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文芸

連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第67回

ニッケイ新聞 2013年5月4日  数時間すると多少いたんだものも出てくる。そうするとフェイランテは少し値を下げる。その頃を見計らって買い物に来る客もいる。最後まで売れ残ったものはそのまま道路に廃棄処分され、路上生活者やファベイラと呼ばれる貧民街で暮らす人たちが持って行く。  フェイランテの言葉に叫子は「安くしてくれないなら他の ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第66回

ニッケイ新聞 2013年5月3日 「何、お飲みになります」 「オールド8を頼むよ」 「わかりました」  オールド8はブラジル国産のウィスキーで、口当たりも日本人好みで、どこにいっても小宮はこのウィスキーを飲んでいた。その晩は客もそれほど入らなかったせいか、叫子はずっと小宮のテーブルに着いていた。アルコールが進み、小宮は何故ブラジ ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第65回

ニッケイ新聞 2013年5月1日  それは意識して事実を隠そうとするのとは違っていた。出身地を聞かれることに、未だ癒されない古傷に塩を擦り込まれるような傷みを覚えた。  叫子は小宮の言葉など耳に入っていないのか自分のことを語った。 「真剣に考えた末に移住を選択したわけではなかったの。もうどうでもいいというか、半ば諦めていた」 「 ...

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百年史刊行=6年がかりで全5巻4冊=「ブラジルの歴史の一部」=ボツや書き直しにお詫び

ニッケイ新聞 2013年4月30日  日本語版ブラジル日本移民百年史編纂・刊行委員会が07年から進めてきた『ブラジル日本移民百年史』がこのほど完成し、『生活と文化編(2)』(第4巻)と最終巻『総論・社会史編』(第5巻)が合本されたものが刊行された。各100レアルで日系書店にて全5巻(4冊)が販売されている。  昨年9月頃に編纂委 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第64回

ニッケイ新聞 2013年4月30日  この実を一度水にさらし、表皮を取って乾燥させたものが白胡椒になり、そのまま表皮ごと乾燥させれば黒胡椒になる。 「忙しい時は、実を踏みながら台所で夕飯の用意をしたこともあったよ」  彼女も必死に働いたが、聖ステパノ農場の崩壊を食い止めることはできなかった。結局、彼女がトメアス移住地にいたのは一 ...

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刊行=『躍動する沖縄系移民』=琉球大学が3月に刊行

ニッケイ新聞 2013年4月27日  琉球大学「人の移動と21世紀のグローバル社会」プロジェクトの移民研究班の成果をまとめた『躍動する沖縄系移民 ブラジル、ハワイを中心に』(町田宗博、金城宏幸、宮内久光編、293頁、税別3千円)が3月に日本の彩流社から刊行された。  これは同プロジェクトの進行と軌を一(いつ)にして開催された、0 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第63回

ニッケイ新聞 2013年4月27日 「他の子供がどんな暮らし方をしているかなんて、まったくわからなかった。今でも沢田先生のことはママだと思っているけど、ママや保母さんと本当のお母さんは違うんだってわかったのは、小学校の高学年になってからのことよ」  サンダースホームには、第一期、二期の入園者が小学校に入学する頃、朝鮮戦争で日本に ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第62回

ニッケイ新聞 2013年4月26日 「適当に二人前握って下さい。あとビールを」  二人は冷たいビールで乾杯した。 「小宮さん、聞いてもいい」 「どうぞ」 「どうしてモブラールなんかで勉強しようと思ったんですか」 「ブラジル人のところで勉強すれば、それだけ早く上達できるし、ブラジルに馴染めると思ったんです」 「叫子さんは……」 「 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第61回

ニッケイ新聞 2013年4月25日 「それじゃ後で」  小宮は彼女に目で合図した。すぐに授業が始まった。 「皆、こっちを向いてくれ。授業を始めよう。今日は算数をやろう」  彼は黒板に一桁の足算、引算の問題を十題ほど書いた。 「さあ、できるものは前に出てやって下さい」  ほとんどの者ができると手を上げた。教師が適当に指名すると、当 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第60回

ニッケイ新聞 2013年4月24日 「モブラールに通ってみます」 「文字が書けないブラジル人のための学校なんだよ」  竹沢は心配でたまらないといった表情を浮かべている。「家庭教師を雇うのならいくらか会社の方で援助するよ」 「お気持ちはうれしいのですが、しばらく通ってみます。面白そうじゃないですか。役に立たなければその時はその時で ...

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