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中島宏著『クリスト・レイ』

中島宏著『クリスト・レイ』第131話

 ただね、じゃあ、ここにいるすべての人たちが同じ考えを持っているかというと、必ずしもそうじゃないわね。もちろん、それぞれが考えるのは自由だし、この植民地でも、頭から強制するようにして、ここに住まなければならないという規則はないから、その辺はかなりの柔軟性があるといえるわね。  とはいうものの、私のように日本のことよりもブラジルの ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第130話

「ハハハ、、、マルコスも段々、ナショナリズムに洗脳されていくような雰囲気になってきたわね。まず、このブラジルの将来を考え心配するのは、すでに立派なナショナリストといえるわ。まあ、行き過ぎは困るけど、愛国心が徐々に燃え上がるようにして高揚していくのはいいものね。  ブラジルは、移民によって大きく発展してきたことは事実だけど、この辺 ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第129話

 まあ、そこに、この国の持つ大らかさと、将来への大きな発展を感じさせる何ものかがあるということになるけど、ここのように、大地に埋没するような世界で生きていたら、そういう瑣末なことも何だか吹き飛んでしまうようにも感じられるわね。  まさにここは、新天地であり、新世界でもあるということなのね。そういうふうに考えると、日本からの流れを ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第128話

 君が変な外国人だと、僕が半ば冗談で言っているのは、その辺りの性格が普通にはあまり見られないものだからだよ。一見、明るそうに見えても、その裏面には結構、暗い部分が隠されているという感じかな。  それが、アヤの性格を形作っているともいえそうだね。  そのことはつまり、歴史の一端がそこには隠されているということなんだろうけど、そうい ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第127話

 日本よりも、明らかにブラジルを向いて物事を考えるその性格は、本来の意味での移民という形からすれば、それが当然ともいえるものだが、しかし、実際にはなかなか、そこまで徹することができる人間は、一般の移民の人々の中にはいなかった。  このゴンザーガ区に一緒に住んでいる人々さえ、アヤを、ある点では自分たちとは相当毛色の変わった人間とい ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第126話

 もちろん、宗教に関していろいろな勉強はしてきたけど、それは私自身の為というか、個人的な興味本位での勉強だから、決して本格的なものではないの。  だから、もし本当に教会の仕事に徹するというのであれば、今の私にはその資格はないわね。まあ、事務的なこととか、ブラジル人への対応とか、その他諸々の雑用をこなす程度のことなら、今の私で何と ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第125話

「その両方かも知れないわね。特にこちらに来てしばらくは、その環境が日本とあまりに違い過ぎて、ちょっとしたショック状態だったわね。でも、そういうことは移民することの中に当然、含まれるものだし、これは私自身がしっかりしなければならないというふうに、自分を叱咤するようにして変えていこうとしたわ」 「つまり、努力したというわけだね」 「 ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第124話

 僕は、このブラジルという国から一度も外へ出たことがないから、そのことを本当に理解せよといわれても、ちょっと無理な話だけど、でも、そういう人たちを間近に見ていると、何かその辺りのことがおぼろげながら分かりそうな気分にはなるね。ところが、アヤを見ていると、その部分が全然見えて来ないんだ。そういう、故国を懐かしむとか、母国への望郷の ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第123話

 そりゃあ,外国人の多くが怠け者で、問題ばかりを起こすのだったら、考えなければならないでしょうけど、でも、現実は決してそうじゃないでしょう。ナショナリズムも分からないことはないけど、ブラジルのことを考えるとまだ外国人を規制するのは早いのじゃないかしら。もちろん、最近は世界の情勢がおかしくなってきているから、それに対する警戒心が大 ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第122話

 ただ、話すのがポルトガル語に変わったからといって、雰囲気が自由になるということではなかった。アヤのように、日本人であること自体が警戒の目で見られるという状況になりつつある今、以前のように、どこでもいつでも、簡単に会えるということは出来なくなった。無論、外国人に対する外出禁止令というほどの厳しい規制は、この時点ではまだなかったが ...

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