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《記者コラム》CPIの裏で二者択一迫られるボルソナロ=セントロンかゲデス財相か

コロナ禍CPIの先にあるものは

フェルナンド・コーロル上議がコロナ禍CPI設置に反対声明を出した記事(https://diariodopoder.com.br/politica/collor-critica-instalacao-da-cpi-da-covid-e-decisao-inopinada-do-stf)

 ボルソナロ大統領は先週、三回大きな落胆を感じたに違いない。
 一つ目の落胆は《コロナ禍議員調査委員会(CPI)の開設》だ。
 大統領は、開設させないように最大限の交渉をしたが押し切られた。どうせ野党中心のコロナ禍CPIが開設されるなら、政敵である州知事や市長のコロナ禍責任も問う、与党中心の別のCPIを設置して、野党の連邦自治体首長を攻撃する場を作って〝相打ち〟にしようとした。
 だが、それもできなかった。パシェッコ上院議長は、野党中心のCPIの中に「連邦政府からの補助金の使い道を検証する」という形で収めたからだ。野党主体のCPIの中でその検証をしたところで、同じ野党側である政敵に大きな打撃は与えられない。
 このCPI開設に関して、与党寄りの立場を取るコーロル上議(PROS)の発言が興味深い。ジアリオ・ド・ポデール紙4月13日付《コーロルはコロナ禍CPI設置と最高裁の抜き打ち判決を批判》の見出しが躍る記事で、今設置することは「国民が願い、求めているものに反する。まったく相容れない」と批判した。
 ただし、大統領に対しては、「率先してコロナ対策を採るように」と警鐘も鳴らす。三権、連邦自治体と一体になって対策を巡らすべき時であり、お互いに批判して足を引っ張り合っている場合ではないとする。まったくその通りだ。だが、それを大統領がやろうとしないから、CPI設置となった。
 コーロル上議は「今CPIを始めることは、デジタルなバベルを作ることになる」と今後起きる大混乱を予想する。「国民は混乱でなく、健康を求めている」と締めくくった。
 ここで思い出されるのは、コーロルとボルソナロ両氏の共通点だ。本紙20年4月25日《コーロル=「その映画ならもう見た」=元祖・罷免の元大統領、ボルソナロの罷免を予告?》で、昨年すでに予告されていた。この時、マイア下院議長は罷免審議を取り上げなかった。だが、今回は分らない。

コーロル大統領の時もCPIから罷免に進んだ

1990年、就任した当時の若きコーロル大統領(Sergio Lima, via Wikimedia Commons)

 弱小政党PFLから出馬した若きコーロル氏(1990―1992年に大統領)は1989年、大統領選第2次投票で51・01%を獲得し、ライバルのルーラ候補をわずか5・71%の僅差で蹴散らした。
 軍政が終わったばかりで、外国資本の導入が許され、欧米からの輸入品が溢れ始め、新自由主義的な経済が好まれ、軍政が作った数々の公社を民営化することが良しとされる風潮があった時代だ。現財相のゲデス氏が18年の選挙戦で言っていたことと似ている。
 汚職イメージが強い旧来の政治家とは一線を画し、若きコーロル候補は清新なイメージを売りにして弱小PFLから立候補し、国民にブームを巻き起こした。その大人気に相乗りした候補が、9州で知事に選ばれるという爆発的勝利を収めた。
 だが、連邦議会では依然として過半数を制すにはほど遠く、不安的な議会との関係が続いた。まるで弱小PSLから出馬して、まさかの当選を果たしたボルソナロ氏そっくりだ。
 そんな不安定な足元を突いて、就任3年目の92年に選挙時の金庫番PCファリアス氏の汚職容疑が暴露され、それを追求するCPIが5月27日設置された。そこで大統領周辺の怪しい人物の口座情報の開示が命じられ、そこからナゾの小切手が出てきたことから大問題に発展した。
 その年の9月29日、与党があまりに弱小だったため、下院議会では441対38という圧倒的多数が罷免審議開始に賛成した。その審議の最後の最後、上院で罷免判決が言い渡される数時間前の12月29日、コーロル氏は大統領職を自ら辞職した。
 就任当初90年の世論調査では71%の国民が「最高」「良い」と大きな期待をしていた。だがその年のうちに化けの皮がはがれて36%に下がり、最終的には9%まで落ちていた。
 ボルソナロ氏の場合も、下院議会のほぼ過半数を占めるセントロンと左派議員が結託すれば、同じように圧倒的賛成票をもって罷免審議が始められるかもしれない。
 コーロル氏の二の舞になるのが、大統領にとっての悪夢だ。そこまで行かなくても、支持率がガタ落ちすれば、間違いなくルーラ、もしくは彼が押す反ボルソナロ候補に票を持って行かれる。

鍵を握る委員長と報告官の役割

コロナ禍CPIメンバーの写真を並べたボルソナロ派ツイート。いわく「この上議たちの大半は汚職捜査の対象者。恥をしれ!  鶏の世話をするのに狐を入れるようなもの。レナン出てけ! ランドルフ出てけ! タッソ出てけ! 盗賊の類いたち」

 CPIで重要なのは委員長(議長、Presidente)と報告官(Rerator)だ。委員長はオマル・アジス氏(PSD)。アマゾナス州選出で、知事(2010―14年)もやった経験があることから、今回の焦点の一つであるマナウスの酸素不足で窒息死する患者が続出した件を議事進行するには適当だと判断された。
 彼は「独立派(中立派)」と見られているため、野党の中から選ばれるのではと恐れていた連邦政府からも好感をもって受け入れられている。政府側にとって最悪だったのは、CPI起案者である左派急進論客ランドルフ・ロドリゲス上議(レデ)などが就任することだったが、それは免れた。ただし、彼は副委員長になっている。
 委員長の仕事は、CPIの議事日程を決め、滞りなく議事進行するように調整することだ。最初の会合は22日か29日からとパシェコ上院議長が指定したが、その後の会議自体の日程ややり方の調整は委員長が行う。
 連邦政府にとって、より怖いのは報告官だ。マナウス酸素不足の問題に焦点を当てながらも、連邦政府のコロナ対策の考え方の正当性、手抜きがあったかどうかを、じっくりと検証するのに、どんな証人を、どんな順番で呼ぶか決める権限を持っている。
 昨年3月時点の保健相マンデッタ、5月からのタイシ両氏を最初に喚問して、二人からは医師としての専門的見解、政権内部でのやり取りを暴露してもらい、保健省官僚や専門技官、続いてパズエロ前保健相(現役陸軍中将)を召喚して保健知識の無知ぶり、無策ぶりを比較すると見られる。そのコロナ対策不在を問う流れの中で「保健省幹部を大量の軍人に置き換えてきたことの功罪」も問われる可能性がある。
 アジス委員長のインタビューなどによれば、その過程で「なぜワクチン購入を遅らせてきたか」「挙国一致のコロナ対策をしてこなかった理由」などが問われ、「保健相は大統領の操り人形に過ぎない」という実態があぶり出され、本当の責任は誰にあるのかという核心に踏み込むとみられる。
 さらに報告官には、何かを隠していると思われる人物の口座情報開示を求める権限も与えられている。連邦政府側にとっては、これが一番怖い。大統領は、家族など身内、大臣や支持者らに捜査の手が及ぶことを最も避けたいだろう。
 そして報告官が、名前の通り、最終報告を書き、さらに捜査する必要があると判断すれば、検察や連邦警察に指示する権限を持つ。
 今回その役割を担うのが、レナン・カリェイロス上議(MDB)だ。懐かしい名前ではないか。
 エドアルド・クーニャ下院議長時代に、上院議長だった彼だ。LJ作戦の容疑で両院議長はジリジリと辞任を迫られ、クーニャ下院議長は最後の最後のでもろくも陥落したが、カリェイロス上院議長は無理押しを続けて、なんとかしのいだ。あの際のふてぶてしさはクーニャ氏をしのぐものがあった。

2018年9月、アラゴアス州マセオ市、PTの大統領候補ハダジ氏(中央)を応援したレナン・カリャイロ上議(左、Ricardo Stuckert)

 当時、PT政権時代に政治家との交渉が苦手なジウマ大統領を裏から支える役目を、セントロンだったPMDB(現MDB)が担っていた。つまり、ボルソナロ氏が大嫌いな左派政党との太いパイプを持つセントロン体質の政治家といえる。
 PT側の意向を受けたボルソナロ政権への仕返しが繰り広げられる可能性がある。政界の裏の裏まで知り尽くした、最も伝統的な政治家カリェイロス上議が、一匹狼のボルソナロ氏をどう裁くのかが見物だ。
 以前から書いているのようにボルソナロ大統領は、「忠実なしもべ」を一人一人はぎ取られている最中だ。保健大臣、外務大臣、大統領補佐官など。今は更に環境大臣、経済相への退任圧力が強まっており、どんどん〝裸の王様〟になりつつある。
 このCPIで、「忠実なしもべ」の財布の中まで〝裸〟にされる可能性がある。汚職疑惑にまみれたカリャイロス氏が、〝正義の味方〟として政権を裁く側に立つ姿は、どこか釈然としないものがあるが、それが大人の世界の立場というものなのだろう。

裏の交渉ごとの中心は21年予算案か

2020年6月3日、ゲデス財相とボルソナロ大統領(Marcos Corrêa/PR)

 連邦政府は現在、大きな選択を両院から迫られている。何の選択かといえば、セントロンか、それともパウロ・ゲデス財相を選ぶか―という選択だ。だが実際には、選択する余地すらない。

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