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ニッケイ俳壇(901)=富重久子 選

セザリオ・ランジェ     井上 人栄 

ときめきの心にも似て春を待つ

【「春を待つ」丁度この頃の季節である。高階から外を眺めると、墓場の森など枯れ色が目立ち侘しい景色が目に入る。林立するビルの中庭や前庭の草木も枯れ色が目立ち、人の出入りもまばらで冬の様相をなしている。
八月から春の季節で、「ときめきの心にも似て」とは、若々しい作者の心情の表れであって、この一句を瑞々しい佳句となしている】

その中の大将らしき寒雀

【「寒雀」はよく軒下などに巣を造り卵を温める。都会ではあまり日本のような寒雀との付き合いは無いが、この句の「大将らしき寒雀」とは、本当に楽しい愉快な佳句であった。
どの俳句にも自然と作者の気持ちの込められた、明るい楽しい巻頭俳句であった】

スイナンの花が目印待ち合はす
老いぬれば春待つ心切実に
スイナンの萌え立つ赤や道標

カンポ・グランデ      秋枝つね子

木の葉髪真っ白くなり年聞かれ

【まことにひと年取って来ると、秋から冬にかけて抜け毛が多くなり手にとって白髪を見つめながら、「木の葉髪」とはクラシックなよい季語だなと感心している。
この句の様に「お幾つになられましたか」などと時々聞かれるが、私も外出する時は目立つところを染めている。しかしある程度歳を重ねると、白髪も美しいと思っている。
この句の「年聞かれ」の締めくくりがきっぱりと潔くて、この作者らしい佳句である】

冬の手芸爪楊枝入れ百個ほど

【作者は大変手芸が上手で、よく色々手作りのものを贈ってくれる。この句の様にたとえそれが小さな爪楊枝入れであっても、「百個」ほどとは驚かされる数である。
簡単でありしみじみとした佳句である】

冬夕餉あつあつうどんレストラン
冬朝餉焼き餅三つ醤油つけ

リベイロン・ピーレス    中馬 淳一

ピポカ炒る音はパチパチ機関銃

【子供が小さい頃は祭があると、きっとこのピポッカを炒ったものである。大鍋に入れて暫くするとパチパチと弾き出し、本当に勢いよく大きな音を出して弾ける。
この句の様に、勢いよくてまるで機関銃の音のようとは、全くその通り楽しいお祭気分の現れた佳句であった】

冬の蝶名もなき花に来ては舞ふ
冬苺ミルクをかけて旨いかな
聖像の立つ山眠る殿(でん)として

ポンペイア         須賀吐句志

日向ぼこおのづと決まる場所のあり

【最近天気のよい日に日向ぼこをする。時々風が冷たい時もあるが、そんな時はガラス戸の中でゆっくり一人の日向ぼこをしている。
この句の楽しいのは、「おのづと決まる場所」と言うことで、作者は何時もの気のあった友達と一緒の場所で日向ぼこをしながら、政治のこと、世の中の出来事、または俳句の事などと楽しい時間を過ごすのであろうと思われる。誰にも邪魔されない佳句であった】

名刺など要らぬつき合ひ日向ぼこ
次々に大学突破春を待つ
日向ぼこ何度も同じ話聞く

ペレイラバレット      保田 渡南

乳しぼる音にはじまる露の牧

【搾乳の仕事は早朝から始まる。牧野の草木に降りた秋の露はしっとりと冷えて朝日が昇ると輝きながら流れ落ちる。
露の牧を読んでしっかりとした写生俳句である。「露」は秋の季語、冬になると凝結して「露凝る」で冬の季語となる】

呼べば身をくねり犬来る日向ぼこ
神の名を侵して(おかして)テロやマスクせる
尺八を吹きし友なき夜の焚火

サンパウロ         林 とみ代

老いて尚旅の計画春を待つ

【最近ずっと旅をする事もなく打ち過ぎているが、心に余裕を持てるようになったら旅行くらい愉しいものは無いと思う。
この句の様にまことに「老いて尚」である。
季語の「春を待つ」が、尚一層楽しみを現わしていて明るい希望のもてる佳句であった】

体調の管理ひと先づ春を待つ
スイナンやオリンピックに日章旗
職安の列の人等や日向ぼこ

サンパウロ         大原 サチ

外套を着て颯爽と街をゆく

【ブラジルに来て一度も外套を着たことは無くそれくらい暖かい国であったが、どうしたことか今年は結構寒く、薄手のオーバーを着ている人を見かける。この句の様にこの時とばかり素敵な外套を、颯爽と着ている人を見たのであろう。中々珍しい佳句である】

短日やコーヒー喫茶も立ち飲みで
五時を打つあたりは暗き夕時雨
早朝のしじまを裂きて寒稽古

サン・カルロス       富岡 絹子

ターミナル人を恐れぬ寒雀

【ターミナルの人群れの中では、いろいろな動物が人馴れして紛れ込んでいる。例えば野良犬や鳩の群れ、それに入り口の方にはこの句のように寒雀などが、餌を探してやってくるのであろう。この句の「寒雀」は四・五羽が群れになってあまり人のいない端の方で、何となく餌を捜している姿を見かける。日常の暮らしから得たいい俳句であった】

笑み戻る明日を信じて春を待つ
スイナンの紅燃え尽きて夜のしじま
朝は裏午後は表に日向ぼこ

サンパウロ         鈴木 文子

冬うらら今日は年金貰へえる日

【人は誰でも、社会に出て毎月の給金の出る日は待ち遠しく嬉しいものである。ましてや長年働いて頂ける年金の日は、色々楽しみのあるもので、年金が出たら、孫に何か買ってやりたいとか、前からほしかったあの服を買いたいとか、年はとってもそんな楽しみは尽きないものである。
季語の「冬うらら」がよい選択であった】

三寒のクリームスープ滑らかに
貧に耐へ命縮めし瓢骨忌
七夕やリオ五輪への応援歌

サンパウロ         菊池 信子

寒雀庭の隅まで知り尽くし
指折って退院の友春隣
憂さ忘れのんびりしたき日向ぼこ
庭の虫せっせと探す寒雀

サンパウロ         平間 浩二

スイナンの入日に映ゆる深紅かな
赤と黄のツートンカラー風邪薬
日向ぼこ遥かに越えし父の歳
夫婦して心ひとつに春を待つ

サンパウロ         玉田千代美

癒えし身に春待つ心人いちばい
今といふ刻に生きてる日向ぼこ
耐ゆること慣れて老いゆく日向ぼこ
この歳でよくぞ生かされ春を待つ

サンパウロ         原 はる江

待春や老いも達者で旅をして
成す事なき夫は安らぎ日向ぼこ
ブラジルに老いる幸せ日向ぼこ
病気せぬ娘も風邪か起きて来ず

サンパウロ         上村 光代

庭の隅スイナン咲きて明るくす
ベランダで日向ぼこする親子かな
庭歩く冷たき風の吹き続き
寒雀空遠くまで飛び去りぬ

サンパウロ         鬼木 順子

朝寒や道行く人の丸まって

【最近の朝はまだまだ寒く、通勤の人通学の人など皆コートを着たり冬帽子を被ったりして厚着をして歩いて行く。その様子を「丸まって」とよい言葉で表現して、内容の様子がよく分かる俳句になっている】

早春や狭庭に雀群れ遊び
庭掃くや地虫目覚めてのろのろと
春暁や雲棚引きて茜色

ファッチマドスール     那須 千草

愛犬も日溜り選び日向ぼこ
捨て犬も飼へば愛しや春を待つ
七回忌巡る月日や寒雀
敷き詰めて落ちし金柑惜しまれる

マット・グロッソ      伊藤みち子

手紙書き押し花入れて春を待つ

【誰かに手紙を書いて、そっと押し花も入れて封をした作者。さりげない仕草のあらわれた優しい一句。季語の「春を待つ」がよい選択の佳句であった】

ぐっすりと朝まで寝たし咳もなく
病み上りほっと一息日向ぼこ
寒き夜孫の寝姿きにかかり

ピエダーデ         国井きぬえ

川辺りの桜満開楽しみぬ
寒つづき虫けら一匹見当たらず
厚着して友のミサには笑顔見せ
コスモスの色とりどりに咲き乱れ

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