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県連ふるさと巡り=リベイラ沿岸とサンタカタリーナの旅=第9回(終)=トレーゼ・チーリャス=〝ブラジルのチロル〟満喫=「移民としての共通点感じる」

ニッケイ新聞 2008年5月24日付け

 四月二十二日夕方、桃梨の里ラーモス移住地から、「ブラジルのチロル」と呼ばれるオーストリア移民が作った町トレーゼ・チーリャスへ向かった。
 チロル風ホテルの夕食後には、同地で最も有名なチロル伝統音楽バンドマスターとして知られるベルナルド・モーゼルさん(61、二世)率いる家族楽団八人のショーが行われた。
 「民族的なルーツ継承を尊重してくれ、人種差別をしないブラジルは本当に素晴らしい国だ。こんな国は他にないよ」。ショーそっちのけで、モーゼルさんはブラジル賛歌を語り始めた。
 この町では公立小学校でドイツ語の授業があり、チロル風の家を建てるとIPTUを三〇%割り引くなど市が率先して文化継承に注力している。
 モーゼルさんは「大半の子孫家庭ではドイツ語を使っているから、みんなバイリンガルだ。これからも守っていかなくては」という。「十月の移民七十五年祭は十日間も盛大にやるから、みなさんまた来てね。本国から四つも芸能団体がきて公演するよ」と呼びかけた。
 翌四月二十三日朝、移住地創立者のターレル大臣が住んでいた小城のような家で、今は史料館となっている建物を訪ねると息子のエルネストさん(79)が迎えてくれた。「ボクは五歳で来たんだ」というポ語は訛りがきつく聞きづらい。身長は百九十センチもあり、真っ白な肌をしている。
 三三年十月十三日、台頭するナチスドイツの脅威から逃れるために、アンドレア・ターレル農務大臣自らが約百人の同胞を連れて移住した。移住先選びに南米各地を歩いた大臣は、チロルの気候に最もよく似た朝霧のたつ同地を選んだ。本当はもっと来るはずだったが三九年にナチスが侵攻、移住を禁止したために後続が絶えた。
 その間八百人近くが移住し、彼のような一世は「現在も八十人ぐらい生き残っている」という。町の人口は五千七百人で、三二%が子孫というから千八百人ほどで、七十五年間で二倍強にしかなっていない。
 四世まで生まれているというので随分と増加率が少ない。そこでモーゼルさんが言っていた「二重国籍者が千二百人もおり、本国就労者が人口の一三%にもなる」という言葉を思い出した。おそらくそのまま本国に定住した人も多いだろう。ここもまた「コロニア空洞化」の最中にある。
 一行が昼食に寄った私設チロル公園「リンデンドルフ」の共同社長、ヴァウテル・フェルデルさん(41、二世)も数年間本国就労し、そのお金で兄弟とこの施設を創業した。目玉はフェルデルさんが本国で習った技術で二年半がかり作っている、町のミニチュアだ。
 社長自らバンドネオンを弾き、若者十人ほどが民族舞踊を披露してくれた。自分の股や膝を叩いたり、お互いの身体をたたき合って音を出しながらユニークに踊り、客席から笑い声が絶えないショーだった。その後、土産物店や特産の木彫工芸を見学した。
 同地には、州都フロリアノーポリスにもないオーストリア総領事館まで特別に設置されており、本国からの手厚い支援が伺われる。
 一行の荒井寿恵美さん(74、二世)は今回の旅全体を振り返り、「ドイツ人もイタリア人も自分の文化を残そうとしていることに感心した」と語った。
 飯田正子さん(75、二世)も「どこでも移民としての共通点を感じた。なんだか他人じゃないような気がする。私たちの親がした苦労とあの人たちの親がした苦労はきっと一緒だと思う」としみじみ振り返った。
 先述のモーゼルさんは「あなた達はもう百周年で我々の先輩だ。僕たちは二十五年も少ないが、しっかりと伝統が息づいているのをみてほしい」、そういってショーを始めたが、むしろ日系コロニアの方が彼らの生き方に学ぶべきことがあるかもしれないと、ふと思った。
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 四月二十四日朝、サンパウロ市に到着する直前の帰路のバスで、ふるさと巡りのコーディネーター伊東信比古さんは「今ごろ東京じゃあ百周年式典が始まっているな。いよいよ百年祭だな」とつぶやいた。一行百八人からは一人の脱落者もださず、無事に六日間の旅を終えた。
(終わり、深沢正雪記者)



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