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アマゾンの動物――連載(10)=日本と異なる釣り風景=魚獲りに手製の爆弾?

ニッケイ新聞 2007年10月27日付け

 ◇魚の話(3)
 〔一本釣り〕これは、どこでも同じことで、仕掛けや餌など魚によって異なることは言うまでもない。ちょっと変っているのは、カノアでイガポー(増水期浸水地の森林)などで釣りをするとき、一メートルほどの紐をつけ、その先に鉛丸を何個か布に包んで縛り付けて、これを振って水を叩き、チャポン、ポチャン、プスンとやる。
 これは、木から実や虫などが水に落ちた擬音で、魚が寄って来る。すかざず餌を下ろすという工合である。
 また釣竿の先を水に入れて、ゆすり、ジャブ、ジャブ、ジャボッとやる。これは小さな魚が水面近くに集まって遊んだり、跳ねたりしている擬音で、肉食の魚が寄って来る。これには魚や鰐の肉を餌にする。
 日本では、近くで騒ぐと魚を脅かす、といって叱られたものだが、ここでは大分様子が違う。
 〔エスピニャール(漬け釣り)〕二十メートルくらいの太い釣り糸にやや細い枝糸を約一・五メートルの間隔で結び付け、約一メートルの糸の先に釣針、餌をつける。そして木の枝から枝へと張り渡す。何か所も仕掛け、一日に何回か見回る。
 餌はカタワリーという拳大の実で、これをもいで、カノアの中に放置しておくと、四、五日で軟らかくなる。これを切って釣針にかける。肉や魚だとピラニャや他の小さな魚に食べられてしまうからである。ソコローというぶどう大の実やカジュラナ(カジューのカスタニャの実に似ている)も用いる。植物性のものであり、他の小さな魚などに食べられないようにする。
 かかる魚はタムバキーやピラピチンガ、稀にスルビンもかかることがある。雑食性である。大きさは八十センチくらいから一メートルになるものがある。日本の鯛に似ていて美味、黒か黄色をしている。日本の魚とちょっと違っているのは、数条の枝を持った小骨がたくさんあって、調理と食べるのがちょっと面倒くさい。間違ってのどにでも引っかかったらたいへんな騒ぎになる。
 〔シシリカ〕十メートルくらいの糸のさきに、赤や青や白色の細長い布切れを釣針とともに結びつけ、櫂に縛り付ける。カノアを漕いで櫂を動かすと、それにつれてスーイ、スーイと動くので、肉食性の魚が食いつく。グイと引かれるので、振り返ると十メートルくらい後ろで魚が跳ねているという寸法である。ルアーフィッシングの原型だ。
 〔マリヤデイラ〕日本でいう刺し網である。最近はこれが増えて乱獲気味。魚が少なくなってきた。そのため、時期によっては、使用を禁止されている。
 〔レジ・デ・アラスタン〕地曳き網で、魚や亀を滅亡させると禁止されているが、未だ使用する者が後を絶たない。
 〔ボンバ・カゼイラ〕手製爆弾。魚群の中にこれを一発ブチ込めば、たちまち一面真っ白になるほど、魚が浮いてくる。これも禁止されている。
 〔タラッファ〕投網のことである。自家消費用にはこれがあればたくさんである。特に乾季、水の少ないときには偉功を奏する。水が増えてきて、投網が使えない、一本釣りや漬け釣りには早過ぎるというときには、食糧調達のため、夜灯をつけて眠っている魚を斬って歩く。二時間ほど真っ黒にたかってくる蚊と闘いながら斬って歩くと、翌日の食糧くらいは確保できる。つづく (坂口成夫、アレンケール在住)



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