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文芸

連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第90回

ニッケイ新聞 2013年6月7日  ベッドの横に置かれた小さなテーブルの上には、氷と水、ロックグラスにニッカの「G&G」のボトルが並んでいた。サントリーオールドより越路吹雪のCMが流れる「G&G」の方が好きだと言ったら、美子はそれを買い置きするようになった。  氷入れグラスの中の氷は半分ほど溶けていた。ウィスキーのボトルも半分ほ ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第106回

ニッケイ新聞 2013年6月29日 「審査結果は出次第、こちらから連絡させていただきます」  一週間と言っていたが、五日後には結果が出ていた。融資可能という返事が電話で入った。三百万円とこれまでに蓄えた貯金を合わせれば、母親を共和国に行かせることはできる。予備校講師をしている限り銀行への返済は可能だ。しかし、共和国で暮らす家族へ ...

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『ピンドラーマ』6月号

ニッケイ新聞 2013年6月8日  コジロー出版社の情報誌『ピンドラーマ』6月号が発行された。  「ブラジル金閣寺を見守る大畑天昇さん」「ユバ農場」「超自然の奥義があなたを救う?」、政治経済やサッカーなど毎月のコーナーも。日本食店や土産物店等で配布中。問合わせは同社(11・3277・4121)まで。

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第91回

ニッケイ新聞 2013年6月8日  いつものように唇を腹部から下腹部に這わせていった。美子はため息とも喘ぎともとれる声を漏らしながら、児玉の愛撫を受け止めていた。 「顔を見せて」  美子が言った。児玉は美子の中に入り、突き上げるように腰を何度も上下させた。酒のせいか、あるいはいつも射精をコントロールされてきたせいなのか、果てそう ...

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楽書倶楽部、第18号

ニッケイ新聞 2013年6月26日  日毎叢書企画出版の『楽書倶楽部』第18号が発行された。  「わたしのハルとナツ」(広川和子)、「リッカダムとシンゴーダム」(荒木昭次郎)など全39作品。  問い合わせは同出版社(11・3209・5228)まで。

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第92回

ニッケイ新聞 2013年6月11日  在日の学生の多くは韓国の民主化、祖国の統一を懸命に模索していた。「北であれ南であれわが祖国」という思いを彼らは抱いていた。分断国家が統一され、確固たる国家が建設されれば、日本人の差別から解き放たれると考えている在日も少なくなかった。  帰化している美子に身の置き場がないのは当然だった。その話 ...

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刊行物『椰子樹』

ニッケイ新聞 2013年6月29日  椰子樹6月号(357号)が刊行された。  「わが愛する歌人 川田順」(橋本喜典)、「ブラジル歌壇を支えた人々 弘中千賀子、渡辺光」(小野寺郁子)「明治神宮春の大祭 佳作」、題詠「投 多田那治選」、作品集ほか。

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第93回

ニッケイ新聞 2013年6月12日  児玉と寝る時だけは、コンドームの着用をうるさく言わなかった。その理由を知ったのは、付き合うようになってしばらくしてからだった。彼女と食事をした後、テレーザは錠剤を服用した。 「いつも何を飲んでいるんだ」 「ビタミン剤よ」  児玉はその言葉を疑うことさえしなかった。  トニーニョは自分の寝室に ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第94回

ニッケイ新聞 2013年6月13日  テレーザは冗談のつもりなのだろうが、児玉は血の気が失せていくような気分だった。うなされながら朴(パク)美子(ミジャ)の名前を叫んでいたのだ。  それを知って以来、トレメ・トレメで寝ていても、うなされ夜中に飛び起きてしまう。午前二時、三時に目が覚めると、夜が明けるまで一睡もできない。児玉は仕方 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第95回

ニッケイ新聞 2013年6月14日 「本物は美味しいね」 「ニセモノなんてあるのか」児玉は不思議に思って聞いた。 「あるよ。パラグアイから入ってくるウィスキーはニセモノが多いのさ」  パウリスタ新聞にはパラグアイは酒好きには天国だと紹介されていた。パラグアイは海には面していないが、海軍がある国なのだ。アルゼンチンとパラグアイとの ...

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