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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(121)

 正輝、房子夫婦には数ヵ月前の悲しい事件のあと、ごくあたりまえの家族に戻ったように映った。だが、両親にとってはあたりまえのことだが、息子のひとりにとってはあたりまえではなかった。次男のアキミツは、長男以外のその他大勢の子として扱われた。それは子どもに対する両親の言葉、態度の差にはっきり表れていた。家庭で長男はいちばん大事にされる ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(120)

 しかし、ドイツ、イタリア、日本からの移民を取り仕切るには警官の数がたりなかった。日本人のなかには自分の家にラジオを持っていて、ラジオ東京の番組を受信できる者がいた。それを通じて、アジアにおける軍事行動をキャッチすることができた。日本政府の公式発表をもとに情報を謄写版印刷して配布することで、移民たちは大いに勇気づけられていた。 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(119)

 ブラジル人やヨーロッパ系の移民が正輝や日本移民に使う「ジャポン」というよび方が、今までより政治的差別語としての意味あいを増してきた。わざと日本移民の発音をまねた「ジャポン」といういい方が皮肉、軽視、軽蔑を表していた。自分たちとはちがった人間、人種、一段下の階級に属するというほかに、ブラジルの敵という意味が含まれだしたのだ。   ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(118)

 ヨーロッパ、アジアにおける戦争の進展、ブラジル政府の国粋主義強化は移民の生活を根本的にゆるがした。新しいブラジルへの移住の道は閉ざされたのだ。1941年8月13日、ブエノスアイレス丸がサントス港に錨をおろし、最後の移民471人が下船した。そのなかに房子の長姉、亡くなったウサグヮーの母、カマドゥーがいた。孫のエイソー(イイムイ  ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(117)

 この独特の味は沖縄出身者以外には奇妙な食べ物と思われたが、ウチマンチュには特別な食べ物で、みんなに好まれた。食べるときはまるで儀式でも行うようにうやうやしく、感謝や賛美の言葉を交わした。それ以前に火にかけられた熱い鍋に近づく者はだれもいない。 「やっと、いただくことができます」とか 「ヤギ汁をいただく機会に恵まれたことを感謝し ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(116)

 この方法を取れば、その場で一番融資を望む者は高い金額を記入する。金を必要としない人は金額を書かないこともある。融資を獲得したものはその場で、みんなに利子を払い、残りの全部を受け取る。頼母子期間の終了日近くに金を受け取るものはみんなから利子をうけとり、最後の人は利子を一銭も払わず掛け金全部を手にすることができる」  頼母子はだい ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(115)

 幸い、学校はそう遠くなかった。灌水用水門の先のボア・エスペランサ・ド・スール街道に出る土の道を歩き、オウロ川の向こう側の石切場を通り、ボア・エスペランサに向けて歩く。アララクァーラを通り過ぎ、500メートル行けば学校に着く。学校はアララクァーラで名の知られた富豪所有のルポ農場の一部に建てられていた。将来、正輝はほかの子たちも学 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(114)

 断片的にせよ、部分的にせよ、情報は日本人たちにきちんと伝わっていた。まぎれもなく強国アメリカに抗する作戦が成功し、アジアへの侵攻速度を増したことが伝わっていたのだ。軍事力の優位が戦場で示され、天皇の賢明さが日本帝国の不滅を象徴していた。そして、それが子どものときから植え付けられた天皇崇拝となって現れていた。  しかし、正輝はこ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(113)

 1941年11月5日、同月末日までに対米外交交渉を行うよう指令がだされたが、11月26日、アメリカは日本側から提示された条件を否定した。  12月1日、東京で軍事および文民閣僚出席のもとに御前会議が行われ、開戦が決定された。ワシントンあての日米外交関係の断絶の公式声明書が作成されたが、国家安全をきして、その発送が遅れた上、ワシ ...

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『絆 皇室とブラジル』=SC病院と本紙で無料配布

 サンタクルス病院(石川ヘナト理事長)が開院80周年を記念して刊行した『絆 皇室とブラジル』(二宮正人/二宮ソニア共著)。この無料配布について同病院に確認したところ、同病院(R. Santa Cruz, 398 – Vila Mariana)と、本紙編集部(R. da Glória, 332 – Libe ...

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