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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(178)

 このような話のもっていきようは正輝の心を捉えた。はじめに、とうてい信じられようもない神話を取りあげた。だが、次に「生長の家」の創立者はその神話に基づき、日本の国がどのように誕生し、日本人の思考がどのように形成されていったかを説いた。正輝が一番読みたかったことなのだ。そのうえ、その書は「八紘一宇」つまり、天下、全世界を一つに家に ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(177)

 谷口先生は他の宗教とちがって、「生長の家」が宗教でないということを主張された。したがって、ほかの宗教を信じる者を批判することはなかった。「『生長の家』は歴代の宗教を批判することはない。それどころか、各家庭で継続してきた宗教に従って、先祖をともらうべきだ」と著書に書いている。  「全ての宗教は世に光明をもたらすべく生まれた。いろ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(176)

 それは正輝が求めていた行動や思考だった。だからこの宗教団体が発行する書物を手に入れようとする読者が増えていくのは時間の問題だった。谷口の書物を手にしたとき、正輝は大きな衝撃を受けた。1920年以降、宗教関係の本を出した著者は日本精神、いわゆる大和魂を高く評価していた。「生長の家」の書物は強い愛国心を謳った日本精神について書かれ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(175)

 供え物が並べられた仏壇に一人3本ずつ線香(沖縄語でウーコー)を立てた。家族は手を合わせて祈る。まず、家長、つづいて妻、次に年上から順に息子、そして娘と順序が決められていた。末っ子のジュンジは一人ではできないので、房子が線香を立てた。  それが終ると、供え物がさげられる。それを沖縄ではウサンデーといった。  さげるとき深々とお辞 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(174)

 ほとんどがアララクァーラ在住者で、法務所の要請に従い、6月27日、DOPSの署長は市の警察にその責務を命じ、当地警察は彼らにブラジル生まれの子弟がある証拠を届け出るよう要請した。要請に応じ、担当者はすぐに書類を提出した。  8月5日、アララクァーラのヴィリアット・カルネイロ・ロッペス警察署長はそれらの書類をDOPSに送った。9 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(172)

 独裁政治、新国家体制の崩壊により、選挙が再開されることになり、選挙説明のキャンペーンがいろいろな学校で行われた。熱心な候補者が投票者を確保しようとマッシャードス区にやってきた。なかのひとり、ジョゼー・サントス技師は市長に立候補していた。知名度が高くなってきた「アデマール医師の党」とよばれるアデマール・ペレイラ・バロス党首の社会 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(172)

 独裁政治、新国家体制の崩壊により、選挙が再開されることになり、選挙説明のキャンペーンがいろいろな学校で行われた。熱心な候補者が投票者を確保しようとマッシャードス区にやってきた。なかのひとり、ジョゼー・サントス技師は市長に立候補していた。知名度が高くなってきた「アデマール医師の党」とよばれるアデマール・ペレイラ・バロス党首の社会 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(171)

 恥が気がかりの原因ではない。自分らしさを見つけるきっかけにさえなった。敗戦を認めることが世界観を変え、自分や家族の生きる道標を変えた。まずはじめに1945年の8月から彼をあざ笑っていた敵の方が実は正しかったと認めること。  認めたあと、どのような態度をとるか、よく検討すること。今となっては帰国の夢をはたすのは不可能で、ブラジル ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(170)

 そのひとつが獄中仲間と歌った「愛国行進曲」だった。年上の子どもたちは歌詞を暗記していて、大声でいっしょに歌った。  彼が確信していた日本勝利のニュースは、再び日本への帰国の夢をよみがえらせた。だが、今回は沖縄の家族のためではなく、日本が勝ったのだから、新しい国造りに貢献したいためだった。帰国は可能だと考えただけではない。それを ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(169)

 あるいは、もっとよりよい生活ができたかもしれない。ここにやってきた日本人家族のほとんどは、貧乏生活に耐えてきた。現在は、どうにか食べていけ、仕事があるといっても、渡伯時の夢、母国に錦を飾るというにはほど遠い状況である。正輝は自分が家族が生きているだけの最小の金しか得られず、金儲けする能のない人間だということをよく知っていた。 ...

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