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特別寄稿=ブラジル日本語センター35周年記念=日本語教育の意義と未来=さらなる教育分野への投資を=理事長 日下野良武

【※1月16日に開催されたパネルディスカッション「ブラジルにおける日本語教育の意義と未来」の基調講演を許可を得て転載】

困難なコロナ禍で、オンライン授業が急進展

日下野理事長

 本日は、ブラジル日本語センター創立35周年を記念してのパネルディスカッションに、多くの日本語教育関係者の皆様がお集まりいただきありがとうございます。
 特に、ご多忙の中で日本語教育にご支援いただいているJICAからはサンパウロ事務所の門屋篤典次長さん、また、国際交流基金からはサンパウロ日本文化センターの洲崎勝所長さんにご参加いただき心よりお礼申し上げます。後ほどご意見を伺いたく思います。
 本日の議題は「ブラジルの日本語教育の意義と未来」で、このことについて進めてまいります。まず、私からお話をさせていただきます。
 初めに、昨年は2月から新型コロナウイルス災禍の一年でした。現在も衰えを見せていません。日本語教師の方々、日本語学校、学習生徒とご家族の皆さんへの影響も甚大で、ご心労お察し申し上げます。教師の皆さんは対面授業からほとんどオンラインへの授業に急変、ご高齢の先生方は戸惑われた方もおられたのではないかと思います。
 しかし、この災禍に直面し、ベテラン教師の方は若手教師からオンライン操作を学び、逆に若い教師は経験豊かな先輩教師から教わることが多く、相互信頼がさらに深まったのではないでしょうか。
 これもこの災禍に直面したからでしょう。コロナ禍に伴い、学習生徒数が減少し中には閉鎖された学校もあると聞きます。でも、先生方の努力によってオンライン授業が急進展し、遠隔地同士でもお話が頻繁にできるようになりました。
 まだ、この災禍がいつまで続くのかまったく予断を許しませんが、お互い情報を交換し前向きに励まし合いながら乗り越えましょう。今はじっと我慢、我慢の毎日です。

40年のジャーナリスト経験から見えること

ブラジル日本語センターの正面

 さて、ブラジルの場合、日本語教育は100年以上も前の日本移民の開始当時から始まっていたと申し上げても過言ではありません。なぜなら、日本移民の皆さんは母国・日本へ戻るつもりの人が結構多かったのです。帰国後に子供たちが困らないようにとの考えからでした。
 しかし、第2次世界大戦が始まるとブラジルと日本は敵国になり日本語で話すことも禁止されました。その後、終戦を迎えブラジル政府は日本語使用を許してくれたのです。
 以来、サンパウロ市をはじめ、各州の各都市で日本文化の祭りも含めて日本語教育も発展してきました。特に日本移民が多かったサンパウロ州、パラナ州を中心に学校が次々に建てられ、現在は既に日系三・四世の時代を迎えており、今やブラジル社会で活躍する日系人の信用、信頼は絶大です。
 私はブラジル在住のフリージャーナリストとして、日系社会のニュースを中心に日本の新聞・雑誌へ40年近く送稿してまいりました。移民を多く送り出した県で発行する新聞の読者に密着した県出身者の元気な姿を取材、送稿してまいりました。
 取材中に感動したのは、日系人が各方面で信頼され活躍している姿でした。小規模の病院でもヤマシタ、サトウ、コバヤシなどの日本名の医師がいます。また、昨年はサンパウロ市イビラプエラ公園内の陸軍基地へまいりました。
 現在、ブラジリアの日本大使館に防衛駐在官として赴任している陸上自衛隊大佐を招いての錦鯉譲渡式典でした。そこで、同基地の司令官は挨拶の最初と最後に日本語で話され、「優秀な日系の将官がたくさんいる」と褒めたたえたのです。その一人、エジソン・マサユキ・ヒロシ少将は日系三世です。
 過去には日系二世のジュンイチ・サイトウ空軍最高司令官、また、アキラ・オバラ退役陸軍中将もいます。さらに、政界ではノムラ・ディオゴ、ウエノ・アントニオ下院議員をはじめツヅキ・セイゴウ保健衛生大臣、ウエキ・シゲアキ動力鉱山大臣など枚挙にいとまがありません。
 現役ではパラナ州選出のルイス・ニシモリ下院議員が活躍中です。昨年の地方選挙でも新たに日系の市長や市議会議員が誕生しています。最近では、サンパウロ市のイピランガ独立記念塔に対面する「パウリスタ博物館」の館長に日系二世のオノ・ロザリアさんが抜擢されました。
 なぜこんな話をしたかと言いますと、このように各界で活躍されている方々はほとんど日本語に長けており、日本文化を体得しているということです。
 日本語に含まれる「礼儀正しさ、正直、思いやり、気遣い、よろしくお願いします、いつもお世話になります」、さらに、「義理尊重、教育熱心、頑張る、協業の精神、誠実さ、忍耐強さ、敬意を重んじる感謝の心、清潔感、もったいない、約束厳守、謙虚、寛容」などの日本独特の文化は、ブラジル社会でも生き続けているのです。
 その根幹にあるのは日本語教育でした。これすべて立派な日本語教師の皆さんの涙ぐましい努力と指導があったからです。

期待集まる「日本語教育推進法」の具体案

 4年前のリオ・オリンピックでは、日本代表を応援する一団がサッカー試合終了後、スタンドのゴミ拾いをしていたのをテレビ局が紹介しました。有名解説者のガルボン・ブエノ氏は「見ろ、この美しい光景を!」と絶賛、ゴミ収集は清掃人がするものと思っていたブラジル人は、その行為に目を見張りました。日本人独特の集団的善意行動は、幼・青年期の小・中・高校教育で培われているのです。
 両国の友好関係継続を考える時、日本語教育は絶対必要です。日伯両国のためになることを信じて疑いません。世界最大の日系人が住むブラジルは日本にとって最もつながりが深い国なのです。
 このようなことを考えますと、昨年6月中旬に国会で成立した「日本語教育推進法」の具体案に注目したいと思います。ご存知のように、同法は基本的に二十八条から成っており、十八条と十九条にそれぞれ「海外における外国人等に対する日本語教育」と「海外に在留する邦人の子等に対する日本語教育」が謳ってあります。

センターに運営費交付金的な支援を

 「ブラジル日本語センター」では、これから10年、いや50年先までの未来に向かって日本語教育計画を立てなければなりません。日本語教師約1200人、学校数350校、生徒数2万2千人とのつながりを密にする非営利団体の「ブラジル日本語センター」に、ぜひ運営費交付金的な支援を考えていただきたいです。
 そこで具体的な提案です。ブラジルをはじめ中南米各国の日本語教師との連携を密にするため、同センター内に数名の日本語教育専門家を常駐させ定期的に各学校を巡回し、現況に適応した指導が直接できればと思います。
 中国はブラジル国内11か所に「孔子学院」を設置しています。教師派遣やそれにまつわる費用の大半は政府が後押ししていると聞きました。最近ではブラジルの大豆や鶏肉などの農畜産物、地下資源などの輸入にも力を入れ始めています。中国の動きを意識する気持ちはありませんが、当初、移民先輩たちが地味ながら長年苦労してつくり上げてきたブラジルの日本語教育だけはこのまま放置できません。

教師の待遇改善策を!

 今、ブラジルにおける日本語教育は、「二階建ての家の階段を登って踊り場まで来て足踏み状態」の感じがします。目線が踊り場から下方へ向いているようにも思えます。
 理由は、このたびの新型コロナ災禍の中、オンライン授業に不慣れな方もおり、さらに教師の高齢化が急速に進んでいること、教師低報酬のため次世代を担う若手教師のなり手がないなどが原因ではないでしょうか。
 待遇を良くし継続的な教師育成が必要です。日本語教育に関心を持つ優秀な若手教師が他の職場へ方向転換して離れていくのは残念です。
 日本とブラジルの更なる関係親密化を推し進めるのであれば、今こそ日本語教育に真剣に取り組まなければなりません。放置しますと元に戻すのには相当の力入れが必要になります。「教育への投資は、未来への第一義的不可欠投資」と私は考えます。
 日本とブラジルは距離的に最も遠い国ですが、心情的には最も近い国。これは誰でも周知していることです。同センター創立35周年を機に、日本語教育界の先輩方の努力に思いを馳せながら、日本国政府のご理解を得て日本語教育推進に力を入れ、日伯両国の友好・親善をさらに向上、発展させましょう。

昨年12月15日、安倍晋三前首相と麻生太郎副総理にブラジル政府の最高勲章「クルゼイロ・ド・スール(南十字星国家勲章)」が東京のブラジル連邦共和国大使館で授与された(大使館フェイスブックより)

 最後に、昨年12月15日、安倍晋三前首相と麻生太郎副総理にブラジル政府の最高勲章「クルゼイロ・ド・スール(南十字星国家勲章)」が東京のブラジル連邦共和国大使館で授与されました。心よりお祝い申し上げます。
 また、新年早々1月8日には茂木敏充外務大臣がブラジルを訪問。首都ブラジリアでボルソナロ大統領と会談しました。日伯両国はますます緊密化を増しており、末永く中身の濃い交流をお願いしたいところです。

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