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日伯修好125周年で「日伯200周年基金」を

昨年の県連日本祭りの舞台で披露されたレプレーザ文協の阿波おどり

 日伯修好125周年を記念して、「日伯200周年基金(Fundo de Bicentenario Brasil-Japao)」というのを作ったどうだろうか。

 振りかえれば、2003年の本紙新年号で、サンパウロ人文科学研究所顧問の故脇坂勝則さんは《移民100周年記念基金を=文化・学術振興図れ=日伯友好の絆強固に》という俊逸な提言をした。

 日本政府より3年間に亘り年間10億円、総計30億円の基金原資の贈与を受け、「ブラジル日本移民百周年記念基金」を設ける。その運用益をブラジル国内の学術、文化、社会的各種プロジェクトへの助成金として毎年重点的に配分するというアイデアだった。

 当時の計算で30億円の運用益は年間4%として、1億2千万円、1ドル120円ならば100万ドル相当となる。

 脇坂さんは《既に大部分が故人となった25万人の移民の慰霊、140万人の日系人への慰労とブラジル人・ブラジル国との友好のためへの政治的決定に基づく「基金」設定への政府支出予算なのである》とその意義を説く。

 この基金構想が良いのは、日本の23倍もの広い国土を持つブラジルのあらゆる場所で恩恵が受けられることだ。国士館スポーツセンターの活性化が120周年のメイン事業になったが、恩恵を受けるのはサンロッケ市から数十キロ圏の範囲だろう。

 脇坂さんの提案は《毎年、ブラジル領土内にある、学術研究機関、文化団体、社会的福祉機関、環境保護団体等が提示するプロジェクトを厳重な検討を行った上で重点的に選び、助成金を配分するわけである》というものだ。日系、非日系関係なく、ブラジル領土内にある全ての機関・団体が対象となる。

 結局、そのような基金を作ろうという動きは高まらなかったが、脇坂さんの志の高さは光った。

 

「宮坂国人財団がもう一つ欲しい」

 

 日系社会の基金といえば1998年、南米銀行が合併された後、その流れをくんで創設された「宮坂国人財団」がほぼ唯一の存在だ。南米銀行がいろいろな事業やイベントに協賛してくれていた活動を引き継ぎ、「南銀の置き土産」として日系社会にはなくてはならない組織となっている。

 ただし、年初に様々な出資希望プロジェクトが殺到し、3月頃には資金切れになってしまう状態だと聞く。「宮坂国人基金のような存在がもう一つあってもいい」という声は、コロニアのあちこちで聞く。

 また聖南西文化体育連盟(UCES、山村敏明会長、25団体)では2016年から5年がかりで『300万レアル基金プロジェクト』を始めた。これは、ピニャール在住の資産家・天野鉄人氏が提案したもの。

 来年がその5年目となり、運用益の一部が日本語教育やスポーツなどの会活性化活動に投資される見込みだ。ただし、その投資先は基本的にUCESの活動に限られるだろうから、他の地域にはあまり関係がない。

 ならば、日伯修好125周年を記念して新基金を作る提案を日本政府にしたらどうか。

 

伯国独立200周年から日本移民200周年まで

  

 昨年末、秋田県人会の川合昭会長から、「10億円の県連基金の創設」というアイデアを聞いた。主に県連日本祭りを支援するための基金で、日本との太いパイプを持つ河合さんならではの俊逸な発想だと感心した。

 それをベースに、脇坂さんの「百周年基金」の発想を加味して、次のような主旨を基金設立目標にしたらどうだろうか。

 《25万人の移民の慰霊と190万人の日系人への慰労、および日本文化の継承と普及を進めることにより多文化環境の醸成を進め、ブラジル発展と日伯友好に貢献する基金》

 「日伯200周年基金(Fundo de Bicentenario Brasil-Japao)」という名前は、「ブラジル独立200周年」(2022年)から運用を開始し、「日本移民200周年」まで日本政府から資金を借りて運用する財団を作るという所からきている。その間に、日本文化の継承と普及を進めることで、多文化環境の醸成を進めてブラジル発展に貢献することを目標にしている。

 たとえば30億円を日本政府から貸してもらい、ブラジル日本都道府県人会連合会が中心になって管理し、運用益の一部を(1)県連の日本祭りを含めた各地の日本祭り支援、県人会やその青年の活性化プロジェクト、(2)移民史料館助成および日本移民史や日本文化に関するポ語出版の補助、(3)日本語教育に限定して使わせてもらうのだ。これを3本柱として、それぞれ10億円相当の運用益を割り当てる。

内閣府サイトの「平成28年度クールジャパン関連予算(概要)」にはジャパン・ハウスの予算(灰色部分)がその年だけで42億円とある(https://www.cao.go.jp/cool_japan/platform/budget/pdf/2016_gaiyou.pdf)

 ちなみに「30億円」は高いと思う人がいるかもしれないが、「平成28年度クールジャパン関連予算(概要)」(https://www.cao.go.jp/cool_japan/platform/budget/pdf/2016_gaiyou.pdf)では《ロンドン、ロサンゼルス、サンパウロの3都市で「オールジャパン」の発信拠点であるジャパン・ハウスを創設》として1年間で42億円が計上されている。これらは維持経費として使われ、施設が無くなれば消える。だがこの基金は残る。

 この3点を強化することで、移民150周年の頃の日系社会はもっと力強い活動をしているのではないかと考える。

 (1)の日本祭りへの支援だが、現時点で最高の「日本文化普及策」、かつ「地元日系団体の資金調達方法」、「若者を引き込んで団体を活性化する方策」の3つを兼ねたものが《日本祭り》というイベントだと思う。

 そのモデルといえるのが県連日本祭りであり、それを地域に合わせて縮小・適用したものが、各地で続々と生まれている。2019年3月にサンパウロ人文科学研究所の日系団体調査の結果が発表された際、「日本祭り的なイベントは88を数える」と言われた。

 その後、昨年だけで「カンポ・グランデ日本祭り」、マナウスの「ジャングル祭り」などが始まったから、少なくも毎年90以上の「日本祭り」が全伯で開催されている。

 こんなにたくさんの日本文化イベントを開催している国は、日本以外にはブラジルしかないだろう。そして、これ以上の日本文化普及方法はないと思う。

 このような長所をもっと伸ばし、永続化させることによって、今後50年、100年と日本文化をブラジルに根付かせることができる。そのための基金だ。

 日本祭りをもっと増やし、それによって地元日系団体の経済基盤を確固たるものにし、日本芸能の発表の場を作って文化継承活動に目的を与える。日本祭りの目玉として日本から文化人やアーティストを呼ぶ招聘費用にも使いたいところだ。

 

移民史料館と日本語教育も大黒柱に

 

 (2)に移民史料館やポ語移民史料刊行が入っているのは、日系子孫が自分のルーツ意識を覚醒させるために重要だからだ。と同時に、ブラジル国発展には、「外国人移民」という存在が大きな役割を果たしてきたことを、世代を越えて認識してもらうためだ。

 日系子孫がルーツ意識を覚醒させるには、日本移民史に関する知識を深める必要がある。現在のように基礎的な日本移民史文献が10冊程度しかポ語訳されていない現状では、それはむずかしい。最低でも100冊は翻訳して、関心を持った人がすぐに手に取れる状態にしなければいけない。もちろん紙でなく、デジタルの形でも構わない。

 なぜ(3)の日本語教育が加わっているかと言えば、ブラジル日本語センター理事長の日下野良武氏も2018年5月に東京で、日ブラジル会議員連盟(麻生太郎会長)の会合で講演し、「日本語教育を恒久的に続けていくには10億円程度の基金を設立が必要だ」と訴えていたからだ。

 だが、このプロジェクトは日本との繋がりが強い一世が生き残っている間に初めて、形にしないと実現は難しい気がする。秋田県人会の河合会長はもちろん、日本移民110周年祭実行委員長の菊地義治氏、日下野理事長らの力を終結して、そのような流れを生み出せないだろうか。

 もしも実現すれば、移民200周年に向けて、日系後継世代を育成するプロジェクトが立てられ、日本文化ファンのブラジル人にさらに日本文化を普及しやすくするための置き土産になる。

 大事な点は、これはもらうのではない。いわゆる「乞食根性」ではない。あくまで貸してもらうだけだ。「移民200周年までに返す」と最初から明記する。常に移民200周年を意識して、それまでに運用益の中から「次なる基金の原資」をひねり出す計画を練るようになるからだ。

 

年を経るごとに日伯関係が緊密になる仕組み

 

 各地の日本祭りによって日本文化に興味を持った若者は、最初は漫画やアニメから入って、徐々に太鼓やYOSAKOIソーラン、民謡、茶道、華道などと深めてもらい、その過程で日本語教育に進んでもらう。

 現在、ブラジルの日本語教育界は生徒も教師も非日系の割合が増えており、彼らは日本を直接知らないままに、日本語を勉強したり、教えたりしている。そんな彼らが気軽に日本を体験してもらうようなプログラムが必要だ。最低限必要なワーキングホリデービザに加えて、日本語研修短期ツアーのようなものをもっと増やしたいところだ。だから、日本語教育にはもっと投資をしなければいけない。そのための基金でもある。

 日本語教育まで進んだ三世、四世、日本文化ファンのブラジル人は、日系企業にとっては得難い人材であるとともに、日本側の多文化人材にもなって欲しい人たちだ。

 人口減少が叫ばれる日本で、ブラジルから有為な人材を提供するためのシステムとしても機能するに違いない。

 以前はデカセギによる人の流れが圧倒的に多かった。だがこの基金による支援でもっと高度人材が行き来するようになることが期待されている。

 その結果、日伯を繋ぐ人材がどんどん輩出され、年を経るごとに2国間関係はますます緊密になる。そんな「仕組み」を今のうちに作れないだろうか。(深)

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