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《特別寄稿》コロナで揺れるボルソナロ政権=日系女医ヤマグチさんの毀誉褒貶=サンパウロ市在住  駒形 秀雄

2019年1月15日、チリ・サンチャゴの学会で発表するヤマグチ・ニゼ医師(Carlos Figueroa Rojas, via Wikimedia Commons)

 アメリカやヨーロッパの先進国ではどうやらコロナ禍の抑え込みに成功したようで、マスクの不採用や域外旅行の自由化策採用で、国民はホット一息のようです。
 所で「我がブラジル」は国全体の認識の甘さもあったのか、新型コロナウイルス疫の感染者、死亡者数とも世界の上位を占め、国民の窮屈感は少しも緩んでおりません。
 ブラジル上院では「この様にコロナ制圧が上手く行っていないのは大統領以下の不作為、ミス等があったせいではないか?」と疑い、特別委員会を設けて、その原因、責任追及を行っております。
 この局面で今までは日系人の名前が挙げられてなく、私たちもあまり切迫感は持たずに過ごして来ました。ところが2週間ほど前から日系女医のヤマグチ・ニゼさんが一躍がマスコミで喧伝されるようになりました。
 このDraヤマグチの上院議員調査委員会(CPI)でのやり取り、関係者の反応などを以下、拙速ですが、ご紹介させてもらいます。

委員会の狙いはどこ?

 この委員会の目的はブラジル社会に大きな影響、損害を与えているコロナ禍の実情解析という事になっていますが、その実は政府の政策執行者を俎上に上げて、その責任を追及しようと言う所にあります。
 ここで「政府のやり方が悪くて47万人もの死者を出し、国民全般を苦しめて来たのだ」となれば、「現ボルソナロ大統領の評価、人気はガタ落ちし、来年の選挙では反対側の勢力が勝てる」という本当の狙いが達せられることになります。

# ヤマグチさんへの質問の主要点は?
(1)内閣には保健省という正式の担当機関がありながら、これと別に大統領府に「影の保健委員会」というのがあり、ここが国の保健政策、なかでもコロナ対応を取り仕切っていたのでないか? ヤマグチさんは正式な政府要員でもないのにこの委員会で発言し、医学的バックアップをしていたのでないか?
(2)クロロキンというマラリアの治療に使う薬がある。大統領は(米トランプに習って)このクロロキンの信奉者で、「これを飲んで居ればコロナに罹らない」と言っていた。ヤマグチさんはこの見解に賛同し、医者として支持していたという点の確認。
 委員会の審議(と言っても、ボルソナログループが悪いと決めつける様な訊問?)では、ヤマグチさんは上記の「誤り」を認めざるを得なくなったようです。ですが、何とかボルソナロ大統領他に責任が及ばない様にと、ウニャラクニャラと回りくどい説明をしようとするので、質問をした(反大統領側の)委員は業を煮やして「私はこういう質問をしているんだ、それにYESとかNOとかハッキリ答えろ」と迫ります。
 質問者は海千山千の上院議員サマ(その地方の名士で、票もお金も持っています)。これらの集中攻撃をうけて、可哀そうに、ヒトミさんは一人で逃げ場もない。断然劣勢に見受けられました。

ヤマグチさんてどんな人?

CPIで質問に答えるヤマグチ・ニゼ・ヒトミ医師(Foto: Jefferson Rudy/Agência Senado)

 ヤマグチ・ニゼ・ヒトミさんは、パラナ州マリンガ市出身、62歳。ガンなどの専門家でUSP大学付属病院などで教鞭を取っていました。ボルソナロが治療を受けた事もあるアインシュタイン病院にも勤務しており、学識、経験とも申し分のない方です。
 そんなヤマグチ先生の委員会審議での対応についての評価です。
(A)TVグローボ論説員の意見です。「ヤマグチさんは大統領とあまり関係がないと言っているが、大統領府の『影の委員会』にも度々出席しているし会っている。審議委員会の質問にも正直に答えていない(うそを言っている)。又ウイルス病変についての知識が不十分で施策関係者に誤った情報を与えていた可能性がある」と中々厳しい意見です。
(B)これと別にTVで中年の女性が語気も荒く何かを非難していました。てっきりヤマグチ非難かと思ったら逆で、審議会の上院議員(セナドール)達への非難でした。「私は新聞ガゼッタ・ド・ポーボの何々だ。この委員会のセナドール達の発言、態度が気に食わん。まるでmachismo(男性優位主義)の典型じゃないか。(か弱い女性の)ヤマグチさんの発言を遮り、自分の見解が正しいと押し付ける、machismoの横暴だ。政府側の施策が正しいか、誤りかの審議は別にして、まず、この女性抑圧の態度を変えることから始めねばならない。自分たち男性委員が偉いという態度に大いに抗議したい」と美人編集者は柳眉を逆立てて厳重抗議でした。
(C)自分の味方の女性が痛めつけられるのを見て、「これを見逃しちゃ男がすたる」と、今度はボルソナロ親分が登場して来ました。「審議委員のやり方は汚い。ヤマグチさんはこの会の参考人として『お出で頂いた招待者』なのに、何だこれは! まるで犯罪容疑者への尋問じゃないか! 大体、審議者の方が色々の違法行為を犯して来て、既に有罪の判定まで受けて居るのに、そんな口を利けるのか! 質問者(レナン・カリェイロ副委員長)の方がよっぽど汚れている。便所紙より汚いじゃないか」。
 さすがブラジルの大統領、何ともストレートな発言でした。

それでどうなる

右がレナン・カリェイロ上院議員(Foto: Leopoldo Silva/Agência Senado)

 コロナ禍CPIは、今までは保健大臣やヤマグチさんのような関係者とのやり取りでしたが、ここで大親分が口を出して来たので、さあ、これからどうなるか?
 一方は行政府のトップ大統領で、他方、「便所紙より汚れている」と名指しで非難されたのは立法府の重鎮、レナン氏です。これを悪くいうなら行政府と立法府の争いとも言われかねません。
 大統領は今までレナン氏がリードする「セントロン」グループの支持を得て政界を纏めて来たのに、ここへきてセントロンとケンカするのか? と気がかりになります。いかに強気の大統領でも議会の支持なしでは施策の実行は出来ません。更に次の選挙での勝利もおぼつかなくなります。
 ボルソナロさんは何か理屈に従うと言うよりも、その時の感情のまま行動し、発言する傾向があるようですが、「汚いやつ」発言はこの辺を考えての事だったのでしようか。
 そう思って情報を調べてみると、ボルソナロさんには次の行動の筋道が在っての事のようなのです。それは既存政党への加入の目処が立ちそうになっているようです。
 今までは所属政党のない珍しい《一匹狼》大統領だったのですが、やはり支持政党は必要です。ここで既存政党に加入するのは手っ取り早い解決策になりますし、氏を受け入れる政党も「政権与党」としてのメリットが期待できる、「寄らば大樹の下」と新規参入してくる議員もあるはずです。合併両者の利害調整さえつけば両者ウィンウインになるかもしれません。
 一寸先は闇の政界ですから、今後どうなるかは分かりませんが、コロナ禍議員調査委員会を通して政界現状の一端をご紹介しました。

今後ともご活躍を!

 話をヤマグチ・ヒトミ先生に戻します。良いか悪いかは別にして、これほどブラジル社会の中心部分で話題になった日系人は、しばらくの間いませんでした。
 ヤマグチさんは日系企業とか協会などのバック無しで、自分なりの能力と才覚でブラジル社会にその存在を示しました。
 一時は「保健大臣」候補にまで名が挙がった先生、立派なものです。「毀誉褒貶が激しい」とは、褒める人も多いがけなす人も多いという状態で、いわゆる「世間の評価のすごく分かれる人や事柄」のことです。まさに、現在のヤマグチ先生にぴったりの言葉かもしれません。
 これに懲りず、今後のものご活躍をお祈り致します。 BOA SORTE!
(ご意見はこちらへどうぞ→ hhkomagata@gmail.com

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