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アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(16)=ミーリョ畑荒らす尾巻猿=群れの首領株仕留めて防御

ニッケイ新聞 2007年12月12日付け

 ◇獣の話(1)
 アマゾンは植物の天下である。赤道直下の太陽の下、高い気温と湿度、植物の繁茂には最適の条件であり、樹木や水中や低湿地を除いた乾燥地(陸上)に棲む動物はあまり多くない。特に巨大な犀や象のような動物はいない。僅かにアンタがいるだけである。
 猛獣も虎やライオンはいないが、アメリカライオンと呼ばれるオンサがいる。しかし、これもやたらに人を襲ってくるものでもない。逐次話をすすめる。学術書でないので、興味のあるもの、変ったものなど、話のタネになりそうなものだけを拾っていく。

 哺乳類
 ◇猿類
 〔グワリーバ〕(吼猿)
 何種類かあって、アマゾン河の北岸に棲むものは赤褐色、両脇は金色で、光線によっては燃えるような赤に見えることがある。
 南岸に棲むものは、暗褐色か黒色だそうだが、見たことはない。体長六十~七十センチで、頭が大きく頬と顎に髭がある。舌骨とも咽喉仏ともいうが、それが著しく発達して、気嚢をつくり、大きな声を出す。
 それで吼猿の異名があるが、夜明け、日没、それから風が立って雨が降る前に吼える。始めはオウッ、オウッと様子を見るように吼え始めるが、これに呼応してあちこちの森からオーオーウーウーと始まり、忽ちグワー、グワー、ゴーゴーと凄い合唱になる。
 その最盛時には、森の中の空気がビリビリするほどである。それが不思議にフッと、一時止まる。中にはオウッと言いかけて慌てて止めるオッチョコチョイもいて、ご愛嬌である。
 一回、雄の仔をインジオにもらって飼ったことがあったが、どうも気が荒くていけない。ちょっとしたことで喰いつく。そこでクロロフォルムを嗅がして眠っているうちに去勢してしまった。眠りから覚めたら途端におとなしくなって、愛嬌を振りまいたのには大笑いだった。家族の者にはよく馴れて、年中誰かにぶら下がっていたが、一週間ほど家族連れで家を留守にしたことがあった。
 留守番の者がいくら餌をやっても受け付けず、私たちが帰り着いた日の朝早く、私たちの着くのを待たずに死んでしまった。こんなだったら一緒に連れて行くんだったと悔やんだが、あとの祭り。人に迷惑をかけまいと置いていったのが仇になってしまった。野性の動物でもよく馴れるとこんなになる。
 〔マカコ・プレゴ〕
 マカコは猿、プレゴは釘のことで、どういうわけでこんな名前になったかわからない。ニホンザルくらいの大きさで、行動敏捷、群れをなして生活する。カカオ園やトウモロコシ畑を荒らしにやってくる。
 首領株のが近くの高い木に登っており、号令一下統制の取れた行動をする。ちょっとでも怪しい者(人間)が見えると、すぐに警告を発して引き揚げさせる。何回かこれにやられて一計を案じ、いつも来る所の近くに猿の出る時刻より少し早く行って隠れていると、例のごとくやって来た。
 首領株がいつもの枝に座り込むのを見て、静かに猟銃の狙いをつけて、ズドンと一発。猿はもんどり打って落っこちる。落ちながら下の枝にしがみついて悲鳴をあげる。
 それでトウモロコシ畑にいた猿どもは、一斉にトウモロコシを放り出してテンデンバラバラに逃げてしまった。首領株は、なおもしぶとく枝にしがみついていたが、やがてドスンと落ちてきた。それでも歯を剥きだして噛み付こうとするので、近くにあった手ごろの木の枝でお面一本やると、やっと静かになった。昼飯のおかずになったか、晩飯のおかずになったか覚えていないが、おとなしく胃の腑に納まったことはいうまでもない。その後しばらく猿の害もなく、平穏だった。
 インジオたちはこれを飼っている者もいるが、騒々しく好奇心が強くて、とても飼う気になれない。日本では尾巻猿といわれる。 つづく (坂口成夫、アレンケール在住)



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