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日系職人尽くし―ブラジル社会の匠たち―最終回=トートーメー 先祖を祀る聖域=沖縄独特の様式美継承

11月22日(土)

 一九五六年、中学二年でブラジルに移住した具志堅克珍さん(六一、沖縄県出身)は、サント・アンドレー市パルケ・ジャサトゥーバ区バトゥリテー街で注文家具屋を営んでいる。克珍さんが三歳の時、第二次大戦で戦死した父、克松さんも、克珍さんの伯父たちも指物大工だった。「はじめは農業や旋盤工見習いとかしていたけど、何となく大工になった。やっぱり、興味があったのかな」。恥ずかしそうに語る克珍さんだが、その技量は確か。特に、沖縄式仏壇とトートーメー(位牌)は目を見張るものがある。

兄弟で開業

 克珍さんは来伯後、ブラジルの学校に通い、六二年に長男の昌盛さん(七〇)、次男の克勇さん(六五)とともに、兄弟三人で家具屋を開いた。当時は昌盛さんが棟梁で、克珍さんは見習いから開始。さまざまな技術を身につけて九六年に独立、今年で指物大工歴四十一年のベテランだ。
 克珍さんのもとで最も注文が多いのは沖縄式仏壇。月平均で三台、多い時は四、五台を制作するという。実は、サント・アンドレー市内に『仏壇造りの具志堅』は克珍さん、兄の昌盛さんのほか、もう一人いるらしい。同市を含めサンパウロ州には沖縄県系人が多く住み、需要はかなりあるようだ。

仏壇とトートーメー

 沖縄式仏壇は和ダンスの上部が四枚の引き戸になったような形。引き戸の中にはトートーメーを置くための雛壇があり、また、引き戸の下には供え物を置くための引き出し式テーブルが付いている。大きさは幅一〇〇センチ、高さ一八五センチ、奥行き五三センチが主流という。
 克珍さんが仏壇造りで気にかけることは、まず、寸法と仕上げ。傍らにいる妻、洋子さん(五五)も、「この人は几帳面でね。いつも、まじめで一生懸命」と太鼓判を押す。そして、「あまり古い感じにこだわらず、今の家具に合ったデザインにすること」とも。新しい感覚を取り入れた仏壇は、隣に洋服ダンスを置いても違和感がない。ただ、「トートーメーを置く部分だけは、沖縄風を残す」と、克珍さんはきっぱり。先祖を祀る聖域だけは、沖縄独特の様式を継承させている。
 沖縄の先祖崇拝の対象として代々継がれ、非常に重要視されているトートーメー。克珍さんはこのトートーメーをセードロなど堅木を切って削り、組み合わせて作り上げる。漆の代わりに黒い塗料をのせ、金箔で模様を付けた上、ニスを十回も重ねてようやく出来上がる。「先祖代々受け継ぐものだから、ずっと拝んでもらえるよう考えながら作る」と克珍さん。真っ赤な札には『帰元霊位』の文字が刻まれている。

天職

 克珍さんの顧客は、圧倒的に沖縄県系人が多い。ある日、克珍さんは、仏壇を見に来たおばあさんにこう言われた。
 「あんた、長生きしておくれ。あんたがいなくなったら、沖縄の位牌を作る人がいなくなる」。
 顧客が喜ぶことが、克珍さんの栄養源だ。仏壇の引き戸の桟を組むのに四時間以上かかろうとも、このおばあさんの嬉しそうな声を思い出せば、時間はあっという間に過ぎるだろう。
 九九年から二年間、愛知県へデカセギに行った時に購入した日本製のカンナやキリ、ノミなど大工道具を広げて、子どものように目を輝かす克珍さん。「小さい頃は絵が好きで、絵描きになるのが夢だった。でも、いまは、指物大工が自分の天職だと思っている」。親から子へ、脈々と受け継がれるトートーメーのように、克珍さんにも、亡き父、克松さんから授かった職人の血がとくとくと流れている。
(門脇さおり記者)

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