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《記者コラム》ワクチン接種完了に4年かかる?!=高所得国で打たない分回して=世界で圧倒的に不平等な配分

パズエロ保健相のあり得ない約束を報じるサイト記事

保健相「年末までに全国民に接種する」

 バズエロ保健相は上院の公聴会で11日、「ワクチン可能な国民の50%を6月までに、残りは年末までに接種したい」と大見得を切ったのを聞き、耳を疑った。
 どういう計算をしたら、そんなことが言えるのか。「どうせ分らないだろう」と国民をバカにしているとしか思えない内容だ。
 2月19日付エスタード紙電子版によれば、同日までに「575万6502回分」が実施された。1月20日頃から接種キャンペーンが開始されたから、ちょうど1カ月間になる。
 この数字は一見、大人数に見えるかもしれない。だが全人口2億1170万人のうちの、接種対象である18歳以上は約1億6千万人にもなる。2回ずつ接種しなければならないから、3億2千回分を実施する必要がある。
 年内に3億2千回分をやり終えるのであれば、毎月、接種人口の約9%ずつに実施しなければならないのに、この1カ月間の実績は1・8%にすぎない。
 つまり、目標の2割程度だ。今のスピードなら1年ではなく4~5年かかる。それまでにパンデミックは終わっている可能性が高い・・・。そんな小学生でも不可能だと分る計算を、上院の公聴会で堂々と発表する保健大臣というのは何なのか。唖然としてしまう。
 国民もマスコミもそんなにバカではない。事実、保健相の会見の前、1月29日付BBCブラジルは早々と《今のペースならブラジルが集団免疫に達するのに4年かかる》(https://www.correiobraziliense.com.br/brasil/2021/01/4903532-no-ritmo-atual-brasil-vai-demorar-mais-de-4-anos-para-ter-imunidade-de-rebanho.html)と報道している。
 そんなに遅延する理由として同記事は《保健省の計画性の欠如、コミュニケーションの葛藤、情報収集の問題、システムの失敗》を挙げる。
 ただでさえ接種キャンペーンが遅れているのに、ワクチンが不足して各地で接種が中止される事態に陥っていることは周知の通りだ。

25対1で国辱的大敗

マナウス市での接種の様子(2月14日、Fotos: João Viana / Semcom)

 単純計算して、575万回の接種を30日間で割ると、1日当たり19万回になる。それを5倍にすれば96万回/日だ。これが1年で接種を終わらせるために必要な数字だ。
 これを実現するのはブラジルにとって難しいことなのだろうか?
 実は、保健省はその体制をとっくに整えている。本来なら100万回/日はブラジルにとって毎年やっているルーチンワークにすぎない。
 ここで思い出すのは、保健省はもともとブラジルが誇るSUSを運営してきた堅牢なお役所だったことだ。ボルソナロ政権になってから、この保健省の人事をズタズタに壊した。優秀な上級官僚を次々にクビにして、軍人にすげ替えてきた。その数、十数人と言われる。
 2020年7月11日、オ・グローボ紙が主催したオンライン討論会でルイス・エンリッケ・マンデッタ元保健相は、「最も恐ろしいのは、彼が呼び込んだ軍人の数だ。軍の大佐、大尉、軍曹を任命するために、保健省から人脈も経験も豊かなキャリア官僚を追い出した。保健省は軍人のビーチ(庭)ではない。医者に戦闘の指揮を取らせるようなものだ。あるいは、サッカーW杯で代表選手をチームから外して、11人の大佐を投入するようなもの。その場合、(2014年ブラジル大会で被った)7対1ではなく、20失点を食らうだろう」とコロナ死者数が20万人になる可能性を前提にして皮肉った。
 ところがその20万人はとっくに過ぎてしまった。今は25万人を目前にしている。《25対1で国辱的大敗》と言い換えても良い。それどころか、ワクチンが遅れてパンデミック収束が遅れれば、死者30万人もありえる。

すばらしい予防接種システム持つブラジル

 同BBC記事には、保健省で全国予防接種計画(PNI)のコーディネーターを2011年から19年まで務めたカルラ・ドミンゲス氏のインタビューが出ている。
 いわく《ブラジルは遙かに多い数のコロナ・ワクチン接種が可能だ。風邪の予防接種では毎年、90日間で9千万人に接種している》とのこと。その間、3万人の医療従事者が雇われ、《一人当たり20~30人/日が可能。だから毎日90万から百万回の接種ができる》と証言する。
 かつてポリオ(急性灰白髄炎)、天然痘、麻疹などは、そのPNIによってほぼ撲滅されてきた実績がある。
 2月7日付エスタード紙にも《このままでは全国民に接種するのに4年間かかる》(https://saude.estadao.com.br/noticias/geral,no-ritmo-atual-brasil-levaria-mais-de-quatro-anos-para-vacinar-populacao-contra-covid,70003605805)という記事が掲載され、昨年の実績が紹介されていた。パンデミックが始まった後で「少ない」と言われた時期にもかわらず、昨年は100日間で5400万人の風邪予防接種を行ったという。
 つまり、コロナの30日間で575万人では、昨年の風邪予防接種のスピードより3倍も遅い。
 全国接種するシステムはとっくに構築されている。このシステムがフル回転すれば、問題なく年内に終わる。問題は、ワクチンの供給が圧倒的に足りないことだ。
 ここでものを言うのは、政府ベースで外交交渉して大枚をはたいて買い付け保証をすることだ。先進諸国ではそれをやっているから、十分な量を確保している。それが、ボルソナロ政権には見られない。それともやっているが、成果が上げられないだけなのか。

供給は足りるのか?

2月予定分の半分しか調達できないとの記事

 保健省は広報で《ブラジルは3億5400回分のワクチンを2021年中に確保している。内訳はFiocruzが2億1240万回分、ブタンタンが1億回分、Covax Facility4250万回分だ》としている。実際には3億2千回分で足りるから、少し多めに調達計画を立てている。
 保健省が調達予定を発表したのは1月分が1070万回分、2月分が1130万回分。本来なら1カ月分で2666回分(3億2千万回÷12月)が必要だが、その半分以下しか調達予定がない。だから、現在、各地で接種が止まってしまっている。しかも、21日付ブラジル・ヤフーニュースには《保健省は2月に予定した半分しか調達できない》(https://br.noticias.yahoo.com/ministerio-saude-tera-metade-vacinas-prometidas-fevereiro-150319817.html)との記事も掲載された。1130万回分のはずが、実際には560万回分しか手に入らないことが分ったというものだ。
 だが3月には、Fiocrizで英国製ワクチンの本格生産が始まるので、4603万回分が調達「予定」だ。
 4月は5726万回分、5月は46232万回分、6月は4263万回分が「予定」と保健省は発表している。
 だが、これは「捕らぬ狸の皮算用」かもしれない。「予定」通りに納品されるかどうか分らない。事実すでにそれが遅れている。
 その通りに調達できるなら、3月から100万回/日が可能だ。今までの遅れを取り戻すことすら可能。このダッシュに期待するしかない。

高所得国は2倍を確保、中低所得国は20分の1

ファイナンシャル・タイムス紙記事

 英ファイナンシャル・タイムス1月20日付電子版《世界のワクチンレースで低所得国が後れを取る》(https://www.ft.com/content/331ca95c-63fa-40de-8866-e3adccea3647)によれば、「ワクチン格差」がとんでもなく広がっている。その副題は《〝壊滅的な供給〟 貧困問題 国家は万人にリスクを与える》というもの。
 高所得国は総人口の2倍分のワクチンを入手する契約をすでにしたが、低中所得国は総人口の5%分しか確保できていない現実があるという。
 米ノースカロライナ州のデューク大学国際保健イノベーションセンターによると、人口約10億人が住む高所得国だけで、42億回分のワクチンを確保している。総人口への2回接種を、2回できる分のワクチンを確保している。
 それに対して、残りの人口66億人が住む中低所得国は、わずか6億7500万回分にとどまっているという。総人口のわずか10分の1にすぎない。2回分の確保という意味では、必要分の20分の1にすぎない。
 無論、日本は前者であり、ブラジルは後者だ。高所得国が必要なワクチンの2倍を確保しているのは、おそらく免疫の有効期間が1年という説もあり、さっそく2順目を確保しているのかもしれない。もしくは、ワクチン製造が遅れた場合などに備えて、代替え入手先を確保しているのか。
 結果的に、それが中低所得国を圧迫していることになる。だから、ブラジルがワクチンを確保するのは容易ではない。主要因が国内問題ではないからだ。
 だが、中低所得国は総人口の20分の1回分しか確保できていない中で、ブラジル保健省が3億5400回分を確保していると言っているのが本当であれば、中低所得国の分の半分をブラジルが独り占めしていることになる。つまり、実際にはブラジル政府はそんなに確保できていないだろう。「確保済み」ではなく、「確保する見通し」「確保したい」ということだ。
 だが、中低所得国の大半は確保ゼロであり、その中では「ブラジルは良い方」とは言える。
 同FT紙記事には、このままでは、低所得国の国民に接種が行き渡るまでに「3年程度かかるとの見通し」と書かれている。ブラジルの現実はその中にある。
 高所得国で「ワクチン怖い、打ちたくない」という国民の分を、さっさと中低所得国に回すべきではないか。

金持ち国に偏ったワクチン供給の実態

 世界保健機関(WHO)が支援してCOVAXという仕組みを作って、ワクチン供給の平等化を模索している。だが、現実には、高所得国はCOVAXの枠組みとは別に、ワクチンメーカーとの独自の供給契約を結ぶことで自国分を確保している。これは政府の取り組みであり、ブラジルにはこれが欠けていた。
 同FT紙記事で、南アフリカにある、ワクチンの公平分配を求める団体「ヘルス・ジャスティス・イニシアティブ」創設者のファティマ・ハッサン氏は「会社(ワクチン製造会社)は神のふりをしている」と厳しく批判する。生き死にを左右するワクチンの行き先を決める権利を会社が持っていることを「神」と揶揄する。
 高所得国とワクチン製造会社の間の販売は機密保持契約とされ、価格情報と供給量は厳密に守られているという。そちらが最優先される分、COVAXなどの世界に平等に配分するシステムへの供給が後回しにされているとの批判だ。
 高所得国のワクチン確保の詳しい現状が、その機密保持契約のために明らかではないことに関し、ハッサン氏は「彼らは透明性の欠如を煽っている・・・それは、このパンデミックの中で権力がどこにあるのかをはっきりと示している」と指摘する。
 WTOのテドロス・アダノム事務局長も「豊かな国の若くて健康な成人が、貧しい国の医療従事者や高齢者の前に予防接種を受けるのは正しくありません」と語っているが、それが現実だ。

ブタンタンの新工場完成は10月以降

コロナバックの新工場を報じるエスタード紙記事

 だが2月の現時点で、ブラジルで一番頼りになるのは中国製のコロナバックだ。現時点で、ドリア聖州知事は「ブラジルで接種されているワクチンの10回に9回はコロナバック」と豪語している。実際その通りだ。
 だが、それも量は足りていない。エスタード紙1月22日付(https://saude.estadao.com.br/noticias/geral,fabrica-da-coronavac-no-brasil-so-deve-ficar-pronta-em-outubro,70003590009)によれば、だから急ピッチでブタンタン研究所はコロナバック製造用の新工場を建設中だ。
 ただし建物の完成予定が10月で、それから許可申請や製造機器の据え付け・調整をして、実際の製造開始は年末から年明けではないかと言われている。完成すれば、原料から作れるようになり、一気に製造量は増える。
 とはいえ「年内に全国民に接種する」という目標からすると、すでにずれている。ある意味、「来年の大統領選に合わせて完成させる」ぐらいのペースで考えている可能性を感じる。
 現在のワクチンが効かないコロナウイルス変異株がそれまでに発生し、新しいワクチンを製造する必要に迫られている可能性もあり、そうなったら新工場は大活躍となり、選挙での効果も抜群だろう。
 ワクチンが間に合わずに、変異株によって感染が今後急拡大して、1年後に自然に集団免疫になるシナリオを想定してみたい。もしもコロナの実際の致死率が0・5%なら、2億1170万人の0・5%が亡くなる訳だから42万人だ。十分にありえる数字だ。致死率1%ならその2倍、82万人すらなる。

全員にワクチン、600レアルの緊急支援金を

「パンデミックの終わりまで、600レアルの緊急支援金を」の横断幕の前で気勢を上げる若者たち(Fotos: Elineudo Meira / @fotografia.75)

 その中で、この18日から気になる政治運動が始まった。「全員にワクチン。600レアルの緊急支援金を」という横断幕を持って、パウリスタ大通りなどの主要道路をふさぐ運動だ。見るからに、若手の左派運動家が中心になったもの。この標語は庶民層の心をくすぐるものだ。
 ボルソナロ政権がコロナ対策に失敗して経済回復が遅れて失業者がさらに増え、死者も30万人、40万人になった場合、「来年の選挙ではボルソナロ・セントロンは絶対にイヤだ」という、右左を超えた反政府勢力が大きくなる。
 それとこの動きが結びつけば、政局になる可能性を感じる。
 いずれにしても、ワクチン調達の可否は、来年の大統領選を左右する要因になるに違いない。(深)

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