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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(118)

 ヨーロッパ、アジアにおける戦争の進展、ブラジル政府の国粋主義強化は移民の生活を根本的にゆるがした。新しいブラジルへの移住の道は閉ざされたのだ。1941年8月13日、ブエノスアイレス丸がサントス港に錨をおろし、最後の移民471人が下船した。そのなかに房子の長姉、亡くなったウサグヮーの母、カマドゥーがいた。孫のエイソー(イイムイ カマーの長男)に付き添われていた。エイソーは勉学のため日本に行っていたのだ。33年前、初めてサントスに入港した笠戸丸以来つづいたブラジル移民に終止符が打たれた。その間、19万の人間が移民として受け入れられてきた。
 1941年12月7日、真珠湾攻撃のあと、日米戦争が宣言された。それまでどちら側とも意向を示さず参戦していなかった国々が動き出した。1942年1月15日から27日にかけ、リオデジャネイロにおいて、南北アメリカ外務大臣の会議が行われ、アルゼンチンとチリをのぞく、国々がドイツ、イタリア、日本の枢軸国との経済関係を打ち切った。1942年1月29日にはブラジルと日本との外交関係が断絶した。その前日、日本の外務関係各所は(大使館、領事館、その他の事務所)はブラジルでの活動を停止した。
 すでに互いに情報を得たり伝えたりする情報網を失った移民たちは、苦情や心配事を訴える手段をなくしてしまった。自分たちの土地でもないところにやっとの思いで馴れ始めた移民たちは、この地に捨てられたと感じるようになっていった。だから、ある者は家族と帰国すると言い出した。安全のなさ、政治、イデオロギーの問題がその理由だった。安全性を考えた者は日本そして日本人の近い将来を考え、ブラジルより危険性のないところに移りたいと思ったのだ。
 また、政治、イデオロギーを考えた者の中には自分たちが大東亜共栄圏発展に貢献したい、日本がアジアの将来を担っていく運命にあると思った者もいた。
 ブラジルに着いて以来、重なる不運、特に何ヵ月か前の家族に起った悲惨なできごとにかかわらず、正輝はすぐに日本に帰るというグループには入らなかった。心のうちで、日本に帰りたくないと思ったわけではない。故郷の新城を後にし、神戸に行き、若狭丸でブラジルに来て以来、経済的に恵まれず、故郷の家族のもとに帰ることができなかった。沖縄に残った家族に大金をもってかえることができなくても、こんどこそ帰国するいい機会かもしれないと思った。帰郷は愛国心を示す大きな理由となるはずだ。日本には輝く将来が待ち構えていると耳にした。これこそ、チャンスかもしれない。
 だが、そのときの正輝には日本に帰る条件が整っていなかった。家族が膨れ上がりすぎていた。ツーコが生まれ、すでに4人の子どもがいた上、ウサグヮーの二人の孤児を育てていた。三男のヨーチャンが死んで日が浅く、この地に埋められている。彼の墓を捨てて、日本に帰るなど、沖縄の宗教観に反することなのだ。
 ブラジルに残る人たちといっしょに大和魂を養い、現在くりひろげられている歴史的自国の戦闘に尽くすこともできる。とにかく彼の肩にのしかかる家族の生活を無視するわけにはいかないのだ。ブラジルにいつづけるとしても、今まで生きてきた24年間とは全く違った新しい現実が彼にのしかかってくる。

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