協に属した形で経営されており、現在の状態は《1》週1~3回宿題を出して親などに取りに来てもらって採点(カッポン・ボニート、サンミゲル・アルカンジョ)、《2》オンライン授業に切り替え(ソロカバ、レジストロ)、《3》一時完全ストップ(イビウーナ、ピエダーデ)など主に3種類の状態に分かれた。ピラール・ド・スルは宿題提出を中心に一部オンライン、コロニア・ピニャールは個別対応。
 週3回宿題を作って渡して採点する作業をずっと続けているという上村千代子さん(カッポン・ボニート)は「パソコン、スマホがない生徒がいるから、オンラインは一人だけ。紙で宿題を出して繰り返し漢字を書かせている。生徒数は19人から13人に減った。教材を作るのが大変だし、対面授業を止めているから月謝を半額にし、その分収入が減っている」との窮状を語った。
 西田みどりさん(ピニャール)は「生徒が宿題をやってくれなくて、泣きたくなることがあります。会話力が変わらない子もいるが、明らかに落ちている子も」と報告した。森ちはるさん(ピラール)は「宿題を出していたが、父兄会からの要請で6月からオンライン授業も始めた。週2回1時間ずつ新しい漢字、文法の説明している。生徒から音読している映像を送ってもらったり、宿題を見たり、ビデオを作ったり、ものすごく忙しい。オンライン授業を始めてすごく評判が良い。生徒は50人から43人に減った」とのこと。
 長谷川美雪さん(ソロカバ)は「まったくやったことなかったが、6月からオンライン授業を開始した。複式が難しいと痛感。準備に2倍時間がかかる。特に大人の生徒に好評で、パンデミック後もオンラインは活用できそう。だが先生たちはみなパソコン疲れしている」と語った。
 吉川知恵子さん(ピエダーデ)は「パンデミック始まってから会館にカゼイロがいなくなって中に入れず、授業できない。山が多い環境なので丘の上に登らないとネットができない子供もいる」とのこと。
 浅沼ファビアーノさん(レジストロ)では「60人ちょっといた生徒が大人を中心に辞め18人まで減った。残った生徒は関心が高く、オンラインの方が一生懸命に参加する生徒もいてビックリ」など。
 運営責任を持つ地域文協の日本語教育に対する熱意や力の入れ方が、教師の待遇やモチベーションに強い影響を与え、生徒への対応となって表れていることが浮き彫りになった形だ。
 参加者からは「地区イベントの中止は何とかならないでしょうか? 現場教師は授業をするので、ますます疲れており企画ができない、余裕がない様子。できれば学習者間の交流ができ、モチベーションアップに繋がればという声がありましたので、日本にいる青年ボランティア(任期期間中の人)に協力、企画してもらえないのかな?」との声も上がっていた。
 今後の予定に関しては、サンパウロ州政府の方針でブラジル学校の授業開始が10月7日に延期されたことを受け、各日本語学校もそれに準じて対面授業を再開するかどうかを保護者会などと話し合うことが申し合わされた。

 

記者の眼=コロナで問われる教育の底力=聖南西=教育研究会 =渡辺会長に聞く

 

2017年の聖南西・林間学校で発表する生徒の様子

2017年の聖南西・林間学校で発表する生徒の様子

 渡辺久洋さんが教えるピラール・ド・スル日本語学校は、週5日2時間ずつ授業があり、日本語環境の中で自然にバイリンガルを身につけていく、ブラジルでも稀な教育が採用されているところだ。
 だがコロナによってその対面授業が突然中止された。その影響を尋ねると「今週から始めた4年生(11歳)のオンライン授業で愕然としました。3月まで普通に通じていた日本語の指示が全く通じません。それもそのはず、うちの生徒達は週5日、毎日2時間日本語学校に来て授業以外でも日本語を聞いていました。でも4カ月も日本語を聞いていないと、忘れる・低下するのは至極当然です。そして、アニメなどに興味が出始めるのは、うちではだいたい13歳ぐらいからなので、12歳以下の子は大半は、話す力は言わずもがな、聞く力がかなり落ちているはずです」と分析する。
 パンデミックという未曽有の事態だけに、全てが試行錯誤だ。「1学期はペーパーだけの家庭学習を実施しており、でもそれだと会話が足りないので、音読のCDを渡したりして声を出してプリントを読むように言ってはいましたが、実際にどれだけの生徒がちゃんとやっていたのか?意図をわかってやっていたのか? 効果はあったのか? ということを考えると、こちらの思惑通りにはいかなかったように感じます」と自問自答する。
 渡辺先生の感触では、オンライン教育はブラジル人の大人向けとしてみれば、生徒数がもっと伸びる可能性があると見ている。むしろ問題は、日系人の子供向けの伝統的な継承日本語教育の方にある。
 「今のところ、子供対象の日本語教育はどこも大変ながらも教師は皆頑張り踏ん張っている状態ですが、何十年と続けられてきたそのような多くの日本語学校に、このコロナが致命的なダメージを与えるのではないかと非常に危惧しています。

聖南西の日本語教育イベント、スポーツ教室で女子によるタグラグビー大会の様子(昨年11月)

 日本語を教えることは確かにオンラインでもできますが、『純粋な言語教育』以外の教育を行う事が、子供対象日本語学校の大きな意義だと思うので。それと子供たちの横のつながりや交流の寸断も。特に聖南西地区では林間学校を始め『生徒の交流行事』が多く、それを楽しみにしている子が多く、またそれらの行事に参加するからこそ学べることがいろいろあります」とイベントができないことに危機感を感じている。
 自然な日本語を身に付けるには、生活環境の中で“日本語をシャワーのように浴びる”ことは大きな支えになる。日本人ばかりのかつての植民地では普通だったが、現在ではむずかしい。
 「それを補うというわけではありませんが、日本語のアニメやドラマ・映画などをたくさん見るように、とも伝えています。たくさん見ていた子は、日記を見るとむしろ日本語力が伸びており会話力も下がっていません。見ていない子は日記は変わりませんが、会話力がかなり落ちています。聞くことがままならないので、話す方はなおさらです」
 その代わりにインターネットで日本のドラマやアニメを見たり、聞いたりすることは大いに奨励される時代になった。日本語を学びたくなるようなドラマとは、アニメとは。例えば日本語センターなどが、見ることが奨励されるアニメやドラマをリストアップして、日本文化に興味がありそうな日系人、ブラジル人に広く知らせることは、将来の日本語教育界のすそ野を広げる意味で大事な活動かも知れない。
 さらに「今自粛期間は4カ月半となりましたが、子供も保護者も教師も意欲やモチベーションはまだなんとか保てています。だから学校を続けてくれている。でもこれが今年いっぱい続いた時、来年も続いた時に、やる気を保てるのか?」との恐れている。
 そこの部分こそ、地域文協や保護者会が支えるべき部分だろう。パンデミックによって日本語教育が総崩れになれば、コロニアにおける日本文化継承自体が弱体化することは目に見えている。日本語教師だけに責任を押し付ける訳にはいかないのではないか。 (深)

 


□大耳小耳□関連コラム

     ◎

 聖南西地区では全日本語学校が地域文協の傘下にある。その文協の職員として雇用登録されている教師なら、コロナ禍の雇用安定暫定法(https://www12.senado.leg.br/noticias/materias/2020/04/02/mp-preve-novas-regras-para-reducao-de-jornada-e-salario-e-suspensao-de-contrato)を活用して、雇用を維持する代わりに政府が給与の70%を補填、雇い主(文協)は30%という制度を活用しているところも見られた。文協が責任を持って、教師の待遇を保証することは重要だ。その信頼関係があるから教師のモチベーションも保たれるし、それが生徒に熱意として伝わる。コロニアに日本文化を継承させるための日本語教育は、ビジネスとしての語学教育とは違う。地域文協の理解と協力は最も重要な支えだろう。
     ◎
 聖南西教育研究会のオンライン定例会に出席したある地域文協関係者は、「(教師たちが人知れずやってきた努力の)話を聞いていて涙が出そうになった。ああいった話を先生達だけじゃなくて、文協や保護者会の人達にも聞いてほしいし、知らないといけないんじゃないかと思う。今度の会議には教師だけじゃなくてそういった人達にも参加してもらうようにしてほしい」と要望してきたとのこと。まさに日本語学校運営は地域と一体になってやるべきであり、幅広く参加してもらう意味はありそうだ。

 

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