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世界の〝デカセギ〟事情=グローボ局が特集番組=問われる国外就労の功罪=「ブラジル人とは何か?」

12月4日(木)

 十一月十八日午後十時すぎ、グローボTV局の情報番組「グローボ・レポーター」でデカセギ特集『海外在住のブラジル人たち』が約二時間放映された。世界に二百万人ともいわれるブラジル人国外就労者たち。米国NYで大成功した事例を伝える一方、各国で起きている深刻な就労問題、密入国、引き裂かれる家族の姿などを赤裸々に報道、日本のデカセギ問題にも迫った。国外就労の功罪と共に「ブラジル人とはなにか?」という大命題を問いかけ、ブラジル全国に大きな反響を呼び起こした。この特集番組を翻訳、要約し、六回シリーズで掲載する。

 空にひるがえるブラジル国旗、シュラスコ、ココナッツ・ウオーター、サンバを踊るブラジル人――。ブラジルのどこかの街角と勘違いしそうだが、ここは彼らの自宅から七千キロ以上離れた大都会ニューヨークだ。職無し地獄から脱出し、高収入とマイホーム、子どもたちへの教育を求めて、彼らは年間十万人の勢いでブラジルを後にする。
 現在、公式発表によると、海外に移住したブラジル人の数は二百万人にのぼるという。多くは先進諸国、特にアメリカで不法就労しようとしている。

 Jシスターズ

 「すべては観光ビザでアメリカに入国した時に始まった」と話すのは美容師、ジョゼリー・パジーリャ。「英語も分からなくて、寒さに震え、仕事と住むところを探した。一年目は本当にたいへんだった」とジョゼリーの姉妹たち。
 パジーリャ姉妹の経歴は、ブラジル人移住者の間で成功物語として伝えられている。最初の入国者、ジョゼリーがアメリカに来たのは二十年以上前。懸命に働き、数ある障害を乗り越えた。「わたしたちが知っていたのは、ただ爪の甘皮を切ることだけだった」という。
 彼女の姉妹六人もアメリカにやってきた。商売を始め、いまでは、ニューヨークで流行の美容院、七人の名前の頭文字をとった「Jシスターズ」の共同オーナーとして活躍している。
 「アクレ州だろうが中国だろうが、私たちは何かをしていたはず」とジャーネ。「アメリカは私たちに好機を与えてくれた。子どもたちは英語、ポルトガル語を話し、学校ではフランス語とスペイン語を習っている。それに、ブラジルではマニキュアは成長する可能性がゼロ」とジョゼリーは言い切る。マニキュア担当のジョイセは、「朝起きて、Jシスターズのような、働きに行きたいところがあるって最高」と語っている。

 見えない小数民族

 ブラジル移住者は親戚を呼び寄せ、アメリカで大家族を築き上げるが、おかしなことに、コミュニティーは形成しない。他国の移住者のような、ブラジル人の共同体組織は存在しないのだ。人類学者、マキシネ・マルゴーリスはブラジル人コミュニティーのことを〃目に見えない少数民族〃と呼ぶ。
 マルゴーリスは、「多くの人は、アメリカ滞在は、貯金してブラジルに戻るために、一~三年、最長五年間という。しかし、半数以上は、おそらく、不法就労をしている」と証言する。
 アメリカの人口統計にも計上されず、ブラジルにも登録されていないブラジル人は、果たして何人いるのだろう。公式発表では六十万人だが、推計では少なくともその二倍の不法滞在者がいるとされている。
(つづく)
*記事中、「デカセギ」は「ブラジル外で就労しているブラジル人」の意味で使用

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