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「グローボ・レポーター」国外在住ブラジル人特集=世界の〝デカセギ〟事情(2)=ドルが支える町 G・ヴァラダーレス市=6人に1人が外国就労

12月5日(金)

 公式発表では、六十万人ともいわれる在米ブラジル人。ミナス・ジェライス州西部に位置するゴヴェルナドール・ヴァラダーレス市は、米国就労先進地として有名だ。一九六〇年代から移住事業を展開、ブラジル労働者を送り込んだ。同市役所によると現在、少なくとも市民六人に一人が外国滞在、国外就労している。

 引き裂かれた家族

 同市の中上流階級区は、ほとんどが自宅から遠く離れた国で働くブラジル人の汗で建てられている。不動産仲介業者ジョアン・ロメウは、「取引の六〇%が同市出身の〃外国人〃のもの」と明かす。
 グローボ・レポーター取材班は同市で、移住家族の実情を語ってくれる人物を訪ねた。
 元清掃員、マリア・サンタナは誇りをもって自宅を案内する。彼女は女手一つで七人の子どもを育てた。「かつては家賃を払い、今の台所ぐらいの大きさの家に住んでいた。コンロがなくて、家の横で煉瓦二つを並べて火をくべ、炊事をしていた」と当時を思い出す。
 しかし、一人目の息子が旅立ったことで、そんな生活に終止符を打った。いま、子どもたち四人がアメリカで働いている。淋しさを感じ、会いたい気持ちは募るが、それでもマリアは「これでいい」と自分に言い聞かせている。
 ボストンの飲食店従業員、ジェルーザ・アドリアーノ・デ・ソウザは小さな子どもたちの母親だ。家族のなかで国外就労は彼女だけ。彼女はただ、息子のマテウスをブラジルの家族に預けるため、短期滞在しているだけだった。祖父母のもとで、一歳三ヵ月のマテウスとその三人の兄弟は、母親が稼ぐドル紙幣によって育てられる。
 「とても辛いけど、息子をブラジルに残すつもり。私が帰国する時、息子はもう歩いているでしょうね。そして、私のことは知らないというでしょう。彼は祖父母を父親、母親として暮らしていくのよ」。
 ジェルーザは語る。「息子のためなの。本当に悲しくて、泣いて、不安にさいなまれて…、でも、心の準備はできているわ」。

 不法就労の現実

 明確な数字は誰にも分からないが、ワシントンDCのブラジル大使館によると、八百人以上のブラジル人が刑務所に収容されているらしい。ここ四十日間だけで、六十人以上のブラジル人がボストン地域で逮捕された。四十人以上が留置場に入れられているが、彼らは不法滞在者。間もなく強制送還される予定だ。家族や友人が留置場を訪れても、たった二時間、三十人に限って面会が許される。
 九月、グローボ取材班は米国で、ゴイアス州出身のマリア・ド・カルモ・アモリンと知り合った。彼女の夫は強制送還の日まで、留置場に拘束される。取材班がその小さなアパートに訪れた時、マリア・ド・カルモは四人目の子どもの出産を間近に控え、夫を訪ねに行くことができない状態だった。
 「どうしたらいいか分からない。夫がどこにいるのか、二歳の娘に見せることもできない。夫は彼女とかくれんぼをして遊ぶのが好きだった。娘は今でも、お父さんは家のどこかに隠れているんだ、と思っている」。
 マリア・ド・カルモが最後に夫と会ったのは二十日前、夫が逮捕された時だ。午前五時ごろ、入国管理局職員が家の扉を叩いた時、七歳の息子は夫婦と一緒に、川の字になって眠っていた。子どもたちの前で、夫は手錠をかけられ、連行された。「映画の一シーンのようだった」と十歳の息子、パウロ・エンリッケ・アモリンは語る。
 残された家族は、アメリカを出る術を知らない。母親は長旅をすることができず、幼い子どもたちの面倒をみる親戚もブラジルにはいないからだ。
 「帰国したとしても、ブラジルには何もない。私たちは、まだ、私がアメリカに来た時の借金を払っている。多くの人が幸運を掴む一方、私たちのような不運に見舞われる人もいる」。マリア・ド・カルモは途方に暮れた。

■世界の〝デカセギ〟事情=グローボ局が特集番組=問われる国外就労の功罪=「ブラジル人とは何か?」
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■「グローボ・レポーター」国外在住ブラジル人特集=世界の〝デカセギ〟事情(6・最終回)=ブラジル人であること=帰りたい、家族のもとに
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