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中島宏著『クリスト・レイ』第35話

「この前も話したと思うけど、イエズス会の重要なメンバーでもあったフランシスコ・ザビエルが、宣教師として初めて日本を訪れて布教を始めたのが十六世紀半ば辺りだったけど、彼だけでなく、その後ポルトガルから何人かの宣教師たちが日本に派遣されたわ。
 そのお陰で、それまでキリスト教というものが存在しなかった日本に、半世紀ほどの間に瞬く間に広がっていったわけ。どうしてそれほどの勢いで広まったかというとね、あの時代、西洋からの文明がポルトガルを通じて本格的に日本にやって来たということで、日本人にとってはそれがすごく衝撃的で、新鮮な刺激を受けたということなの。そして、その流れに乗ってキリスト教という西洋からの宗教も思いがけない勢いで受け入れられていくことになったわ。
 日本の歴史などマルコスに話しても分からないと思うけど、その当時の日本は戦国時代といって、国として一つにまだまとまっていないという時代で、日本という同じ国の中で何十もの小さな勢力がお互いに争いあって、絶えず戦争を繰り返していたの。そして、その状況をようやくひとつのものとしてまとめ上げていったのが、織田信長という殿様だったのだけど、ちょうどそんなときに、ポルトガルからの日本への進出が本格的に始まっていったわけね。
 フランシスコ・ザビエルよりも六年ほど前に、ポルトガルからの船が、日本の南の地方にある種子島という島に漂着したけど、それが日本と西洋との直接的な接触の始まりだったわ。
この時、日本に初めて鉄砲というものが伝わったの。
 それは、織田信長が戦国時代に終止符を打つようにして日本をまとめた時期から、およそ三十年ほど前のことね。そして、驚くのはその短い期間に、それまでの日本の戦の形が一度に変わってしまうというほどの強い影響を、このポルトガルからの鉄砲がもたらしたの。織田信長が、その勢力を大きく伸ばしていったのも、この鉄砲という、当時の日本にとっては新兵器を、積極的に使った結果だともいわれているわ。
 だから、織田信長は、西洋からの新しいものに大きな関心を示して、それをどんどん取り入れようとしたの。キリスト教もそのうちの一つだったけど、そういう、日本にとっては新しい宗教に対しても、彼は拒むことをせず、何回かに亘って日本へやって来たイエズス会の宣教師たちも大いに歓迎し、もてなしたと言われてるわ」
「これはちょっとびっくりというところですね。ポルトガルがあの時代、そこまでの大きな影響を日本に与えたということは、僕、全然知りませんでした。かなり、びっくりです。でも、それだけだと、キリスト教は歓迎されても、迫害を受けるような理由は、そこには何もないように思いますが」
「この話はまだまだ先があるの。マルコスには一度に理解できないし、細かなことを説明しても、もっと分からなくなってしまうから、簡単にかいつまんで話すわね」
「でも、あまり簡単すぎると、話がかえって通じなくなることもあるから、別にそこまで気を使わなくてもいいです。必要なことはちゃんと説明してもらっていいですよ。アヤの話し方は分かりやすいし、僕も何とか付いて行けそうですから」

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