道のない道=村上尚子

  • 道のない道=村上尚子=(72)

     この日、父は車庫の屋根に登っていた。その近くに居た私のすぐ側で「ドサッ!」という音と共に、父が落ちてきた。車庫といっても二メートル以上の高さである。とっさに見上げると、屋根が破れて、ぽっかり穴が開い

  • 道のない道=村上尚子=(71)

     もう一匹のタロの方は、大人しくて、父が叩くのを見たことがない。あの大きなタロは、一日中、短い鎖につながれて、小屋の周りに立ち、退屈そうに眺めている。今まで、誰一人散歩にも連れ出してやっていないのは想

  • 道のない道=村上尚子=(70)

     父は母屋で寝起きしている。あと二匹の犬がいる。一匹はシェパード、もう一匹は人間を四つんばいにしたより大きな、茶色の優しい犬である。一応これで、犬も入れて家族が揃い、この家の生活がスタートした。私は、

  • 道のない道=村上尚子=(69)

     町枝に対する返事のとき私が強調したことは、私がいかに亭主関白で、タツヨに対して、良い夫でなかったとしても、タツヨの立場に立って私を責めることはない、何かお前は忘れていることはないか。それはタツヨは、

  • 道のない道=村上尚子=(68)

     女中は、じゅん(卓二の息子)の学校行きの支度をすることが条件で、三月二十五日に雇ったもの。初めのうちは、九時半頃までに来て、一応間に合う女中であったが、日が経つにつれ、だんだん遅く来るようになり、最

  • 道のない道=村上尚子=(67)

     私の会社の話に戻る。定刻に出勤しているのに、すでに仲間たちは来ていて、社内の掃除をしている。「そうか、言われなくても早めに出て来て、掃除をするのだな……」      日本ではこうするのか。次の日から

  • 道のない道=村上尚子=(66)

     話が途切れると、照れくさい! その時は自分にある癖を皆出した。耳を引っ張ったり、腕を振ってみたりした。すると、向こうの方から、少し胸を開いてきて、 「何か用かね?」と、優しく尋ねてくれた。それからや

  • 道のない道=村上尚子=(65)

     無口な友行には、こんな仕事は向かないのでは? と思うのだが、そこそこに契約を採って来ている。一度付いて行って、彼の仕事振りを眺めていたが、 かえってあの無口と誠実さで、話している声は理論的で優しく説

  • 道のない道=村上尚子=(64)

     どうやら、この寺の家族は、私を友行の嫁として、受け止めているらしい……困ったことになった。  寺では、父親が亡くなり、弟が継いでいて、かわいらしい息子と嫁もいる。母親は、一応この寺では、私の義母とい

  • 道のない道=村上尚子=(63)

     二人とも反対はせず、言葉が少なかった。母は、私の見送りのため、バスの停留所までついて来た。あの赤い土埃を巻き上げる田舎道で待っていると、バスはやがてやって来た。私は、バスに乗り込んで、発車し始めると

Back to top button