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日本の水が飲みたい=広橋勝造

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(92)

ニッケイ新聞 2014年2月5日 出発してからしばらく沈黙が続いた。トメアスの時と同じで、一行は『ナンマイダー』でむすばれた群衆との別れを惜しんだ。 第十四章 真理 アマゾンから帰って数日後、サンパウロのジョージのアパートで、中嶋和尚が麻の法衣にアイロンをかけていた。 「戻りました」ジョージが普段より早く仕事から戻ってきた。 「 ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(91)

ニッケイ新聞 2014年2月4日 「・・・なんまいだぁ(ミーミーミーミ)、なんまいだぁ(レーレーレーレ)、なんまいだぁ(ドードードード)、なんまいだぁ(ドードードード)、なんまいだぁ(ドードードード)』 ― 『ナンマイダー』は、手拍子も加わって大合唱となってしまった。そして、祭檀を包み、祭壇の奥に広がる密林に伝播していった。 十 ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(90)

ニッケイ新聞 2014年2月1日 「(『ナムアミダブツ』と唱えて下さい)」 アナジャス軍曹は測量班で一番年上の男に、 「(あの『ブッダ』のミサは熱気があって、理屈なしに安らぎを感じ、すごくよかった)」 「(さっそくミサをしてほしい。事故で亡くした同僚達の為にも)」 「(で、この集まった群衆は?)」 「(ここでは滅多にないチャンス ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(89)

ニッケイ新聞 2014年1月31日 【(軍曹!あの測量班の飯場です)】無線機が鳴った。 「(罠かもしれないぞ注意しろ! 障害物を取り除け!)」 【(了解!)】二人の兵士はジープから飛び降り容赦なく障害物を壊し始めた。 「(なにする!やめろ!)」そう叫びながら男が飛び出てきた。 男は測量班の炊事係りであった。 「(命令だ、先を急ぐ ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(88)

ニッケイ新聞 2014年1月30日 「中嶋さんが心を乱すなんて」 「日蓮が創した『日蓮宗』と、親鸞が創した『浄土真宗』は『般若心経』を使用していません」 「彼等も先輩の僧侶に怒ったでしょうね」 「親鸞や日蓮聖人は、『浄土三部経』や『法華経』等を基にして、それをさらに『南無阿弥陀仏』や『南無妙法蓮華経』と凝縮、簡素化して普及させま ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(87)

ニッケイ新聞 2014年1月29日 中嶋和尚は二度続けて『般若心経』を盾として、大自然の挑戦に逆らった。どうしてこの経典を唱えたのかは彼自身も分からなかった。 二台のジープは競ってエンジンをかけた。 「出発です」 タイヤ交換を手伝っでズボンを少し汚し、シャツを汗で滲ませた西谷の声に中嶋和尚は我に戻った。 「あっ、はいっ」 エンジ ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(86)

ニッケイ新聞 2014年1月28日 中嶋和尚は、何かを探すよう様に目をしっかりと開き、前方のどこまでも続く密林の風景に見入っていた。舗装工事の為の測量班が立てた目印の杭や、作業員が作った雨よけの小屋が点々と現れた。しかし、密林の中に仏様の存在を感じる事はなかった。 密林を強引に引き裂いて作られた街道に立ちはだかる大木が切り倒され ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(85)

ニッケイ新聞 2014年1月25日 「夢、とか大志だ」古参の一世が省吾を助けた。 「そう、夢を取り戻し、こんなドンチャン騒ぎになるとは想像もせんかったです。皆、なにか強い力を授かった様な、うちが小さかった頃の開拓時代の貧しく苦しかったばってんが、底抜けの楽しさと希望を取り戻した様な、そんな気がしたと。オショウサン、ありがとうござ ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(84)

ニッケイ新聞 2014年1月24日 「仏教では輪廻と云って、人は、死ぬと六道のうちの何れかの世界に生まれ変わってきますが、西山さんはその六道の中の地獄のような密林の『地獄道』、飢えの苦しみを味わって『餓鬼道』、それらと戦って『修羅道』、牛馬の様に働いて『畜生道』と、一度に経験されたのですね」 「そんな酷い苦労はしていませんが、そ ...

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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(83)

ニッケイ新聞 2014年1月23日 『宴会やお祭りが好きな仏様や神様がたくさんおられます。それで、この宴会が開かれたのです。この酔っ払いの方達は、もしかして酒好きの仏さま達の化身かも知れません。お願いです。成仏して、輪廻転生によって、また、人間に生まれ変わって来てください』 《我々も生まれ変わって新しい人生が・・・、始められるの ...

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