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身近なアマゾン(39)――真の理解のために=ウォーレスの150年前の記述=ネグロ川、今と同じ状態

2007年4月13日付け

 □探検採集人ウォーレスとアマゾン盆地(2)
 しかし、二〇〇三年の春だったか、偶然の出会いなのか、「アマゾン探検記」という本を見つけたのだ。その本の著者がこのウォーレス氏で、目次をみてみると、そこにはネグロ川のことが満載されていたのだ。
 今を遡ること百五十年、その時代にすでにヨーロッパ人がこの秘境の土地を訪れて採集活動をやっていたことを知った。驚きであった。
 しかし、その翻訳文を読み進めてゆくと、現在となんら変わらない事柄の連続で筆者はうれしくなってしまった。
 現在のマナウスは、当時はまだその名はなく、バーラという地名で呼ばれていて、ここに辿り着くまででも非常な苦労をしている。そして食べ物なども、現在のように簡単に手に入らないようで、苦労してインディオからキャッサバの粉(ファリーニャという)を分けてもらって、つましやかに食っている姿が表現されている。
 そして、舟でネグロ河を朔上するためにインディオを雇い、ヘモと呼ばれるオールで手漕ぎで川を上がってゆくのだが、現在と同じようにインディオに逃げられたり、お金を騙し取られたりしているのが書かれており、現在と何も変わっていないことが読み取れ、当時もヨーロッパ人でも同じ苦労を味わっているのか、と思うと、このウォーレスさん(ここではあえて、「さん」付けで)という人にとても親しみを感じてしまうのである。本題に掲げた「身近なアマゾン」という感じがしてくる。
 ウォーレスさんという人が、どこにでもいるブラジル人の隣人のような存在となって、筆者に呼びかけてくるような気持ちにさせられてくる。
 探検記を読むと、当時のネグロ川は今のそれと全く同じ状態で何も変わっていない。しかし、このウォーレス氏の旅にはオチがついていて、筆者には涙なしには語れないのだ。
 四年の歳月をかけて大金も遣って、涙ぐましい仕事をして集めたインコを主体にした獲物や資料を持って英国への家路についたのが一八五二年七月二日。ベレンでようやく船を見つけて全てを積み込んで船出するが、船がバーミューダ海域に達した時限で、火災が発生、数本のダンボールを残して、大半の資料と獲物はすべて大西洋の藻屑と消えてしまう運命をたどることになる。
 本人と少量の資料は、不幸中の幸いで、二週間近く大西洋を漂流したのち、幸いにも付近を通過した船に助けられて、英国に十月一日に帰りつくことになる。
 そんな不運なことが起こったので、探検記も情報も全てウォーレス氏の頭に残っていた記憶からのものとなった。ダーウインはウォーレス氏のことを無能扱いに近い評価しか残さなかった、という記録がある。
 ダーウインの彼に対する期待の大きさと、落胆の大きさを如実に表しているような歴史上の事実があった、ということなのだろう。つづく (松栄孝)

身近なアマゾン(1)――真の理解のために=20年間の自然増=6千万人はどこへ?=流入先の自然を汚染
身近なアマゾン(2)――真の理解のために=無垢なインディオ部落に=ガリンペイロが入れば…
身近なアマゾン(3)――真の理解のために=ガリンペイロの鉄則=「集めたキンのことは人に話すな」
身近なアマゾン(4)――真の理解のために=カブトムシ、夜の採集=手伝ってくれたインディオ
身近なアマゾン(5)――真の理解のために=先進地域の医療分野に貢献=略奪され恵まれぬインディオ
身近なアマゾン(6)――真の理解のために=元来マラリアはなかった=輝く清流に蚊生息できず
身近なアマゾン(7)――真の理解のために=インディオの種族滅びたら=言葉も自動的に消滅?
身近なアマゾン(8)――真の理解のために=同化拒むインディオも=未だ名に「ルイス」や「ロベルト」つけぬ
身近なアマゾン(9)――真の理解のために=南米大陸の三寒四温=一日の中に〝四季〟が
身近なアマゾン(10)――真の理解のために=アマゾンで凍える?=雨季と乾季に〝四季〟感じ
身近なアマゾン(11)――真の理解のために=ペルー国境を行く=アマゾン支流最深部へ
身近なアマゾン(12)――真の理解のために=放置、トランスアマゾニカ=自然保護?改修資金不足?
身近なアマゾン(13)――真の理解のために=クルゼイロ=アクレ州の小川で=狙う未知の魚は採れず
身近なアマゾン(14)――真の理解のために=散々だった夜の魚採集=「女装の麗人」に遭遇、逃げる
身近なアマゾン(15)――真の理解のために=眩しい町サンタレン=タパジョス川 不思議なほど透明
身近なアマゾン(16)――真の理解のために=私有地的に土地占有=貴重な鉱物資源確保目的で
身近なアマゾン(17)――真の理解のために=近年気候変異激しく=東北地方、雨季の季節に誤差
身近なアマゾン(18)――真の理解のために=ピラニアよりも獰猛=サンフランシスコ川=悪食ピランベーバ

身近なアマゾン(19)――真の理解のために=異臭発しても観賞魚=円盤型、その名の意味は?
身近なアマゾン(20)――真の理解のために=ディスカスの自衛方法=筆者の仮説=「あの異臭ではないか」
身近なアマゾン(21)――真の理解のために=タパジョス川の上流に=今は少ない秘境地帯
身近なアマゾン(22)――真の理解のために=ゴールドラッシュの終り=河川汚染もなくなった
身近なアマゾン(23)――真の理解のために=環境破壊を防ぐ行動=国際世論の高まりのなかで
身近なアマゾン(24)――真の理解のために=乱開発された土地に大豆=栽培の競合もつづく
身近なアマゾン(25)――真の理解のために=コロンビアとの国境近くで=知人の訃報をきく悲哀
身近なアマゾン(26)――真の理解のために=インディオの「月」の解釈=ネグロ川上流できく
身近なアマゾン(27)=真の理解のために=肥沃な土地であるがゆえに=自給自足生活が営める
身近なアマゾン(28)――真の理解のために=モンテ・アレグレの壁画から=古代日本人の移住を思う
身近なアマゾン(29)――真の理解のために=人間に知られないまま絶滅=そんな生物も多かった?
身近なアマゾン(30)――真の理解のために=命を賭した移民の開拓のあと=説明できない悲哀が…
身近なアマゾン(31)――真の理解のために=漁師に捕獲されれば=食べられてしまう=ペイシェ・ボイ「雄牛魚」
身近なアマゾン(32)――真の理解のために=日本語を話した?カワウソ=すごく笑いがこみあげて来た
身近なアマゾン(33)――真の理解のために=自然保護活動と山火事=何億の動植物が灰になる?
身近なアマゾン(34)――真の理解のために=根本的な自然保護策は?=道をつくらないこと
身近なアマゾン(35)――真の理解のために=ブラジル全域で哀悼の意=英雄セナの死に際して
身近なアマゾン(36)――真の理解のために=忘れ得ぬセナの輝き=それはブラジルの輝き
身近なアマゾン(37)――真の理解のために=ダーウィンへの情報提供者=150年前、探検・採集していた
身近なアマゾン(38)――真の理解のために=命がけの採集仕事だった=ダーウィンの助手?=「ウォーレス線」で名残す

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