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教科書 時代を映して変遷(17)=州立校では初の試み=レジストロ日本語が選択科目に

5月7日(金)

 「これは、何ですか?」「それは、しっぽです」「これは、何のしっぽですか?」「それは、ぞうのしっぽです」
 サンパウロ市から西南に百八十九キロのレジストロ市。三月十二日午前、州の外国語センター・ヒロシ・スミダで、州立校に通う児童・生徒二十人ほどが、日本語を学んでいた。
 八九年に、日本語を選択科目として取り入れた。州立校では初めての試みだった。学習者の九割以上は非日系人だ。
 この日の授業テーマは「ぱぴぷぺぽ」、「ばびぶべぼ」。濁音を使って、語彙や文型練習を積んだ。教室に入ると、学習した内容を試したいのか、目を輝かせて「お名前は何ですか?」などと質問を浴びせてくる。
 サンパウロ日本語スピーチコンテスト(ブラジル日本語センター主催)の参加常連校。「レジストロが来なかったら、人数が三分の一ぐらいに減ってしまいます」と主催者をうならせる。
 「子供たちが何でも積極的に、取り組むんですよ」。教師の金子山田慶子さん(二世、五九)の目尻が下がる。
 スピーチコンテストの前になると、金子さんや生徒の自宅で練習を重ねる。時間外手当が支給されるわけではないので、ボランティアでの協力だ。
 レジストロでは『新文化初級日本語』(凡人社)を採用。子供たちの生活環境に合わせ、語彙を調整して使っている。「ラジオ体操やロールプレイなど運動やゲームも取り入れ、遊びながら楽しく勉強させたい」。
     ◇
 「空いている教室が存在するのなら、外国語教育を行ってもよい」 
 八〇年代後半のある日。そんな記事が地元官報に掲載された。州立ファビオ・バレット校PTA役員(当時)のニシムラ・イサオさんの目に止まり、日系人が学校建設に向けて動き始めた。
 イニシアチブをとったのは故隅田弘・同校PTA会長(当時)。市議やレジストロ野球クラブ会長などを歴任、地元の顔役だった。
 市内外の有志から計二百五十万クルゼイロの寄付を集め、三カ月間でバレット校の敷地内に平屋建の校舎を完成させた。規定によりまず、スペイン語講座を開設。半年後の八九年二月に日本語講座がスタートした。
 九〇年代の半ばにバレット校の改築に伴って、外国語センターも新築された。二十人ほどだった生徒は今、四倍の八十人にまで増えた。
 同センターの正面入り口には、隅田氏の功績を称える顕賞碑が建つ。碑文には、ポルトガル語でこう記されている。
 「外国の文化を知りたかったら、まずその国の言葉を覚えよ」
     ◇
 食品大手のサヂアが日本とシンガポールに事務所を開設。その準備のために、ファビオ・オリベイラ・ロドリゲスさん(二四)が三月に、日本に派遣された。 同外国語センターの出身。裕福とは言えない家庭に育った。日本語学習に対する情熱と実力が見込まれて、多くの団体・篤志家が支援、大学を卒業した。語学力を武器に、仕事をこなし、在校生たちのあこがれの存在だ。
 勤勉実直─。日本では美徳とされる性格を持ち合わせていることでも評価が高い。もちろん、日本語学習で身につけたものだ。金子さんは「ブラジル学校は知育だけですが、言葉を通して人間をつくりたい」と言い切る。
 サンパウロ、パラナ州内の公立校で日本語を選択科目として取り入れている学校は、二十五校。計千二百九十二人(〇三年)が学ぶ。つづく。                             (古杉征己記者)

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