ホーム | コラム | 樹海 | 《記者コラム》迫ってくる「囲まれている」との実感

《記者コラム》迫ってくる「囲まれている」との実感

『セルカードス』予告編の一場面(3月23日付G1サイトの記事の一部)

『セルカードス』予告編の一場面(3月23日付G1サイトの記事の一部)

 3月23日、新型コロナの感染第1波が深刻化し、マナウスなどで医療崩壊が起き始めた頃のドキュメンタリー映画『セルカードス(囲まれている)』が、「ホット・ドックス」(カナダのドキュメンタリー映画祭)候補作品に選ばれた。
 昨年4月17日~5月15日に保健相を務めたタイシ氏や、マナウス市の墓地で肩を寄せ合うように並べられた棺に土をかける場面、報道陣にがなり立てるボルソナロ大統領なども映っている。前任のマンデッタ氏やタイシ氏が新型コロナ対策を巡って大統領と対立していた事は世界中に知られ、当時からブラジルの行方を案ずる声が出ていた。
 昨年は5月21日に感染者が30万人、死者も2万人を突破。感染者は同27日に40万人、同31日に50万人を超え、死者も6月2日に3万人を超えた。だが、この時期に集団検査や社会隔離をきちんと行っていれば、状況は今とはまるで違っていたはずだ。
 しかし、大統領の否定主義は、感染者が1310万人を超え、死者も33万7千人弱に達した今も変わらず。世界各国の死者は減少傾向にあるのにブラジルでは死者急増中で、1日の死者や1日の平均死者数は世界一だ。
 こんな中だから、感染者や死者の急増ぶりはより身近に感じられ、「囲まれている」との実感は日々、強まっている。だが、否定主義に毒され、コロナを軽視し、3密を繰り返す人は後を絶たない。厳しい規制を採用した自治体やアパートでは、脅迫や嫌がらせさえ起きているのが実態だ。
 3月31日には、サンパウロ州海岸部のモンガグア市長がロックダウン導入の理由を聞かれ、自分も家族を失い、店もたちゆかなくなった事を告げた後、「店は立て直せるが命は取り戻せない」と涙ながらに語っていた姿を報道で見た。
 コラム子の息子の友人は、母親が集中治療室に入院、叔母も亡くなった段階でマスクを使い始めた。身近な人を失う前に他者や自分を守るためのマスク着用や社会的距離確保を守っていたらと思うと、胸の痛みはさらに増す。(み)

image_print