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特別寄稿=突じょ大幅改編した内閣人事=「吾(わが)政府」実現したいボルソナロ氏=サンパウロ市在住  駒形 秀雄

 先週、3月末から4月始めに掛けて、ボルソナロ内閣の多くの大臣、公社幹部の入れ替えが発表されて、「何で急に」とコロナウイルスで活動休止中の国民を驚かせました。
 大臣の交替が発表された省庁の中には防衛省、外務省、大統領府官房長官など重要省庁もあり、これがブラジル政治に大きな転換が起きる予兆で無ければ良いが、と心ある人々を心配させています。
 普段あまり注意していない政治の世界ですが、この先私達の生活に直接影響の出て来る話でもあり、ここはキチンと理解しておきたい所です。この種の情報のウラにも詳しい玉田さんの解説と合わせて、ニッケイ読者の皆様にお届け致しましょう。

変わったのはどんなとこ?

左からアラウージョ外相、大統領、大統領次男のエドゥアルド下議(Foto: Marcos Corrêa/PR)

 今週の交替人事は大規模で、大臣級で6人、その下部組織迄入れると二十数か所となり、歴代政権下で最も数が多くなるそうです。それで全部の紹介は他者にまかして、ここでは主な異動について申しましょう。
1)外務省=3月までの外相―アラウージョさんはボルソナロ大統領の引きで就任したのですが、一般と異なった(極右思想とか言われる)考えの持ち主で、その言動で種々の軋轢、不具合を引き起こして来ました。
 例えばブラジル産品の最大のお得意様である中国に礼を失する考えを発表したり、今回のワクチン入手で医療界と逆の発言をして、その手当てを遅らしたりしたと言われていました。ついには同じ外務省内の身内にまで「この人は適任でない」と宣言され、その辞任は時間の問題と見られていました。
 新外相はカルロス・フランサ氏で外務省の出身、低下したブラジルの対外関係の修復で期待されています。
2)防衛省=今まで大臣を務めていたのはメンドンサ将軍で軍内部とも大統領側とも関係が良いと思われていました。ところが、月曜、29日に大統領府に呼ばれ、いきなり「辞めて貰いたい」と言われ辞任が決まりました。しかも大臣だけでなく、その下につく陸、海、空の三軍の長も同時に辞任という事になりました。
 新しい陸相にはブラガ・ネット氏が就任、3軍の長もそれぞれ新しい人が選ばれました。軍の人事に大統領が介入するのは普通ではないので「スワ軍政の準備?」とデマが飛びましたが、今のところは平穏です。
 交替の理由については大統領側は「人事はこちらの判断で決めたこと。もう済んだ話だ」相手にせずです。
3)法務・保安省=連邦警察や検察庁が支配下になります。ボルソナロの子息に法的な疑惑があり、この点で「大統領府と法務省内の間の風通しを良くしようとしたのでないか」とも言われています。
 新法務大臣はアンデルソン・トレス氏で、連邦警察畑から初の大臣就任です。
4)大統領府官房長官=下院からフラヴィア・アフーダ女史が選ばれました。フラヴィアさんは議会・行政府に顔が広く、有能な人だとの評判です。今までぎくしゃくして来た議会/内閣の意思疎通に役立つでしょう。
5)、ペトロブラス(石油)、エレトロブラス(電力)、ブラジル銀行などの総裁も人事再編がありますが、詳細はまた別の機会と願いましょう。

2年前の大統領就任直後、海軍総司令官ら将官らと撮った写真(Marcelo Camargo/Agência Brasil)

トップ達は何故入れ替えられた?

 大統領が組閣する時に折角考えて決めた閣僚、公社のトップ人事なのに、なぜ今変えることになったのでしょう。皆、それぞれに理由はある訳なのですが、この辺の所を以下、1、2 の例で確かめてみましょう。
#【防衛省の場合】ボルソナロ大統領はイザと言うときは国軍を指揮する最高司令官でもあり、「実力」を持った軍を自分の形に合せられるようにしたい、と望んでいました。
 しかし軍(特に陸軍)の内部には「軍は国のために尽くすものだ。政治に足を突っ込んではならない」という強い考え方があります。軍出身ではあるけれども突飛な言動で目立ちたがり、批判を受ける大統領とは「理性的な付き合い」でした。 以下、玉田さんの話です。「大統領が陸軍幹部に会い、握手を求めたとき、相手の陸軍司令官はコロナ禍時代の新しい挨拶のやり方で(相手の手を握る代わりに、肘を曲げ腕を合わせる形で)これに応じました。大統領はぎこちない様子で掌を閉じてその場は済みましたが、大統領は「怪しからん、上級者の儂に調子を合わせなかった」「コロナ病など何するものぞ、とする儂のやり方に文句があるのか!」
 当然気にくいません。防衛大臣に「ああいう男は更迭しろ」と伝えましたが、軍内の規律を重んじる防衛大臣はそれに応じませんでした。
 この様な伏線があって月曜日いきなり「大臣辞めてくれ」となったのです。つまり「実力者の軍を抑えている」と誇示したい大統領と、「軍は国のために尽くすのが本分で、特定個人の為に働くのではない。政治に巻き込まれてはならない」の対立する考えが、ついには三軍司令官の一斉辞任と言う結果を齎したのです。
 何事もなかった様に週は明けますが、内にこもったこのわだかまりが、今後どのような形で現れるのか、気になるところではあります。
#【ブラジル銀行の場合】今回辞任したアンドレ・ブランダン(前)総裁は2020年9月、ゲーデス経済相の後押しを受けて、この席に就きました。それまでも銀行畑一本に来た人でブラジル経済、金融界に精通した人です。
 このアンドレ―さんは、お役所みたいになって非効率的な経営を続けるブラジル銀行(BB)の体質改善の計画を練り、発表しました。デジタル時代になってあまり必要も無くなった支店361店を閉鎖し、ぜい肉になっている従業員の希望退職を募るとの合理化案です。
 ところがこれに待ったが掛かりました。折角出来ている支店を閉鎖されては困る地方の顔役・議員などから「俺の町の支店を閉めるな」と多くの苦情が入ったのです。
 「そんな政治にかかわる(票にも関わる)話を大統領の吾に相談もせず発表するとは何事だ」と、これまたボルソナロさんの逆鱗にふれたのです。色々のやり取りがあった後、3月末同総裁は辞任、その合理化策を指示した顧問たちの何人かが後追い辞任となりました。
 新総裁にはやはりBB出身のF・リベイロ氏が就任となりました。ここもまた、ボルソナロ氏のゴリ押しが通り、BBの良識陣が引っ込むこととなった形ですね。

君臨するのは大統領だ

2019年8月23日、「軍人の日」の式典に参加した大統領(Foto: Marcos Corrêa/PR)

 これまでのボルソナロ大統領のやり方を見て居ると、どうも自分の配下の人達との軋轢が多い様です。
 一旦は信じてその職に任命したのですから、もう少し信用して任せたら良い様に思うのですが、その人達が一生懸命努力して世間の好評を得る様になると「この国を治めているのは吾だ」と言う気が出て来るようです。
 コロナウイルスの初期に活躍したマンデッタ保健相、ラヴァジャット汚職摘発で手腕を振るったモロ法相、今回の軍関係人事など、皆それに当てはまります。
 ボルソナロ氏は軍隊について語るのに「Meu Exercito」―吾人の軍隊―と言って物議をかもしました。普通の人なら「Nosso Exercito 」―我らの軍隊―というのが常識だからです。
 ブラジル国軍を自分個人の軍隊と思うほどに敬愛している心が現れたのでしょうが、大統領が言うとその考え方までが推測されて、非難の的にされることになります。ここからはウラ情報にも詳しい玉田さんの意見です。
 「ボルソナロは自分の配下の大臣が自分以上にもてはやされ、人気がでるのが気にくわないんだ。それに警察や法務関係をおさえておけば(自派の)疑惑を追及されるときの圧力にもなるしね」でした。
 ボルソナロさん「コロナカゼなんか怖がることないよ、元気を出して働こう」とか庶民に訴える素直な人柄で一定の人気もあるのに、やっぱり悋気(りんき、やきもち)もでるのかな。
 では反対派が言うような『能無しの大統領』なら、さっさと辞めさしてしまえばよかろうと思うのですが、中々どうして、大統領側にも強力な味方が居て手強いのです。
 ここも玉田さんです。「大統領に現職政治家の息子たちがついている。1」フラビオ上議 2」エドアルド下議 3」カルロス市議だ。これが何れも立派な男達で、種々作戦を練りITも駆使して行動している。他に勿論有力な支援者も居り、ミリシア(武器を持った地元の支配層)迄味方につけているというから、この打倒は中々簡単ではないんだ」
 次期大統領選でも30%程度の支持層があり、ルーラPTとトップを争う勢力なのです。ボルソナロの強気にもそれなりの理由があるのですね。

それでどうなるの?

演説するボルソナロ大統領(Marcelo Camargo)

 「フーン、大体の状況は分かったよ。それで政界、これから一体どうなるのかね」――中々良い質問です。
 ここも玉田さんに聞いてみましょう。
 「大統領を罷免する一番の近道はインピーチメントだ。既に約70件の罷免請求が議会に出されている。これを本会議に掛ければよいのだが、議会勢力セントロンも果たしてボルソナロを外した方が良いかどうか? 自派の利害で秤にかけて検討することになる」
 「一方、ボルソナロ派もセントロンにメリットが出るような方策をとって、インピーチメント否決票を確保するだろう。この辺のせめぎ合いが結果を出すことになるだろう」
 「ここで別に重要な要素がある。それは経済問題だ。来年度予算案で歳入(収入)に見合った歳出(支出)を基本条件に、支出の天井枠を決めていたのに、議会で、自分の畑へのお金を増やしたい議員たちが、その予算を変え、天井枠を超えた予算を決めてしまったのだ。これを訂正し、形だけでも収支バランスの取れたものにしないと財政は破綻する。国際信用はまた落ちて、外国資金も来なくなる。これは今すぐ解決すべき問題なんだ」
 「自由主義経済を標榜するゲーデス経済相も、『この予算の訂正をしなかったら、私はその責任は持てない、大臣辞めます』と大統領にこの項へのVETO(拒否権発動)を迫っています。これがどう決着するのか。
 コロナウイルスが猛威を振るう中、自分の威厳にこだわる大統領、不振脱出の道を進むか、注目されるところです。
    ☆
 こんなことを話しているこの週末に、ボルソナロ氏に最近任命された最高裁判事が新しい(又議論が起きそうな)裁定を下しました。
 『教会など宗教目的のミサ施行、集会禁止を解く』です。
 政策決定に直接関われず、目を覚ませばコロナの蔓延に脅かされる私達―。POBRE COITADO  神に祈りましょう。
(皆様のご意見を歓迎します。こちらへどうぞ=hhkomagata@gmail.com)

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