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【日本移民の日2021年】《記者コラム》環境問題で岐路に立つブラジル=政権の監視緩和に厳しい声

国際環境デーに合わせて連邦議会の建物に投射されたDecada da Restauracao、Cidades Verdesの文字

 6月18日はブラジル日本移民の日だが、国際的には5日の「国際環境デー」の方が知名度が高い。日本でも6月を環境月間としているが、ブラジルでは環境月間という見方はないようだ。この環境問題は、ボルソナロ大統領の言動が世界とのズレを生じていることで、注目を浴びている部分でもある。その流れを振り返りたい。

制裁逃れにその場限りの約束を発表

乱開発された法定アマゾン(Marizilda Cruppe/Amazon Watch/Amazônia Real)

 パリ協定離脱をほのめかしたり、法定アマゾンや先住民居住地の開発を擁護したりという、世界の動きに逆行する言動は2018年の大統領選直後から始まっている。
 その後も、法定アマゾンを中心とする不法伐採や森林火災の増加、先住民の人権蹂躙で国際社会との軋轢が生じたりしてきたが、国際社会からの圧力逃れとしか考えられない言動は、バイデン米大統領の音頭取りで4月に開催された気候変動サミットの前後も続いた。
 その一つは、バイデン氏が就任前から言及していた制裁逃れのため、2030年までに不法伐採をなくすと約束し、温室効果ガスも2025年までに37%、2030年までなら40%削減と宣言した事だ。
 しかも、不法伐採撲滅や温室効果ガス削減の方法を明示する前に環境省の予算を削減。また、環境監視機関の機能を凍結しかねない、予算削減や懲罰基準変更といった措置もサミット前後から続いている。不法伐採の取締りなどへの障壁設置や違法木材の輸出に絡んだサレス環境相ら告発の報道も、記憶に新しい。

外国企業家がブラジル産品をボイコット

 他方、議会でも、大統領に右倣え的な法案が審議され、環境意識の強い欧州諸国や企業などがブラジル産品の不買運動を起こすといった動きがある。
 その一つは、国有地に侵入し、その森林を不法伐採した人物に土地の所有を認めるという、不法伐採や不法開発を公的に促すような法案(PL510/2021)が承認された場合、ブラジルの産品の購入や販売を停止するという公開書簡送付を、英国のスーパー経営者らがブラジルの連邦議員達に送付したというものだ。
 同様の動きは以前からあり、2019年には世界的な製靴会社がブラジル産のなめし皮の購入を禁止するとの通達を出したり、ノルウェーのサケ養殖業者がブラジル産の大豆の購入停止の意向を表明したりする事態も起きた。
 現政権の環境政策が原因で法定アマゾンを保護するための資金が凍結された事や、フランシスコ法王がアマゾン保護や先住民の人権をめぐる教皇会議を開いた事も、記憶に新しい。

元環境相らが批判する法案審議進む

環境許可に関する法案の審議の様子(下院、Pablo Valadares/Camara dos Deputados)

 他国からの公開書簡送付という話は聞いていないが、元環境相らや環境問題の専門家、活動家らが批判している法律はまだある。下院が5月13日に承認し、上院に送られた環境許可に関する法案(PL3729/2004)もその一つだ。
 現行法では新プロジェクトの稼働には、予備段階(LP)、インストール時(LI)、運用時(LO)の3段階の環境許可が必要だ。だが、新法案では、LPとLI、LPとLOのように二つの許可を統一し、2段階の許可で良いとしたり、1段階のみのLAUで良いプロジェクトもある。
 最も批判されているのは、出願者が作成した書類で申請するコミットメント付ライセンス(LAC)を認めるという項目で、許可取得が不要なプロジェクトもある。
 環境許可取得が簡易化されれば様々なプロジェクトがよりスムーズに稼働し始めるという利点があるが、プロジェクトの審査が甘くなり、法を掻い潜って工事などを始める可能性もある。法案はまだ審議の途中で、変更が最小限に止められる可能性もあるが、専門家らの懸念は尽きない。

中国の需要への対応に追われる産業界

 他方、中国は太陽光発電や風力発電といった再生エネルギーへの取り組みなども盛んだが、生命倫理的な視点は欧州諸国より弱い。
 この事は、中国での家畜飼育用の飼料にブラジル産の大豆やトウモロコシを大量に買い込む、経済力がついて牛肉の消費が増えたため、ブラジルやアルゼンチンの牛肉を大量に購入といったどん欲さにも表れている。
 中国による農産物や鉄鉱石の輸入はブラジル経済を潤しているが、その一方で、国内への大豆やその派生品、牛肉などの供給量減少と国民の購買力低下が重なり、インフレや牛肉消費量がガタ落ちする事態が発生。肉が買えないから野菜多用とか、代替品を考えるといった声も聞こえている。
 森林伐採や森林火災が増えている理由の一つが農牧用地の拡大である事や、遺伝子組み換えの種子や大量の農薬を使った農産物増産が環境や健康に及ぼす影響を懸念する声も強まっている。

 ブラジル内での土地をめぐる抗争の増加も、憂慮すべき問題だ。また、自然破壊が新たな病気の流行も招くとの指摘がある。以前、ブラジリアの動物園の動物が続けざまに感染症に罹患した時、人間が森林開発などを行い、野生の動物の生息域が狭まった事が、野生の動物の間では以前から一般的だった病気が市街地の動物園の動物や人にまで感染する事態を招いたと報じられた事もあった。

現政権の環境政策や現状の見直しを

 近年の雨不足は違法伐採や森林火災の増加と関係があるというし、先住民居住地での金採掘が犯罪組織を潤したりしている事も周知の事実だ。
 環境許可に関する法案審議が具体化し始めた頃には、ブラジル民もスーパーで何を買うかをよく考えるよう勧める記事が出た。ブラジルでは生産者情報を記載した商品はほぼ皆無で、違法伐採地の産品かなどの判断は難しい。
 だが、国際環境デーの前後には5月の森林伐採や森林火災が増加との報道もあり、現政権の環境政策のあり方を考える必要を痛感させられる。(み)

★2021年4月24日《ブラジル》大統領が伐採ゼロや温室ガス削減を宣言=気候サミットで発言一転=「実態と真反対」批判の声も=PT政権の手柄を横取り?
★2021年5月18日《ブラジル》アマゾン不法伐採に免罪符?=英国企業がブラジル産品不買表明=違法占拠促す法案承認なら
★2019年8月29日アマゾン火災余波=ブラジル産皮革原料に不買通達=周辺諸国が6日に首脳会議
★2019年8月31日ブラジル産大豆の不買示唆=世界的なサケ養殖業者がアマゾン理由に

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