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県連ふるさと巡り=リベイラ沿岸とサンタカタリーナの旅=第7回=ラーモス移住地=心に響く長崎平和の鐘=小川さんの被爆開拓談聞く

ニッケイ新聞 2008年5月17日付け

 四日目の四月二十二日朝、フライブルゴのホテルを出発し、約七十キロ離れたフレイ・ロジェリオ郡のラーモス移住地へ向かった。クリチバーノス市との州道は昨年舗装されたが、こちら側からの道は相変わらず未舗装路のために、一行の乗る豪華バスでは通行できず、簡素な車両に乗り換えて向かった。
 一時間後、移住地の入場門のような立派な鳥居を通り過ぎ、長崎平和の鐘公園につくと、同地の草分け、小川和己さん(79、長崎県出身)が待っていた。丘の上には、鶴をモチーフにした鋭く天を刺すような平和の塔がたっている。一行は息も荒く坂道を上る。
 サンタカタリーナ州と日本政府の共営移住地として六四年に入植が開始された時、小川さんは第一陣として原始林を切り開いた。
 十六歳で被爆した自らを先頭に七人の被爆者を含めた一族十二人で入植。叔母は約十年後に、弟が約二十年後に相次いでガンで亡くなった。
 小川さんは一行を前にし、次のように公園の由来を説明した。「入植当時は大木がいっぱい。具合が悪くなっても病院にも連れて行くことも難しく、叔母は苦しみながらガンで亡くなった。弟も開拓中に若い志をガンで断たれた。被爆者のほとんどがガンでなくなった。二人が息を引き取るのを見て、ブラジルにきて幸せであったが、戦争の不幸は繰り返してはならないとの思いを深くした」。
 一行は静かに聞き入った。「弟が夢に出てきて、こういうことは二度とあってはならないと言うんです。私は全身を奮い立たせ、平和の鐘を世界恒久平和のために活かさなくてはと思い、公園建設を思い立ったのです」。
 小川さんは九八年に長崎県国際親善協会の武藤為一会長から平和の鐘の寄贈を受けて公園建設を思い立ったが、先立つものがない。悩んだあげく九九年、当時のアミン州知事宛てにダメで元々と思いつつも、平和を訴える公園を作りたいので建設委員長になって協力して欲しいとの〃直訴状〃を書くと、むしろ全面協力を約束してくれた。
 当時、パラナ州環境長官だった中村矗(ひとし)さんも「人種、宗教を超えて平和公園を」という理念に賛同し、公園設計に積極的な協力をしてくれた。
 〇一年に定礎式、〇二年には長崎市から慶祝団を招いて第一期工事完成を祝う式典が盛大に行われた。以来、すでに一万五千人が訪れているという。
 今年四月六日に移住地を訪れたネルソン・ジョビン国防大臣と斎藤準一ブラジル空軍総司令官も来園し、平和の鐘を撞き、銀杏の苗木を植樹した。小川さんはイチョウを選んだ理由を「被爆した後、イチョウが芽を吹き、被災地のみなさんに希望を与えてくれた」と説明すると、大臣は「立派に育つといいな」と嬉しそうに語ったという。
 その場で、日本進出企業などへ就職をしながらも父の志を継ぐために最近、移住地に戻ってきた長男の和郎さん(45、二世)、三男の哲郎さん(40、二世)も紹介され、一行から大きな拍手が送られた。
 小川さんの話のあと、一行を代表して新川一男(広島県人会理事)、広島子弟のタツミ・エリーザさん、最多参加者の和田一男さん、最高齢参加者の河合五十一さん(96)、長友契蔵団長、交通事故にもめげずに活躍する及川君雄さんが、それぞれの想いを込めて三回ずつ鐘を撞いた。
 一行の一人、多川富貴子さん(71、三重県)は「及川さんのついた鐘の音の響きに胸をうたれた」と感動した様子。「いい職に就かれていたのに、お父さんの仕事を継ぐ決心されたと聞き、ごりっぱな息子さんに恵まれていると感心した。これも長崎での大変な体験を乗り越え、公園建設の夢を実現した親の後ろ姿をみて育ったおかげだと思います」と感想をのべた。(つづく、深沢正雪記者)



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