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連載小説

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(260)

 ブラジルに帰ったとき、子どもたちに奇妙な言葉を使った。便所をトイレと呼んだ。フランス語のtoiletteが英語のtoiletになり、それを簡略してトイレとなったのだ。英語のserviceは日本式にサービスと発音した。  そして、房子はもう二度と日本には帰りたくないといった。  子どもたちははじめ、幼年、少女期を過ごし、頭で描い ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(259)

 しかし、マサユキは433票獲得したが、町中の者が知っているクロビス・シディネイ・トーン弁護士とアンジェロ・フェラリ薬剤師に次いで3位なのだ。新しい市議会で党が3席得られるのだろうか? もし、そうなったら、マサユキは当選できる。  正輝は党の選出者の多さによって議員席をきめるのにこれほど時間がかかるとは思わなかった。回りではUD ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(258)

 党のスローガンは「自由は不休の監視により得られる」だ。ヴァルガスに対抗したというばかりでなく道徳主義観が大衆の気持ちをつかんだ。また、彼が尊敬する平田進議員もこの政党に属していることも有利に働いた。平田氏は日本人子弟で最初にサンフランシスコ広場の法科大学を卒業したひとり、戦時中は日本に住んでいた。UDNの討論や実践は父正輝が応 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(257)

 マニール氏の家の奥の掘っ立て小屋ではこの先、選挙運動が進むにつれて、息子が関係者を迎えることができないと考え、さっそく、別の借家を探すことにした。子どもが多いから、ある程度大きい家が必要だ。幸い、町の中央に近いカーザ・ブランカ区に適当な家がみつかった。  借家がみつかった時点で問題が生じた。町に不動産を有する保証人が必要なのだ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(256)

 余分な罰は受けないものの、関係者は自由の身になるためになぜそんなに時間がかかったのかだれも理解することができなかった。当時の裁判進捗の遅滞を考えると、腹が煮えくり返る思いをした。  そのころ、ニーチャンは宿舎での少尉補佐の訓練も終え、陸軍中尉に昇格していた。その何ヵ月か前、サンヴィセンテでブラジル陸軍の将校としての召集状を受け ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(255)

 サンパウロの第1裁判局のダゴベルト・サーレス・クーニァ・カマルゴ判事はビアンコ検事の意見書に同意した場合、検事の意見どおり、臣道聯盟に関与した390名の被告人全てに無罪を宣言することになる。判事が同意しても、これは長い歳月がかかりすぎた。判事の説明の大部分は8年前、フェレイラ・カルバリョ検事による訴訟についてだった。  長い訴 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(254)

 まずはじめは現在あやまって呼ばれている犯罪規定、これは、刑期が始まる以前の規定だ。2番目は犯罪規定そのもの。3番目は罪あるいは刑の宣告の規定。問題なのは2番目の犯罪規定だ。法令によれば最重刑の場合、告発された日から計算される。大統領令432号によると、最重刑の刑期は5年で時効は12年、1962年4月までだ。  6章‐後の補足さ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(253)

 そのころ、「家」という言葉は屋根と壁でできた住まいを指していた。人によっては正輝一家の住んでいるところをみて、「家」とはいわなかったかもしれない。確かに前の掘っ立て小屋より多少ましだったが…だが、マッシャードス区とドン・ペドロ・プリメイロ街の2軒にくらべると、雲泥の差があるのだ。  家の前面の壁は左側からみていくと、まず、白く ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(252)

 その遅れが検事官を苛立たせた。検事が6月7日の判事に向けた書で、「遅れに疑問がある」と書いた。添付書類がついた申請書の受付日が4月26日と記録されているのに、判事が受け渡しの許可を与えたのは5月26日となっているのだ。  検事は「法律の施行を預かる検査官として、申請書の検討にあたる前に、現公証人にお伺いしたい。期限にかけては第 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(251)

 検事は、半田氏がこの地で財を成し、立派な家庭を築き上げたことなどまったく考慮しなかった。  しかし、第1裁判局のルイス・カルロッス・ダ・コスタ・メンデス判事はこの判事の意向には従わなかった。 「被告人と証人の数が多く、問題の早期解決はできない。従って、期限付きの訪日は許可されるべきだ。申請者にはブラジル国籍の子弟があり、当時居 ...

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