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アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(15)=柔和が裏目、哀しきジュゴン=漁師に習性知られ、あえなく…

ニッケイ新聞 2007年12月5日付け

 ◇魚の話(8)
 〔ペイシ・ボイ〕(牛魚)
 ペイシは魚、ボイは牛のことである。牛魚とも訳さるべきだが、日本では儒艮(ジュゴン)と呼ばれる哺乳類である。遊水類あるいは人魚類ともいう。
 アマゾン河、オリノコ河、オヤポック河付近に生息し、現在は絶滅寸前といわれている。体長は一・八メートルから三メートルくらい、体重は二百キロを越すのも少なくない。体はイルカに似ているが、頭は牛に似ている。草食でその草を食べる様が、牛が草を食べるのに似ている。そのため、牛魚の名がある。
 眼は小さい。尾と後肢が一体になったものと思われる扇形の尾鰭があり、前肢は五指が膜でおおわれていて、鰭となり、牝には胸によく発達した乳房がある。この前肢で仔を抱いて乳を飲ませているところは、女の人が子供に乳を与えている姿を彷彿させるところがあり、そのために人魚と呼ばれる所以である。
 性質は柔和である。河の近くの湖中に棲み、草を食べる。乾季に水が減ると外の大きな湖水に移る。そのため、流れる草の大きな塊の下に潜んで脱出をはかる。漁師は湖の出口に待ち構えている。じっとしていればよいのに、モグモグと草を食べるから、すぐ漁師に見つかってしまう。漁師は銛を打ち込んで捕らえる。
 肉は牛肉に似たところと豚肉に似たところ、魚肉の味に似たところと、三様の味を持っているといわれるが、小生は牛肉に似たところしか食っていない。肉の乾燥品は長期の保存に耐え、一回揚げて牛魚の脂に漬け込んだものは、ミシラといってベレンの市場でも見たことがある。
    □
 いろいろたくさんならび立てたが、魚についてブラジルで注意しなければならないのは「サカナ」である。卑語で人を罵るときに使う言葉だ。紳士淑女が口にすること言葉ではない。
 話はだいぶ前に遡るが、アマゾンに上塚司氏の構想で、アマゾナス州パリンチンスとマウエスの近くにヴィラ・アマゾニア(アマゾニア村)がつくられ、高等拓殖専門学校の出身者がアマゾン開発の夢に燃えて入植したことがあった。
 これは年を追って一回生、二回生というようにいわれているが、始めはみんなチョンガーばかりであった。そこでお嫁さんを、というわけでブラジル渡航前に婚約したり、見合いをした人や日本にいる親類の人たちの奔走でお嫁さんを探したりして、かなりの数のお嫁さんが大挙して来伯したことがあった。
 当時は到着してあまり日が経っていない時分なので、ポルトガル語があまりわからない。生ッ齧りである。
 例によって、男連中が働きに出たあと、奥さん連中が集まって河の縁でワイワイ言いながら洗濯をしていると、カノアを寄せて魚を売りに来た。
 奥さん連中、カノアの周囲に集まって「あら、この魚ボニートよ」「イヤ、この魚のほうがグランヂだ」とか「ヤーダ、この魚はフェイウ、だ」などと、口々にサカナ、サカナを連発する。
 漁師は、自分の悪口を言われているとカン違いして、プリプリ怒って行ってしまった、と今でも当時のことを思い出しては、笑い種の一つになっている。それで「サカナ」は禁句で、もっぱらペイシと言わなければならない。つづく (坂口成夫、アレンケール在住)



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