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特別寄稿=どうして止まった フォードブラジル車=地力を生かせば また昇る=サンパウロ市在住  駒形秀雄

フォードのフィエスタ(Matti Blume, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons)

 正月気分も抜けきれない11日、ブラジル社会に衝撃のニュースが流れました。古くからなじんで来たフォード社がブラジルの全工場を閉鎖し、車の生産を止めるというのです。
 フォードトラックを持つことは戦前の日系移民の夢でした。戦後はスマートなフィエスタ、エスコートスポーツ等の乗用車は、私たちの生活一部の様になっていました。まさかそんな会社がブラジルから逃げ出すとは思っても居なかったからです。
 フォードが国内の3工場を閉め、その従業員約5千人を解雇するとなると、実社会にとても大きな影響をもたらします。職を失う従業員とその家族だけではない、フォード社に部品を供給している協力社(下請け社)も仕事を失います。従業員相手に開いていた飲食店、日用用品店などもお客が来なくなり、閉店と成りかねません。大工場閉鎖の影響は甚大なのです。
 生産、販売台数でもGM、VW、FIATなどと並んで5位につけて居たフォードブラジルが、なぜ突然生産ストップとなったのでしょうか?(表を参照)
 以下、皆様とご一緒にその原因などを探り、その原因を除去するための解決策やブラジル社会の在り方を考えて見ましょう。

なぜ生産を止めるのか

 ブラジルでの生産ストップは、急に思いついて決められたものではありません。フォードのような世界企業には市場分析の専門家、頭の良い人が沢山居ます。そういうスタッフが諸データを集め、分析して研究し、この様な結論を出したものです。
 それで、色々言われている原因を挙げてみると、大体以下のようになります。
# 根本的にはブラジルで作っている車の採算性が良くない・国際的競争力で劣り、同社全体から見たら魅力が薄いということでしょう。
# また、自動車産業の将来を見ると今のガソリン、ディーゼル駆動車はもう先が見えている。2030年ころにはこの型は製造禁止になる。これから は電気自動車(EV)や水素燃料車の時代になると予想して居るのです。
 更に、あからさまには言わないが、ブラジルの前近代的な公私の制度、過重な税負担などーいわゆる「コストブラジル」も今ブラジルに投資出来ない理由の一つとされています。
# 1台の車の生産コストの中、ブラジルではその約45%-50%が税金だと言われています。だが、同じ計算を米国車でやると、税金の割合は12%になります。
 ブラジルでは「自動車産業は皆世界企業だ、金持ちだ。金はあるところから取ろう」という安易な考えから税金が増えたのでしょう。
 でもね、今は時代が違います。インターナショナルの競合の時代です。企業はブラジルより良い条件の国へドンドン逃げていくことになりますね。
# 他にも「労働問題」「技術革新の遅れ」「生産性、効率」などの問題は多数ですが、これはまた、別述することに致しましょう。(ニッケイ新聞1月12日付け(3)にも関連記述があります)
 閑話休題――フォードのこの決定は実は前から考えられていたことで、その予兆はあったとされています。

2019年に閉鎖されていたサンベルナルド・ド・カンポ工場(Douglas Nascimento , Wilfredor, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons)

 即ち、以前にフォードのイピランガ工場を閉鎖している。2年前にはサンベルナルド・ド・カンポの主力工場を閉鎖し売却している、などです。
 また、ヨーロッパ、アジアなどでも採算性、将来性に乏しい工場を閉鎖して居たのです。
# タウバテ工場は1974年、当時で4億ドルほどを投下して建設されエンジン、トランスミッション(CAMBIO) を生産しております。これらの製品はEV時代には不要になるとみられ、早晩その転機が訪れると見られて居ました。
# カマサリ工場は2001年建設ですが、その立地については大統領まで来た韓国のメーカーや、RG州との派手なゴタゴタの末、サルヴァドール近郊のカマサリに決まったものです。
 私も仕事で訪問しましたが、白い砂地にピッカピカの近代工場が輝いていました。でも日射しは強く、「釜砂里」と言う文字が合いそうな環境の所でした。
 こんな工場を潰すのは勿体ない、「外国メーカーが居抜きで買って呉れないかな」とバイア州知事が言っていましたが、さてどうなるものでしょう?

少しまともに考える  

 このフォードストップの報道について、ブラジル政府の公的見解は発表されていませんが、ボルソナロ大統領は先週TVでの質問に応えて、次の様に言っています。
 「自動車業界からはこの問題について『政府筋の理解と援助が欲しい』と言う要望があった様だ。しかし政府の金と言うのは国民皆が負担している税金だ。特定の企業や業界にだけ使う事は出来ない。そうだよな。(ブラジルは自由競争の社会だ)要はその競争に負けたという事ではないか」
 成程理屈は通っているようなコメントです。でも、国の経済政策を策定し、実行に移す責任者としては一寸気ままな「思って居たことがつい口から出たー的な発言だ。弱者への配慮もない」と批判がでています。
 この国の識者から挙げられている現在のブラジルの難点として以下のような点がありま
す。
# ブラジルの公的機関が非効率的でコストと時間がかかり過ぎる。もっと合理的、効率的に改善していわゆる「ブラジルコスト」を下げて貰いたい。
# 税制も合理化、簡素化するべきだ。税制改革の法案など以前から上程されているのに何の進展もない。生産物の国際的流通を阻害してはならない。
 ブラジルでは税関業務の不透明、手間のかかり過ぎが多い。また、外国為替(ドル)相場が動くのは当然のことだが、あまりの乱高下は企業の動きの妨げになる。
 ドリア知事の話によると輸出の車にも15%-18%の税金を徴収しているとの事で、「工業製品の輸出にまで税金をかけるとは! これじゃ外国のメーカーとの競合に勝てない」と言っています。(この課税を決めた連邦政府のアホがとは言いませんでした)
# ブラジルでは「今思ったことをそのままパッと発言するような人が多い。国の政策や方針迄がそうだ」もっと専門家による検討を経て、よく考えた決定をして貰いたい。
 外国との関連がある業種に関しては国際的視野に基づいた方針が欲しい。
 ドル相場が上がった下がったといって国内物価をそれに合わせて調整するというが、実際にはその実施は難しいのでないか。(スパーでの物価の値上がりが凄い。何でと聞くとドルが上がったからと言う。その後ドルは下がったのに、値段は元のままだ)
 さて、話をもとに戻して、ブラジルも何時までも鉄鉱石、大豆などの一次産品の輸出にだけ頼っていたのでは発展がありません。第一次産業の成長に合わせて第二次産業、工業の振興発展もやらないと成りません。
 フォードをはじめ自動車工業の周辺には皆さんの子弟も沢山働いています。苦労して大学をでて、エンジェニェイロになった、ドトールになった、その働き口を提供してくれたのが工業界でした。大都市に集中する人口を上手く吸収してくれるのは工業が一番です。
 或る時、私はフォードブラジルの人と一緒に日本行きの飛行機に乗りました。我々が売り込み窓口をしている日本製設備の買い付け打ち合わせの為です。私は当然エコノミークラスで一番最後の方の狭い席に座っていました。そこへフォードの人が上の階から降りてきて「おー、こまがた、ここに居たのか」と雑談をしました。フォードの人は一回6時間以上飛行機に乗る場合はファーストクラスを使う規定なのだそうです。大分昔の話ですが、
今はどのようになっているのでしょう?

 それでどうなる

 ブラジルの自動車産業は過去に500万台/年生産した実績があります。それに対し、昨、20年は200万台の生産、販売でした。つまり、その差、約300万台の生産余力(遊休設備とも言います)があるのです。
 この国の国土、人口から言って、自動車の市場は200万台なんてものではありません。今まで述べたような不具合を是正し、政治経済の運営がうまく行けば、今の倍くらいに市場は回復するでしょう。
 フォードにしても車生産は止めるが、ブラジルの会社そのものを閉める訳ではありません。
 その本社機能、研究部門などは残し、今後の展開をはかっていくのです。エンジン車、採算性の低い小型車の生産は止めても、EV車、新規分野などで事業展開していくつもりでしょう。
 こんな例があります。米国のTESLAと言う企業です。同社はEV電気自動車を開発、昨年、50万台売ったそうです。(フォード ブラジル車の販売は14万台でした)
 アメリカのコロナはブラジル以上ですが、そのせいで車が売れなかったとは言っておりません。やっぱり大したものですね。

1920年頃のフォードのボンレチーロ工場(Douglas Nascimento, CC BY-SA 4.0 via Wikimedia Commons)

 フォ―ドと同じ米国に本社を持つGMブラジル社は現在ブラジルのトップメーカーです。
 同社の社長はこう言ってます。「ブラジルはその生産、販売の面から見ても魅力ある要件を備えている。これだけの条件を持った市場をむざむざ見捨てる企業はないだろう。政府の不具合ぶりや、対応のまずさを指摘する声はあるが、当社はちゃんとやっている。
 RSにあるグラバタイ工場などは生産性は高く、そこで造っているSUV トップブランド=TRACKER等は現在でも十分に採算はとれてる。経済情勢が正常化してくれば、更に注力、業績を上げて行きたい」パチパチ、拍手ですね。
 このグラバタイ工場は設立時から期待された小型車の工場で私も何度か行きました。そのレイアウトは当時の新技術を取り入れたコンパクトデザインと注目されていました。同工場にはコマツのプレス・東芝機械をはじめとする日本の工作機械も設置されています。
 これらの民間企業の努力と政府の行政、税制改革の実行などがうまくかみ合えば、ブラジルの産業も息を吹き返すでしょう。そして再び、ブラジルの車でアルゼンチンやウルグアイの道路を満たして貰いたいものです。(この記事についてのコメントはこちらへ=>hhkomagata@gmail.com

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