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「グローボ・レポーター」国外在住ブラジル人特集=世界の〝デカセギ〟事情(6・最終回)=ブラジル人であること=帰りたい、家族のもとに

12月13日(土)

 ブラジルの旧宗主国、ポルトガルは、ブラジル人にとって母国と世界を結ぶ港のようなところだ。しかし、この国でブラジル人女性に対して、まず、最初に斡旋される職業は、〃売春婦〃だ。

 人権はない

 「ポルトガルにはカーザ・デ・アウテルナスというネットワークがあり、少女たちを誘い込んでいる。少女たちは職業斡旋を受け、パスポートは押収される。帰国するには、少なくとも一夜を誰かと共にしなくてはならない」と、プリンセーザ・ペイショット博士。
 移民は逮捕されやすい。その国の習慣を知らず、詐欺であることも分からない。人権はないに等しい。
 「生まれ故郷にいる方がいい。ここは、移民は歓迎されず、虐げられる。家族を援助するにはいいが、虐待は辛い」というブラジル人、ヴァグネールは異国の地で自殺を考えるまで精神的に追い詰められた。

 アイデンティティー

 「ブラジル人であること」とは、何か。
 ブラジルから遠く離れ、見知らぬ土地で自らのアイデンティティーと祖国の文化を保つ人間であること。
 ニューヨークの街角で歌われ、踊られるサンバは、海外で生活するブラジル人たちを郷愁に誘う。彼らの淋しさを紛らわす、一つの方法だ。
 大通りで、ポルタ・バンデイラがニューヨーク市民を熱狂の渦に巻き込む。リオ出身のナンシー・バストスは、アメリカに移住したブラジル人女性が就く、最も一般的な職業に従事している。
 五年前、ニューヨークにやって来たナンシーは、ベビーシッター(子守り)や週四回、高齢者のお手伝いのほか、ポルタ・バンデイラとして華麗な踊りを披露する。
 「こんな場所に留まるなんて、考えもしなかった。でも、家族、特に母親を援助するために働かなくてはいけない。ブラジルに戻る日まで、もう少しここにいなくては」と語る。

 いつか、ブラジルへ

 帰りたい。家に、家族のもとに、祖国に帰りたい――。
 世界に散らばるブラジル人たちの夢だ。「私の運命は向こうにある。いつかは分からないけど、でも、そうなんだ」と日本在住の若者、元デカセギで現在、コンピュータ教室を経営するファビアーノ・ヒグチ。
 「彼は来年六月、ブラジルに戻ってくる」とナターリア・デ・スプーザ・ラセルダ、ニューヨーク近郊のレストランで不法就労している夫のことを思う女性はいう。
 「いつか、息子が私に会いたいと思う時が来たら、神様が望むならば、私は帰国する」と、息子をミナス州の家族に預け、再びアメリカに渡ろうとしている飲食店従業員、ジェルーザ・アドリアーノ・デ・ソウザ。
 「もうすぐ、私たちもブラジルに帰ることができるわ」と語るのは、マリア・ド・カルモ・アモリン。アメリカから強制送還された夫がゴイアス州で彼女ら家族と会える日を待っている。
(おわり)
*記事中、「デカセギ」は「ブラジル外で就労しているブラジル人」の意味で使用

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