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【印象記】「コーロンビァー!」コールが響き渡るクイアバ=宿無しで乗りこんだコロンビア人4人組と同じ屋根の下で

 6月23日、クイアバ市内の長距離バスターミナル。W杯コロンビア対日本戦の試合を翌日に控えたこの日、明らかにコロンビア人と日本人(飛行機ではなくバスを選んだ日本人観光客がいたことに驚き)と見受けられる外国人がターミナル内をうろうろしていた。
 別の取材のあくまでついで(サポーターの皆さんにとってはあるまじき発言ですが)としてクイアバ行きを直前に決め、出発までついに宿の手配ができないまま、「何とかなるでしょう」というブラジル在住4年の鈍った感覚のまま、サンパウロを出発してしまった記者も、その一人だった。
 前日22日午後4時過ぎにサンパウロのバラ・フンダターミナルを出発、ゴイアス州を通り抜け延々と景色が変わらない広大な大地を走行、28時間後に無事到着。疲労のせいで体の感覚が無い中、待ち合わせていた同僚のブラジル人記者とも無事に合流した。ホテル勧誘のチケットを持ってうろうろする怪しげなブラジル人の視線を感じる中、「勢いで来たはいいものの、今日の宿どうしよう…」と途方に暮れていたら、「バスの中で会った人が、この2泊、泊めてくれるわよ!」と同僚が満面の笑み。
 家族の住むクイアバに里帰りのため、同僚と同じ長距離バスに乗っていたサンパウロ州内陸部のオウリーニョス在住のブラジル人女性が、哀れな我々2人と、同じ状況、つまり宿がないままクイアバに乗り込んできていたコロンビア人4人の男子を泊めてくれるというのだ。「せっかく南米であるんだから、行かないとって。宿は行ったら何とかなると思ったんだ」。こんなコロンビア人、ひいては南米中のサポーターたちが、このブラジル大会には大挙して来たのだろうと納得した。

クイアバのバスターミナル内にあったW杯のオブジェクト

クイアバのバスターミナル内にあったW杯のオブジェクト

 彼女のお母さんと弟が既にターミナルに迎えに来ており、先にコロンビア人3人、その後残りの1人と我々2人を車で家まで連れて行ってくれた。「なんて幸運…」と、見ず知らずの外国人を泊めるブラジル人のホスピタリティの高さに脱帽しつつ、こざっぱりとした家のドアを開けると、先に家に着いていたコロンビアガイのフリオ、ダリオ、マウリシオ、フェルネイがげっそりした表情で床にへたり込んでいた。
 疲れを知らないブラジル人同僚(女)が「地元のフェスタに行きましょうよ!」としつこく誘うも、30時間近くの移動後でさすがに疲労困憊の様子で、「行かないよ・・・」と4人。サンパウロまではコロンビアから飛行機で来たものの、そこからは節約したかったのかバスで来たのだという。
 4人のうち1人はサンベルナルドに1年ほど住んでいるとかでポルトガル語を話せるようだったが、あとの3人はスペイン語だけ。記者も人のことは言えないが、「そんな状態でよく来たな・・・」と逆に感心しつつも、その日は(勘弁してほしいと思いながら)どこにも行かず、彼らと安堵の眠りに就いた。
 そして翌日。午前中のメインの取材を終えてスタジアムに駆けつけると、黄色、黄色、黄色。中に入ると「コーロンビアー!」の大合唱が耳をつんざき、四方八方、これまた黄色いユニフォームに身を包んだ集団が目の前に現れた。頭に「必勝」「日本」という文字が躍る日の丸鉢巻を巻きながらもスペイン語の歌をうたい、しかも記者を日本人と認めると不敵な笑みを送ってくるコロンビア人を尻目に、「下に見られてる・・・」と、俄かサポーターながらも胸糞を悪くする。

 あっという間の45分×45分。肩を落として会場を出ると、「サヨナラ!」と悪びれもせずに声を掛けてきたり、ハイタッチを求めてくる(どうでもよくなって応じた)ようなハイテンションなコロンビア人たちがそこに。
 そして、同じ屋根の下で寝たあのコロンビアガイ4人組。「イェーイ!」と雄たけびを上げつつ異様なテンションと国旗のフェイスペインティングを施し、昨日の憔悴した様子とは打って変わった彼らが目の間に現れた。「日本も頑張ったけど、やっぱりコロンビアだよね!」と慰めているのかそうじゃないのか、よくわからないテンションで記者の肩を叩く。
 少し離れた場所にあった車まで歩く間も、「あれ、セレソンが乗った車だよ!」と叫び出したと思ったらスタジアム前大通りの中央分離帯に集まり、行き去る車を国旗を持って見送り始めた。そのまま待ち続けようとするので、「もう行ったんじゃないの・・・?」とさすがにうんざりする我々のことも、気にも留めない様子。

試合後にテンションの高いコロンビアガイ4人組

試合後にテンションの高いコロンビアガイ4人組

 極めつけは、スタジアム近くの2箇所で見かけた陸軍の兵士たち。映画でしか観たことがないような迫力の戦車を取り囲むようにして無表情でたたずむ兵士の横を、コロンビア人たちと足早に立ち去ろうとすると、「日本人?」とにこやかに話しかけてくる一人の兵士。ぎょっとしながら「そうですけど・・・」と答えると、首に巻いていた日本代表のタオルマフラーを指し、「それ、くれない?気に入ったんだけど」。「・・・人に借りたものだから、無理です」。コロンビア人たちで〃占拠〃されたクイアバの夜は更けていった。(詩)

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