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日本の水が飲みたい=広橋勝造

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(72)

ニッケイ新聞 2014年1月4日 中嶋和尚は祭壇に集まった先駆者達にもう一度お辞儀をすると、 「ご焼香願います」と参列者に伝えた。西谷が率先して最初の焼香をした。彼の後に列が出来、焼香が続いた。 中嶋和尚はアマゾンの緑の大海に仏教の一滴を落とせたと思ったが・・・。 『南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経 ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(71)

ニッケイ新聞 2014年1月3日 「いつのひにかかえらん」 『いつの、ひーにか、かえらん』 「やまはあおき、」 『やまは、あーおーき、ふーるーさーとー』 「みずはきよし、」 『みずは、きーよし、ふるさとー』 先駆者の霊が精霊となって現れ始め、見る見るうちに驚く程の数になった。ほとんどが無表情を装った中に『故郷』の歌を一緒に口ずさ ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(70)

ニッケイ新聞 2013年12月25日  遊佐は、全員、立ち上がるのを確認して、タクトを大きく縦横に一振りし、 「きーみーがーよーぉは、ハイ」ハイとともに両手を上げて皆を誘い込んだ。 『きーみーがーよーおは、ちーよにーやーちよに、さーざーれー』 『いしのー、いーわーおーとなーりてー』  日本でも聞いたり歌ったりする機会が少なくなっ ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(69)

ニッケイ新聞 2013年12月24日  西谷が、 「なにが問題なのでしょうね?」 「御題目には問題ないのですが、一向に先駆者のプレゼンスがないのです。ここは無仏地帯のような・・・」第九章 故郷 脇にいた尾崎が、 「何が不足なのですかね? 先駆者達は慰霊祭に関心がないのでしょうか?」 「関心と云うより、慰霊祭そのものの意味が伝わら ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(68)

ニッケイ新聞 2013年12月21日  遊佐氏が手塩に掛けて作った日本庭園が大分傷められてしまった。  中嶋和尚が両脇のローソクを灯し、 「二〇〇七年五月十八日、第三トメアス日本人会と西谷輝久、アナジャス軍曹の喪主の方達にて、先没者の慰霊祭を」 「ちょっと待ってください。先没者達はアマゾン開拓のパイオニアです。ですから先駆者とし ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(67)

ニッケイ新聞 2013年12月20日  一人の中年男が西谷に、 「この坊さんの宗派はなに宗ですか?」  西谷に代わって中嶋和尚が、 「宗派はありません」 「宗派がない? それじゃー、坊主じゃないじゃないか!」  西谷が、 「どうしてそんな事言われるのですか。サンパウロの宮城県人会では宗派がない事で、無事に法要が営まれました」 「 ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(66)

ニッケイ新聞 2013年12月19日 「もう、大昔の話ですわ。ドブ掃除ではなく、養殖が難しく、非常に珍しい品種を町中の小川で見つけまして、それで、ドブに入ったと大袈裟に言われたわけです。・・・、そんな事もありましたね」 「新種もかなり発見したと聞いておりますが」 「アマゾンには品種が無限とあります。発見した新種は苦労させた妻や娘 ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(65)

ニッケイ新聞 2013年12月18日 「神様なんてとんでもない、熱帯魚漁師の松栄です」 「マツエさんはいつもアマゾンに来られるのですか?」 「毎年一回は必ず。河の水位が下がり、漁がやり易いこの時期に来ます」 「そうですか。アマゾンに生きる方達は沢山の苦労話があるのですが、あの本には苦労話が載っていませんでしたね」 「人間とは面白 ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(64)

ニッケイ新聞 2013年12月17日 「?! 省吾? あの省吾? 日本語を学びたい一心に、我々の小屋を毎晩訪れ、水運びを手伝って、あの少年が!? こんなに大きくなって!」 「もうあれから三十年ですよ」  遊佐氏が、 「省吾が日本人会長に選ばれると、最初にやった事が、西谷さんの墓標を立てる事でした」 「すんません西谷さん」 「遊佐 ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(63)

ニッケイ新聞 2013年12月14日  遊佐氏の音頭に合わせたアナジャス軍曹が、 「(?? ニシ・タニサン、どうして、この世に生還したことに?)」 「(実は私は死んでいました。ここの墓地に墓標が立てられていました)」 「(正に、仏教の教えで、死ぬ前に死んだのですね)」 「(そう言われればそうですね。私はマラリアで死の寸前にベレン ...

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