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身近なアマゾン(43)――真の理解のために=お経を唱え終わったら=機体は水平、眼下に緑の樹海

2007年5月17日付け

□ネグロ川からの帰り道。飛行機に揺られて(3)
 そして一心に〔はよー!はよー!このパニックから解放してくれ、神様お願い!はよー、はよー〕心の中で大阪弁で叫んでいるのだ。
 時々知らぬ間に私の口から〔うわー!うわー!うわーー!〕という声が、自分の腹から出てくるうなりが、自分の耳に聞こえてくるのだ。
 そうしているうちに、上下左右運動の中で、はたと考えたのだ。このような状態で、どのくらい時間が経ったのだろうか。時計を見ると、もう四十分もこの状態が続いているのに気が付いた。こういう状況におかれていると、時間が物凄く長く感じられるが、その時、私の頭の中に別のことが浮かんだ。
〔燃料切れ?これはヤバイなー〕
 女房、子供の顔が突然脳裏に浮かんできた。
〔これは危ないかな?〕。
 サン・ガブリエルからテフェまでの飛行時間が一時間、余分に一時間分のリザーブ燃料を入れていたとしても、もうそろそろ燃料は空(から)、という時間にかかってきていた。
 この状態で嵐をやり過ごしても、〔空港まで到着するのに、燃料切れで墜落?〕という考えが頭の中を走りだした。新たな恐怖が出現。
 こうなったら頭の中は真っ白である。〔もう何も考えないでおこう〕と一生懸命自分で自分に言い聞かせて、念仏を唱え始めた。
 筆者は何故か浄土宗の浄土宗勤行式という〔お経〕を暗誦していたので、この時は助かった。こういう時に出てくるお経というのは、砂漠でオアシスのような作用がある。
 そうしてお経を一心に唱えていると、突然、本当に突然、[フーー]という感じで飛行機の揺れが止まったのだ。
 明るーい、なーんにも無い、水平飛行に〔ポッ〕と戻ってしまったのだ。自分も〔フーッ〕と大きな深呼吸、十秒前のことが、まるっきり嘘のような世界になった。
 しがみついていた前席背もたれの手を離し、明るくなった窓から外を覗くと、緑のアマゾンの樹海が眼下一杯に広がっていた。「助かった!あー助かったー」
 緑の樹海を見た瞬間、私の安堵の思いは、何物にも変えがたいものだったのだ。
 〔ほっ!〕として全身から力が抜けていた。しかし相変わらず心臓の鼓動は全く治らない。きっとスコールを伴う強烈な熱帯低気圧(テンポロン)に突っ込んでいったのだろう。
 機はそこから方向を修正して、のーんびり、本当にのーんびり、という感じで高度を下げながら、乾燥で湖の底が露出して牧草が生えて緑になってしまったテフェ湖を越えて、無事テフェ空港に着陸したのだった。
 ちなみに、飛行機から降りて一時間以上も心臓の鼓動が正常に戻らなかった。
 私のお陰で飛行機が二十分遅れて出発した、ということが幸運だったのか、不運だったのか〔神のみぞ知る〕、しかしこうして、この原稿を書いているということは、やはり、幸運だったように考えている。
 そして想像してしまったのだ、同じように一時間以上も彷徨して、雄鷹山に墜落した、日本航空ジャンボ機102便だったか、四百人以上の乗客の方々の「恐怖」がいかほどのものだったか、ということを。
 二〇〇七年一月現在、すでにサンガブリエルへは四十回は行った計算になる。毎回といってよいほどこの小型飛行機にのっているが、その毎回本文の恐怖を思い出している。しかし、その後同じような経験はないので救われている。できれば今後もこのような目には遭いたくないものだ、といつも考えている。つづく       (松栄孝)

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