《ブラジル》臨終間近のコロナ患者を歌で看取る=穏やかに寝付き数時間後に昇天

「ハレルヤ、ハレルヤ(主をほめ讃えよ)」――ピアウイ州コレンテ市の病院で、新型コロナ感染症で入院していた女性に死期が迫っている事を感じた医師が、患者を落ち着かせるためにその傍らで歌ったところ、女性も一緒に歌った上、歌を聴きながら寝入り、数時間後に息を引き取るという出来事があり、静かな感動を呼んでいると12日付シダーデ・ヴェルデや15日付G1など多数のサイトで報じられた。
歌で患者を看取ったのは、合唱団の指揮者の息子で自らも合唱団などで歌ってきたという新任医師のマテウス・ロッシャさん(24)だ。
60歳を少し過ぎた女性患者の最期が近い事を感じたロッシャ氏が「心に届け」と願いつつ、病床の傍らに座して歌う様子は、同じ病院の理学療法士が録画していた。
ロッシャ氏が歌ったのは11日午後、女性が亡くなったのは12日未明だった。この女性は数日前に家族を一人亡くしており、11日も心が乱れて涙もろくなっていた。
彼女の状態を案じたカウンセラーは1日中、彼女に寄り添っていたが、肉体的にも弱っており、関係者達は長くはもたないと感じていたという。

回診中に彼女と対面したロッシャ氏は、これまでの体験から、彼女のために歌う事を決意。どんな曲を聴きたいかと訊ねて歌い始めると、女性は涙で目を潤ませ、一緒に歌おうとした。女性が穏やかになったのを感じたロッシャ氏は、彼女が寝付くまで、数曲を歌い続けたという。
ロッシャ氏が患者のために歌うのはこれが初めてではない。高齢者用の病棟の患者や妊婦、出産直後の女性などと心を通わせようとして歌った事があり、陣痛の痛みを和らげるために妊婦と共に踊った事もあるという。
ロッシャ氏によると、音楽は患者への抱擁であり、歌う事は患者の痛みを分かち合う行為だ。また、音楽は心を穏やかにし、連日の激務で覚える疲れや、患者の死などで受ける精神面のダメージを和らげるし、医療スタッフ同士や患者達と心を通わせる効果もあるという。
病床にある患者のために医師が歌った例は、サンパウロ州サンパウロ市や同州タウバテ市の病院などでも記録されている。
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