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連載小説

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(60)

ニッケイ新聞 2013年12月11日 「そうです。西谷です」 「本当に西谷さんですね?」 「トゥクマン農園の西谷です」 「幽霊ではないですね」 「えっ?!」 「実は、町の墓地に貴方の墓標があります。しかし、生きておられたなんて、こんな、こんなめでたい事はありませんよ」 「私の墓標が?・・・、」 「立派じゃないですが」 「なぜ?  ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(59)

ニッケイ新聞 2013年12月10日 「第三トメアスです」西谷が今度は冷静な口調で言った。 「昔の面影は全くありません。ここも立派な町に変わっています」  小さな町だが、夕方とあって町の中心の酒場には一日の仕事を終えて集まった男達で賑わっていた。十数人の日系人も混ざっていた。 「電気も引かれ、スーパーもあり、あれは?! 救急病院 ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(58)

ニッケイ新聞 2013年12月7日  測量班の年配の男が、 「(ミサ?! ここでやれないのか?)」 「(ミサと云っても『ブッダ』だぞ)」 「(『ブッダ』でもいい、やってもらいたい)」 「(先を急ぐんだ)」  一番年寄りの男は考え込んで、 「(帰りにここを通るだろう)」  最後に、炊事係が持ち出した地酒のピンガ(サトウキビから造っ ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(57)

ニッケイ新聞 2013年12月6日 「しかし、中嶋和尚、気をつけて下さい。この自由なブラジルは、個人主義で『人間は生まれながらにして自分の為には悪い事をしてもいい動物』とも理解されていますから」 「ジョージさんに代表される二世は、我々一世の価値観と西洋の価値観の板ばさみになって大変でしょうね」 「ジョージは典型的な西洋人ですよ」 ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(56)

ニッケイ新聞 2013年12月5日 「真面目過ぎて、バカ正直過ぎて・・・、それは悲惨な戦争体験で日本人が得た平和への願いの表れでしょうね」 「中嶋和尚、おっしゃる通りだと思います。これは世界に誇れる日本人の心ですよ。全てとは言えませんが、我々海外にいる者は仏教徒としてではなく、ただ日本人として生きる事自体が誇りです。その誇りを捨 ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(55)

ニッケイ新聞 2013年12月4日 「それに比べ、日本仏教は、日本に渡来するとすぐに『極楽はこの様な素晴らしい所ですよ』と、現世に極楽浄土を再現させようと、朝廷の後押しもあって、奈良や京都に次々と素晴らしい寺院が建立され、美術品も次々と生まれ、極楽浄土をほうふつ;髣髴させる仏像、仏教絵画、仏具の高い芸術が生まれ、旧来あった神道の ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(54)

ニッケイ新聞 2013年12月3日 「あの恐ろしい地獄の『閻魔大王』が仏だとは・・・」 「本来は優しい方だったのですけど、今の赤ら顔の憤怒(ふんぬ)な顔になったのは中国で作られたイメージで、下界をも支配して、死の神、地獄の王となられたのです。・・・、『閻魔大王』や『阿修羅』に代表される古代インドの異教の神々は、お釈迦さまに説得さ ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(51)

ニッケイ新聞 2013年11月28日 「・・・、それは・・・、コショウ栽培がやっと調子に乗ったころ・・・、コショウの葉に白い斑点が現れ、それから二、三週間後に突然立ち枯れになる病気が出ました。それで、第一トメアスのアカラ配耕地をあきらめ、感染から逃れる様に、密林の奥に分け入って第二トメアスを開拓しました。しかし、そこでも直ぐに病 ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(36)

ニッケイ新聞 2013年11月1日  簡単な機内サービスが始まった。  女性機内サービス要員が僧侶の作務衣姿の中嶋和尚に、 「(宗教家のようですが、宗教上、禁止されている食べ物がありますか?)」  言葉が分からない中嶋和尚に、西谷が助っ人に入った。 「宗教上、食べてはいけない物がないか聞いています」 「いえ、問題ありません」   ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(52)

ニッケイ新聞 2013年11月29日 「根が煮えるのですか」 「そうなんです。それから、陽が高く昇ると暑さで作業が出来ず、一旦止めます」 「何時頃ですか?」 「十時にはもう暑くて仕事が出来ませんでした。それから小屋で朝食を取り・・・」 「小屋とは?」 「住居までは二キロの距離がありましたから、コショウ園の木陰に仮小屋を作っていま ...

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